その日はすぐだった

 


 その日の夜、エリーに話があるといわれて僕は夜ご飯の後にテーブルに座って待っっていた。


「今日は昼ご飯食べれなくて悪かったな」


「馬車の中でも言ったけど別に大丈夫だよ」


 エリーには言ってないがこっそりソフィさんが持ってきてくれたご飯を二人で食べていたので問題なかった。

 その時にソフィさんの言った『浮気みたいですね』に冗談に感じられない重みがあった。


「それで、なんだが…。単刀直入に言うと一週間ほど遠征に行ってくることになった」


 エリーは申し訳なさそうにそういった。言い方からして僕は遠征に連れていけないということだろう。


「そうなんだ、じゃあ僕は家でお留守番かな?」


「…そうなるな。せっかく仕事が楽しいと言ってくれていたのに悪い」


「なら、ちょっとお願いしてもいいかな?」


 僕が考えていたのは、魔法の練習。できればまだ僕が使えない状態異常回復とか指導をマリアさんにお願いしたいと思っていたので前の様子を見ている感じではマリアさんと話したりするのはおそらくまだ大丈夫そうだったからこの機会にお願いしてみることにした。


「内容にもよるが、いいぞ」


「えっと僕、魔法の訓練をしたくて…」


「……」


「マリアさんのとこに……」


「だめだ」


 僕の言葉を遮るようにして『これ以上は言わせない』とばかりに言われたが僕も食い下がるようにしてお願いを言ってみた。


「一日だけでいいから、ダメ?」


「だめだ」


 これでもう新しい魔法を覚えるのは無理になったがせめて何かはしたいと思って、どうにか他のお願いにする。


「なら、騎士団の人に魔法をかけるのは?」


「だm…」


「エリーが選んだ人にしかやらないから!」


「……それなら、わかった」


 ここにきてやっと、お願いが通ったので僕たちは一週間の遠征の間の予定を決め始めた。








 遠征が始まる日、僕は訓練所から旅立つ人たちをエリーの部屋から一人静かに見送った。


「行っちゃったな…。というか思ってたより大勢行っちゃったし残ってるのって若い人ばっかりだけど大丈夫かな……」


 この訓練所にいるのが男女合わせて百人の騎士なのに対してその中の約半分が門の前に立って見送りを行っていた。

 その中で今回の遠征では実力のある中堅どころの人が多く連れていかれたようだった。

 最近は王都での犯罪は少ないってエリーも言っていたことだし気にせずにいつも通りの掃除を始めようとすると廊下の前を誰かが歩いてくる音が聞こえた。


「……お~い、ここにいるって聞いたんだが?」


 その声は僕の耳にやけに聞き覚えがある声だった。


「申し訳ありません…エリー様は遠征に行っておりましてここにはいらっしゃいません…」


「…ははは!久しぶりに会ったってのにそんな堅っ苦しいこと言うなよ、ユート」


「え?えええええええええええ」


 そこにいたのは僕の知り合いでもあり、エリーの元上司でもある王国騎士団元団長のライオットさんだった。

 お辞儀をしていてよく見ていなかったが出会ったあの時から全く変わらないいかつい人相は変わらないままだった。


「なあ、とりあえず入っていいか?」


「は、はい」


 とりあえずライオットさんを部屋の中に入ってもらって、置いてあった水をコップに注いで渡した。


「あ、あの、その……」


 ライオットさんの視線が僕の首に集まっているのに気づいた僕は前にはなかったそのモノに触れて必死に言葉を紡ごうとした。

 その様子を見たライオットさんは落ち着いたまま話し始めた。


「ああ、言わなくてもいい。エリーの奴からもう聞いてる。まあ、なんだ別にそんなものだけで俺がお前らを見る目は変わらねえから安心しとけ」


「……あ、ありがとう、ござ、い、ます…」


 奴隷になってからなる以前の人と会うのがこれが初めてだったから拒絶されるんじゃないかと僕は心配でならなかった。

 けれど、そんな心配は必要なくて首輪を『そんなもの』と言って前と同じように見てくれたライオットさんの言葉が僕にはとてもうれしかった。


「お、おうおう。泣くんじゃねえよ……」


「す、すいません」


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