立場の変化

『奴隷の首輪について』


一つ、首輪をつけたものは首輪の所有者の命令に逆らおうとすると首が締め付けられていく。


二つ、使用後一生外すことができない。


三つ、主の死によって解除される




 朝、エリーを見送った後に僕は自分がはめた首輪を触りながら家にあった魔道具の本に書かれた奴隷の首輪についての記述に目を通していた。


「……あー」


 首輪をつけている以上、外に出て以前のように買い物に行ったりなんてことはできない。

 もし一人で外に出れば、どこかから逃げ出してきた奴隷として衛兵にとらえられた後、最悪の場合殺される可能性すらある。


「暇だ……」


 暇という以上にこれから両親やお世話になった人たちに会えないのがつらかった。



 まだ陽が高い時間に2階のベッドで昼寝をしていると、一階のドアが開く音がした。


「だれ?」 


 エリーが帰ってくるにしては早すぎるし、強盗が入ってくるにしては見つかれば衛兵が駆けつけてくるこの時間に入ってくるはずがないから今、一階にいるのが誰か見なければならないと思ってしまった。

 僕は一応、首輪を隠して音を立てないように一階に降りていく。


「…団長、いいとこ住んでるな〜」


 階段から少し顔を出して玄関を見ると、そこにいたのはエリーと同じ服を着ている、腰に剣を帯刀した女の人だった。

 エリーのいる団は女性しかいないらしいのでおそらくそこの人だと思う。

 

「ん?誰かそこにいるんすかー?」


「…!」


 物音を、立てないように体をじっと動かさないようにする。


「さっさと出てきた方がいいっすよ。こんな感じですけど私、騎士なんで」


 普通に出て行って話をしてもいいが、それをして今の僕がいるのだからそんなことはできない。この人がエリーに僕のことを話したときその後、大変なことになるのはもう分かり切っている。


「……」


 だから、僕はここで沈黙を選ぶことにした。




「それじゃ、行きますよ~」


 次の瞬間、体が階段の陰から一気に引きずり出されて床にたたきつけられた。


「ッ……」


 呼吸が一瞬止まり、肺の中の空気が一気に外に出される。


「で、君はどうして隠れていたのかな~。……って君、奴隷か」


 僕の首を抑えつけたときに首についている奴隷の首輪に気が付いたようだ。


「団長が奴隷を買ってるなんて聞いたことないし、逃げてきた子かな……。とりあえずついてきてもらうよ」


 この人は騎士なだけあって僕の力など無にも等しいようで抵抗しようにも腕を動かすことすらできなかった。




「ほら、さっさときて」


 首輪にロープを通し、僕を無理やりどこかに連れて行こうとしてきたのでドアをつかんで必死に抵抗を試みる。


「めんどいなぁ。ま、いいか」


 ドンっという音と共にお腹に鋭い痛みを伴って僕は意識を手放した。






「……ぉい、遅れすぎだ。私の家に荷物を届けるだけでいったい何分かかっている」


「団長、これみてくださいよ~」


「…!おい、これはどこに隠れていた」


「階段の陰に私に見えないようにしてましたね~。逃げようとしてたんで多分どっかの貴族のおもちゃじゃないっすか?」


「……そうか。後は私がやっておく、訓練に戻っていてくれ」


「わかりました~」


「うぅ。たすけ、て」


 誰かの話声で目が覚めた僕はお腹の痛みに耐えかねて目の前の誰かに助けを求めた。


「あぁ、助けるよ」


「エリー?」


目の前にいたのはエリーだった。


「普通に出ていけばこんなことをされなくて済んだだろうに。私のことを思ってそうしなかったんだろう、ユート」


「ありがとう」


 突然、襲われて不安でいっぱいだったけどエリーの顔を見て安心してしまった僕はすぐにまた眠ってしまった。





 次に目が覚めたときには、僕は柔らかいソファーの上にいた。


「ここ、何処?」


「目が覚めたみたいだな」


 ドアが開いて廊下からエリーが飲み物をもって入ってきた。


「これを飲んで、ゆっくりしていればすぐに治る」


「もう少ししたら私も家に帰るから、今日は一緒に帰ろうな」


 


 入れてもらった紅茶を飲んで、仕事が終わるのを待っているとノックとともにドアが開いて昼間のあの人が入ってきた。

 

「……」


体が無意識に震えてしまう。


「いや~今日はすみませんでした~。まさか団長の旦那さんだったとは思わなくてお腹の方は大丈夫ですか?」


「大、丈夫です」


 僕の座っているほうに近寄ってくるその人に向かってエリーが声をかけた。


「ユートに近づくな」


「わかってますよ~。もう団長怖いんだからやめてくださいよ~」


「で、何の用だソフィ」


「ユートさんに『ごめんなさい』ってしに来ただけです」


「そうか、なら帰れ」


「え、いや、もうちょっ……」


 エリーはソフィさんをドアの向こうに押し出していったあと、まだ少し震えている僕の体のことを抱きしめてくれた。


「ごめん、ユート。怖い思いをさせてしまって」


「別にいいよ。けがもなかったし」


 少しの間見つめあった後、僕の方から軽くキスをした。


「仕事、終わったんだったら一緒に帰ろう?」


「ああ、もちろん」


 その日の夜はいつもよりエリーの愛情表現は激しかった……


 



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