伝承と腐敗
「慌てるな村人よ、この旅人もネクロマンサーだ、わしは、レドルに命じて彼を監視しておった、そもそも〝あの守衛〟を動かせることがおかしいのだ、彼も悪人だ!!気に病む事はない、そして、ガキは裏切り物の息子だ、そして老いた男、〝秘密〟を守れば恥をかかずに済む、多少の犠牲だけで、〝中央政府〟から咎められることもなかろう」
村長がそう語った瞬間だった。
「キィイエイエエエエエエアアアア!!」
人の物とも獣の物ともいわれぬ叫びが響く、それはかがり火の向こう側、暗がりの魔導守衛から発せられたものだった。次の瞬間、魔導守衛があろうことか村人一人の首根っこを掴むと、ひょいっとまるで人形でも蹴とばすように脇に放りだした。地面に横たわり、それは動かなくなった。すぐさま大騒ぎとなり、村長が慌てふためく。
「何たることじゃ!?どうして、今までこんな事は」
混乱に乗じてレドルが、脇から小刀をとりだしセーゲルに襲い掛かる。だがひょいっと軽くセーゲルは後退した。
「よくかわしたな」
「ふう、ふう、ふう」
セーゲルは息を切らし、やけに疲れていた。
「どうした?ネクロマンサー」
「〝魔術の準備〟をしていてな……ちょっと用意もしなきゃならねえ、なあ!!ロベル!!」
セーゲルがそう叫ぶと、ロベルが答えた。
「ああ、わかった」
ここでロベルが、暗がりへと向かった。ふと、セーゲルとにらみ合ったあと、レドルは気づいた。
「まずい!!あっちは〝宝剣〟が……」
すぐにレドルは、脇から小刀をとりだし、全速力でロベルにかけよった。そのスピードは、すさまじく早く、常人ではおいつけない速度だった。ロベルは背中を掴まれた感触を感じ、心の中で叫んだ。
「しまっ……」
しかし、背後で刀と刀が打ち合う音がしたかと思うと、背後にセーゲルがたっていた。そのセーゲルの小刀は―瘴気に満ち溢れていた。
「はあ、はあ……」
「ネクロマンスの力はネクロマンスにしか通じない、しかしお前……ネクロマンスだと?ここ数日、お前は犠牲の儀式もおおっていない、犠牲もなしに?本来は、犠牲なくしてネクロマンスは使えるはずがない、お前の、どこからわいてでている?お前何者だ?セーゲル」
レドルの黒い瞳と黒い口がセーゲルを妖しくにらんでいた。
そのころエドは、村長をふりはらい、彼もどこからか小刀を取り出しきりつけた。長老はひどく驚いた。痛み、長らく感じていなかったものだ。
「ギャアアアア」
次に驚いたのはエドの持っている小刀にだ。痛みの中でも、冷静な頭も同時に働き、さらに驚いた。
「くそ、不測の事態ばかり、だがその小剣その装飾、〝アレ〟にそっくりではないか……まさか……!?」
エドは得意げに、その小刀をきらりと光りに反射させた。
「“宝剣ルイード”この剣は、ずっとうちの〝ルーバルト一族〟が保管していた、アーシュヴァンとの秘密の中でこれは“保管”されていた〝あの抜けない宝剣〟は偽物だ、だがお前たちはその記憶すら忘れた、伝承では“アーシュヴァンとルーバルト一族は二つで一つの守護者”守衛をつくったのも二つの一族、その記憶を忘れ最初に裏切ったのはお前たち一族だ!」
エドは、村長を払いのけると、暗がりに向かって走った。あまりのことに村長は、呆然とたちつくしていた。
(ばかな、そんな訳はない)
そんな思いもあった。
村人をかきわけ、エドは走る、剣をもっていためか、エドをとめようとするものはいなかった。しかし、人込みの最後で、エドは、村人に頭を鈍器でなぐられ、その場に横たわった。
村人の中でざわめきがおこる。
「やりすぎじゃないのか」
「どうするんだ?」
一方セーゲルは、レドルから逃亡し、ある場所へ向かっていた……それは守衛の背後のさらなる暗がり、セーゲルはその場所に〝それ〟があるとしっていた。けものみちの先、雑草の塊の中。
息を切らしてあたりをさぐると、光るものを見つけた。
「魔導コア!!魔導……守衛」
ボロボロの魔導守衛……確かにそこにはセーゲルがこの村で初めて会ったソレがよこたわっていた。
「おい、何しているんだ?お前も英雄きどりか?セーゲルよ」
背後の暗がりから、疲れを知らない様子のレドルが顔を出す。
「英雄など!!くそくらえだ、だが、重要なのはそれじゃない」
ふりかえり、セーゲルは魔導守衛に右手の義手を当て、言い放った。
「回復せよ!!!魔導誓約・自然精霊の治癒!」
ズズズ、と大地が揺れる音が響いた。暗がりの中、魔導守衛が立ち上がった。レドルが、あっけに取られてつぶやいた。
