8話

「うっ……」

 エドは、走っている途中で壁に動揺するあまり足をぶつけてしまった。それが問題を起こしたのは、二股の分かれ道にたどりついてからだった。これまで複雑だった道が、もはや袋小路と思えるほど狭くなった、少年は足の状態の事を話して、セーゲルの手をふりほどいた。

「どうか、僕をおいて逃げてください」

「あ?」

「僕がおとりになります、この迷路の事は熟知していますし」

「俺は“英雄”みたいにナルシストじゃないんだがなあ!」

「そもそも、なんであれを直してほしかったんだよ」

「それは……」

 二人の間の壁に、斧がつきささった。魔導守衛の腕が奇妙にゴムのように伸びていたのだった。

「グオオオオオ!!」

「クソオ、こんなのありか、こんな個体見たことがねえ!!」

「早く!!」

 セーゲルは、エドにせかされるのもしゃくだとおもったが、すぐに少年と別方向に逃げた。

「それで、いい……」

 エドはそのまま逃げようとしたが守衛の迫力に気おされ、つまづいてしまった。そして気を失った。

「しまっ」

 その時だった、どこか遠くの方でバカでかい声が響いていた。

「魔導誓約・狼の遠吠え!!」

 セーゲルが、まるで狼のように遠く響く鳴き声をあげた。その喉に魔法陣が光っていた。魔導守衛はそれにつられてそちらへと向かった。


 どれだけ逃げただろう。セーゲルはへとへとになりながらも、なんとか出口付近にたどり着いていた。風と光をたよりに、だが外へ出るとすでに夜更けになっていて、今日中に人里へ向かうのは難しそうだった。そして何より、エドの事もある、自分が目覚めさせた怪物をそのままにしておくわけにもいかない。

「ふう」

 ふりかえる。魔導守衛はよろよろになりながらもまだ追いかけてきていた。

「さあ、これで崩落の心配もない、どんな魔導術を使おうかなあ?」

 ニヤリ、とわらうセーゲル。だがふいに真顔になった。

「お前は……」

 セーゲルは、何か魔導守衛に語り掛けていた、まるで会話をするように、そして最後に、魔導術をかけた。

「魔導誓約・静止せよ・魔導コア」

 その瞬間だった。おとなしくなった守衛を壊されるとおもったのか、小さな影か駆け寄る。

「魔導守衛を壊さないで!!」

「??エド!!」

 エドはよろよろとセーゲルにかけよる。セーゲルはいった。

「心配するな、ちょっと俺の得意な魔導術をつかっただけだ、おとなしくなる」

「あり……がとう」

 再び意識を失うエドだったがその途中でも奇妙な話声をきいた。セーゲルと聞きなじみのある声。

(父さん……母さん……?)

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