3話 聖女・ラテル セーゲル
医者が不足しているというルルの街で、この世界で普及する大宗教、ニマ教の教聖女の格好をした女性が患者の治療をしている。ある人の情報を探しているついでの人だすけだ。彼女が治療を終え、ベッドに座って起きられなかった老人がゆっくりと体を起こすと周囲から拍手が起こる。
「まるで英雄様みたいだ」
「ああ、素晴らしい治癒魔法だ」
人々は関心する。けれど彼女は、その優し気なほほえみからを浮かべ、決して偉ぶることも、強がることもしない。
ふと、含みのある哀愁の漂う笑みを浮かべたあと聖女はいった。
「お安い御用です、ところで、皆さん少しお聞きしたいのですが」
「ふぁあ~」
あくびをしながら、顔に斜めに十字傷の入った右手義手の男が荒野を歩いている、爆弾のようなツンツンした頭で、全体は黒く、内側の一部は白髪のようになっているがどこか黄色がかっている。ふと後ろから、馬車の音がする。
「おんや~?」
馬車を引く50代ほどの目の細い、丸いかぶりものをした男が、馬に命令しながら並走し彼を覗きこむが、若い彼は特段反応もせず、さえない表情でくちをとがらせて腕を頭の後ろでくんでとぼとぼあるいている。しばらくそうして覗き込まれたままでさすがに耐えきれなくなって、その若者は馬車の男に尋ねた。
「おじさんなんか用?」
「ああ、すまねえ、あんたもしかしてセーゲルとかいうのか?」
「ああ、そうだけどなんで?」
「マナ写魂機でとった写真で、ついさっきみてさ、ルルの町でね」
「……人探しか?」
「ああ、聖女さんがあんたを探していたよ、そりゃ優しい方でなあ、俺の足の具合もすぐなおしてくれて、歳のせいですぐ痛むんだ、そりゃすごい治癒魔法をつかってだな、治療が難しい人々の病気をも直して大評判だったんだ」
「……ラテルだ」
若い男は、みるみる顔に焦りをうかべた。
「おじさん、俺用事思い出したんでいくよ」
「ああ……?気をつけてな」
すると男は、全速力で街から離れようと真逆の方向に走り出した。
「なんだあ?」
残された馬車の男がつぶやいた。
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