夜明け

 夜、老人ロベルはその夜、食事をとった後、ゴクリとついでに何らかの薬を飲み込んだ。その薬は心の苦しみに聞くとされている魔法薬だった。

「誰も、英雄の本当の姿はしらない……」

 その夜、彼はまるで眠れなかった。


 セーゲルの方も、昼間の事を思い出していた。あの時老人ロベルは親身になって、セーゲルに説教をしたのだ。

「どうして君はいつも問題をおこすんだ、わざと悪くするみたいに!」

「少年の為だ」

「そのためだけじゃないだろう!?君は言い訳をし続けている、君の過去に、僕は君たちの関係をよく知らないが、あの聖女だって……君の“憑き物”を下ろす方法を考えるといっていただろう」

「あの聖女は優しすぎるんだよ、何度か助けられたが、俺とは……距離をおいたほうがいい、俺の運命に近づかないほうが」

「それを彼女が望んでいるとでも?」

「うっ……」

「君は人の気持ちを考えているようで、隠れ蓑にしているだけだ」

「ちっ……うるせえ、過去なんてどうでもいいんだよ、あんたみたいに過去を恨みながら大事そうにかかえている老人とは違う」


 老人はふてくされて寝返りをうった。

「どうでもいいか、といいながら自分の右手の中で魔法陣をいくつか考えながら」


 ふと、セーゲルに正面からあのエド少年が話しかける。

「ねえ、兄ちゃん、あんた不思議な人だね」

 セーゲルはジト目で、めんどくさそうにその少年に応える。

「なんで?」

「何が?」

「なんでなの?」

「だから何がなんでだよ」

「どうして、お兄ちゃんあの剣を抜かなかったの?抜けたでしょ」

 はっとした顔になる、この少年にそれを気付かれていたかと。

「確かに簡単な術だったが、あの剣をぬいて意味があるのか」

「それも、そうだね」

「?お前は……あの剣が」

 と言いかけた時だった。


 明かりが、まぶしい明りが牢に差し込む、セーゲルはため息まじりにいった。

「今度はなんだ?敵か?味方か、いや、味方が来た事なんてねえか」

 と愚痴をたれると、暗がりの奥底から見覚えのある皺だらけの顔が現れた。

「ロベル……」

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