「こんな……まさか、“杖”はとりあげたのに、あいつまさか……義手そのものが……魔導杖?まだ、動くのか?あのオンボロが」
魔導守衛を見つめるレドルのアゴはだんだんと天を仰ぐように翻っていった。
その頃、ロベルは自由の身になり、エドにかけよっていた。エドは、意識をうしなっていた。村人たちは、ロベルには何もしなかった。というより罪悪感と、混乱とでその暇がなかったのだ。
「エド!!目を覚ませ!!両親の魂に誓ったんじゃなかったのか!!」
そうだ。ロベルが脱出を促したとき、たしかにエドは二人の前でいったのだ。
「いつか必ずこの村に帰ってくる―そして両親の魂を成仏させる」
ロベルはエドの頬をたたいた。その瞬間、暗がりから魔導守衛の後ろからぼろぼろの魔導守衛が現れた。怖れよろめきながら、それをみた村長が叫ぶ。
「あれは……壊れてたはずでは?一体何がおこっている、ひとつの暴走ではことたりず、二体目まで!!!」
村長は、その場を離れようと急いでにげた、村人の中へ、中へ、村長を探すボロボロの魔導守衛2号が、村人を追い払いながら、村長を目指す。
もう一人の一号も暴走し、二体の守衛が、村人を襲う。人々の悲鳴をききエドが目を覚ました。
そこには、セーゲルが立っていた。
「よお、エド、別に俺はお前が恩を返さなくてもいいと思うんだが、どうするよ」
その手には、エドの剣がにぎられていて、エドに判断をゆだねているようだった。
「やるよ」
エドはつぶやく。
村長は村人をかき分けて逃げ惑い、なんとか村の城壁に手をかけた。そしてよじ登ろうとした瞬間だった。
「どこへいく?」
後ろから声をかけられたた、そこにいたのはエドだった。エドは、剣を右手に構えており、切っ先はまっすぐ村長に向けられていた。
「ひぃ!!許し……!!」
その時だった、巨大な地響きとともに、すさまじい揺れがおこった、すぐに長老は背後をみて何があったかをさとる、背後の壁がくずれていたのだ。
そして、その崩れた壁から現れたぼろぼろの魔導守衛2号に、エドが剣をつきたてていた。
「伝承では、これは“鍵”だ、ネクロマンスが暴走した時、これで制御するためのもの、ネクロマンスに対抗するネクロマンスで持たれた魔力を秘めている」
村長は、その場にへたり込んで動けなくなった。やがて、魔導守衛2号は、魔導守衛1号のもとへ全力で走り始めた、そして二体は戦いはじめた。
地響きとも地鳴りとも思える叫びと、殴り合いが、守衛の中で繰り広げられている
。村長がぼろぼろの体で、へたりこみセーゲルの足をつかんでいた。
「助けてくれ〝ネクロマンサー〟あの二体には、何がとりついているんだ」
「ぼろぼろの方は、彼の両親だ、もう一体はお前たちの英雄だ」
「そんな、バカな……」
「英雄の怒りもわかる、お前の悪事に嫌気がさしたんだ、村人にももな、エドの両親と同じように」
「私は何も悪い事は!!」
「嘘をつけ!!」
といってセーゲルが、村長の腹部の裾ををまくった、すると腹部に異形のものがあった。するどくとがった角、鉱物のような輪郭。魔導コアのような宝石じみた瞳。鋭い牙が並んだ口が、にやりとわらった。
「お前は、ネクロマンスの力に怯え、周囲に徘徊するモンスターの親玉に魂を売っただろう?俺はあの守衛に会ったとき、すべてをきいたのさ、エドの両親からな」
「……すまない、すまないいい」
村長は、まずセーゲルに、次にあわてふためき、おそれ塊をつくっている村人たちにいった。
「すまない」
その背後で、レドルが暗闇からあらわれる。村長が、彼によびかけようとする
「レドル、お前にも、すまな……」
「たった一つだけ方法があるぜ、お前のネクロマンスを終わらせる事だ……」
その瞬間、セーゲルの右手が光る。村長は、何かをさっしたように、はっと息をのんだ。
「この一撃のために魔法をためていたんだ、ネクロマンサーを倒すには特別な〝呪文〟がいるからな」
村長が叫ぶ
「それだけはやめてくれ」
レドルは、止めなかった。右手をそのまま相手にむけ、そのまま、突進をしていった。
「やめっろおおお」
暗がりに、血とも泥ともつかない黒い液体がまき散らされ、その一連の事件は終わった。レドルの体の下半身はモンスターの下半身がひっついていた。魔導守衛の暴走の原因は、村長がネクロモンスターを取り込み一体化したことにあったのだった。
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