レティさんから逃げる




 レティさんにされた日から今日で大体一月が経った。


「今日も、レティにいじめられたの?」


 あれから、訓練所では毎日のように昼休憩のあとに呼び出されては同じように拒否すれば暴力を振るわれ、その後毎日ソフィさんに家に来てもらって僕のことを癒してもらう生活が続いていた。

 魔法を使っても痛いものは痛いし心は少しずつすり減っていった。

 ソフィさんやライオットさんに助けてもらおうにもレティさんの実家的にここで抗議をすれば二人は他の国との国境に移動させられて逆に助けられなくなるということだった。

 

「……はい」


「ほら、抱きしめてあげる」


 ソフィさんの言葉に誘われるように僕はその腕の中に抱きしめられる。


「ごめんね、助けてあげられなくて」


「……もう無理です」


 エリーが帰ってきてくれたら、団長としての任命権を使って僕とのかかわりをなくすことができるみたいだからそれまでの我慢と僕は思い込んで生活をしていた。

 けど、それが今日折れてしまった。

 

「……そっか」


「明日は休んだら方が……」


「でも、行かないと僕の周りの人を殺すって……」


 レティさんは『家の場所も僕の働いていたところも知ってる』といって僕が逃げられないように脅してきた。

 泣いている僕を優しい目で見つめていたソフィさんはぽつりと言葉を漏らした。


「……ねえ、私のことは好き?」


「え……?」


「答えて?」


 エリーのことは好きだけど、この生活の中で僕がソフィさんにひかれているのも事実だった。

 ソフィさんの甘い香りに心が落ち着くようになって、ソフィさんと話すたびにすり減った心が癒されていった。


「……はい。好きですよ」


「なら、私に任せて?」


「……!」


「ん……」


 唇同士が触れ合ったまま、そのままでいるとレティさんとのあれが始まった日と同じように体がぴたりと動かなくなった。


「ユート君の大事な人は私が守るから安心して?」


「だから、そのままでいいよ」


 僕は意識は遠くに手放した。









「あれ、もう起きちゃったの?」


「……ソフィさん?」


「うん、愛しのソフィリアだよ。ユート君」


 そこは暗い部屋だったが、ベッドもあるし小説とかもあってまるで誰かの部屋のようだった。

 だけど、ここが僕の家じゃないことは確実だった。


「ソフィさん、ここ何処ですか?」


「ソフィリアって呼んでほしいな?」


「……ソフィリア、ここはどこ?」


「~~!!ここはね、私の家」


 自分で言ったのに照れ臭そうにソフィさんの顔が少し赤くなったまま。ソフィさんは話をつづけた。


「君は誘拐されて行方不明ってことになってるから、レティに居場所がばれることはないよ」


 多分、ソフィさんはエリーの帰ってくる日まで僕のことをかくまってレティさんの干渉を妨げてくれようとしてくれているのがわかった。


「暇だったら、ここの小説読んでてね」


「本当にありがとうございます……」


「気にしないで?マッサージのお礼とでも思ってくれたらいいからさ」


「それじゃ、行ってきます」


 それだけ言うと、ソフィさんは部屋から出てどこかに出ていった。

 多分、訓練だとは思うけどライオットさんにもこのことは伝わっていると思うから、ここでソフィさんだけがいないのは逆に怪しまれるだろうし一人なのはさみしいけど僕は本棚の小説を取った。

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