第8話 協力

「え……そうなんですか?」


 俺のその言葉に、神崎さんは驚きの表情をする。


「え、知らなかったの!?」


 そして、驚きながらそう言う神崎さん。


 知らないはずがない。

 ただ。


「はい……」


 コクリとそう首を縦に頷いた。


「知らない人なんていたの!?」


 知らないことにすることによって、神崎さんと友達に近づける気がしたのだ。


「え、静香だよ!? あの、静香! 男子たちの間で学年一可愛い女の子って呼ばれてるあの静香!」


 やはり、男子だけの間での話のことだが、女子もそのことを知っているらしい。

 というか、女子の間でそう言われていても納得しかないのだけれど。


「え、知らなかった……」


 ガクリ、と残念そうな顔をすると神崎はぷっと笑い出し。


「ねえ、本当なんだよね、それ」

「本当ですよ……つまり、俺が黒宮さんと付き合うことは不可能ってことですよね……」

「やば、ガチのやつ!? やば、マジでやばい……」


 この学校にほぼ友達ゼロといってもいいほどの俺ですら黒宮さんが佐藤と付き合っていることを知っているくらいだ。

 学年で知らない人など多分いないだろう。

 それゆえ、きっと黒宮さんが別れることになったら話題になるだろうし、俺と付き合うことになっても話題になるだろう。

 なんなら、俺はそんな黒宮さんとヤったんだぞ。


「え、誰と付き合ってるんですか?」

「佐藤光太郎……コータローと付き合ってるの、あの超超超イケメンのコータローと!」


 目をキラキラと光らせながらそう言う神崎さんからして、神崎さんは佐藤に恋をしていると見てもよさそうに思えた。

 つまり、黒宮さんと佐藤を別れさせることができるというわけだ。


「うわっ、お似合いだわ……」


 う〜ん、と頭を傾げる神崎さん。


「え、どうしたんですか?」

「確かに二人はお似合いなのかもしれないけどさ……なんだかな〜って……」


 嫉妬している。

 黒宮さんが佐藤と付き合っていることに対して。

 

「俺もなんだか、二人とも完璧すぎて……」

「うんうんそれ!」


 首を何度も上下に振る神崎さん。


 もちろんそんなこと思っていない。

 なんならお似合いすぎるまである。

 運命というのか、そんな感じだ。


「俺的なは神崎さんの方がお似合いな気がするなあ……」


 ニヤニヤと嬉しそうな顔をし出す神崎さん。


「ねえねえ、櫻井くん」

「ん?」

「実は私さ、コータローのこと好きなんだ。そこで提案なんだけど……」


 おお、これはなかなか都合がいいことになりそうだ。


「櫻井くんは静香と付き合うため、私はコータローと付き合うために……協力しない? 二人を別れさせるさ」


 きた。

 これはかなり熱い展開だ。

 俺が黒宮さんと付き合うための協力者になるというわけなのだから。


「そっそれって、ほ、本当ですか!?」


 俺は大袈裟に驚く。


「いや、大袈裟すぎ! うん、櫻井くんがいいって言うなら……あー、これナイショの話ね。まあ、櫻井くんなら別に大丈夫かな」


 俺には今の話をする人もいない、そう思っているのだろう。

 もちろんその通りだ。


 黒宮さんには神崎さんが佐藤に好意があるということ。

 俺と神崎さんは黒宮さんと佐藤を別れさせる。

 最高だ。

 一気に黒宮さんと付き合うための距離が狭まる。


「どう? こういうのは」


 ノー、なんて答えはない。

 イエスorイエスのようなものだ。


 もうこんなの勝ったと言ってもいいんじゃないだろうか。

 嬉しさのあまり、ニヤけてしまいそうだ。


「めちゃくちゃ嬉しいです」

「オッケーってことね。こっちも嬉しい、これから協力しよ?」


 と、俺に向かって手を伸ばす神崎さん。


「はい!」


 俺はその手を握った。

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