エリーのいない日



 数分間泣き続けた後、ライオットさんがおずおずと声をかけてきてくれた。


「……はぁ、やっと泣き止んだか」


「それで本題を言うが、俺はあいつに二つのことを頼まれてな?一つは新人の訓練がメインで後は……」


 するとライオットさんは言葉を詰まらせていうか迷ったような表情をした後、口を開いた。



「『お前のことを見ていてほしい』と言われた」



 瞬間、ソフィさんのことが頭をよぎったがエリーがそんな回りくどいことをするとは思えないからただ僕のことを心配してくれてのことなのだろうと思った。


「まあ、なんかあったら俺に言ってくれ」


「はい、わかりました」


「そんじゃ、俺は訓練に行ってくるがお前も来るか?暇だろ?」


「はい、行ってみたいです」


「よし、じゃあ行くか!」


 そうして僕とライオットさんは二人、遠征に行かなかった若い騎士達の訓練に向かった。






「今日からあいつらのいない間、お前たちの訓練を行う前団長のライオットだ。短い間だがよろしく頼む」


 僕のライオットさんのイメージはお店に来てた時から変わらず酒飲みのおっちゃんという感じだけど、団員さんたちがライオットさんへ向ける尊敬のまなざしを向けているのを見て初めてこの人のすごさのようなものを感じた。


「それじゃあ、今日の訓練についてだが……それぞれの実力もわからないことだし、模擬戦でもしてもらおうかと思っている」


 血気盛んな若者が多いだけあって男の騎士はやる気に満ち溢れているのが伝わってきた。


「すいませんちょっといいですか?」


 ライオットさんに言葉に対して、手を挙げたのは最近、僕に優しくしてくれる女の騎士だった。


「何だ?」


「その子はどうして連れてきたのですか?」


 その人は僕のことを指さして、質問を続けた。


「ああ、こいつか?もともとあいつの手伝いをしてたみたいだったし俺はサポートとか苦手だからな。あいつに言ってちょっと貸してもらった」


 事情を知ってくれているライオットさんは僕のことを他の目があるところでは奴隷として扱おうとしてくれているが演技が下手なことは知っているから、僕は他の人にバレないか心配でならなかった。


「それは、ライオット前団長個人に対してですか?」


「いや、『団』にだな」


 僕がエリーにしたお願いをするために、名目上は団に貸し出していることになっているらしく、これを聞いてきた人の声のトーンが少し上がった。


「ならば、私たちにもその子の『使用許可』があるということでよろしいですか?」


「一応、事情を聴いたうえで俺を通してもらうが許可しよう」


「わかりました、ありがとうございます!」


 僕の中に漠然とした不安が少し残ってるけど今は気にしないことにした。





 木剣の打ち合う音が鳴る中、僕は模擬戦の終わった人に水を渡したりタオルを配ったりしていた。


「どうぞ」


「ありがとう」


 普通は奴隷に対して礼を言ったりする人はほとんどいないけど何人かの人は僕に優しく声をかけてくれた。


「ユート、俺にも持ってきてくれ」


 模擬戦をそばから見ていたライオットさんから呼ばれたのでそっちの方にも水を渡しに行こうとすると周りにいた人たちがざわついていた。


「ユートって誰だ?」


「誰かしら?」


 そういえば、エリーは他の人がいる前でで僕のことを名前を呼んだことはなかった気がする。


「ねえ、君が『ユート』?」


 さっきの朝の集会で僕のことを詳しく聞いてきたその人が僕に話しかけてきた。


「…はい」


 次にエリーのいる前で僕の名前が呼ばれたらと考えると少し怖いがこっちの方を見ているライオットさんの顔が『すまん』と言っているので仕方ないと割り切った。


「ふ~ん…」


「…?」


 それだけ聞くと、その人は僕のところから離れていったので僕はそのまま仕事を続けていった。






 昼ご飯の後、ずっと模擬戦を見つめていたライオットさんが一人一人にどんな訓練するかを振り分けていく。


「……は持久力と踏み込みの甘さがある。だから今日はランニングだな。……はあれだな、まだ相手に遠慮があるからちょっと学園に行って生徒相手に連戦して人に対する遠慮をなくすことからだな」


「これが……あの」


「さすがだ……」


 僕は知らなかったけど、これは団長をしていた時のライオットさんがしていた恒例行事のようなものらしく騎士たちからは驚嘆の声が聞こえてきた。


「……最後に、ソフィリアとレティ、ラナはここに残って俺と戦闘訓練だ」


 周りから『おお』という声が出る。

 僕から見ても今、呼ばれた三人は模擬戦で他の人とは剣筋?が大きく違っていた気がする。

 これに呼ばれなかったことで男の騎士の何人かは悔しそうな表情を浮かべていた。


「よし、じゃあそれぞれ行って来い!」

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