第5話 鏡を見ながらエッチ

 放課後、SNSで黒宮さんに呼ばれて俺は屋上へとやってきた。


 昨日、ここで俺はあの黒宮さんとシたのか。

 初めてを捨てた。

 何よりも生でシたてしまったことがとても印象に残っている。


「ごめん、ショートホームルームが長引いて」


 扉を開けると、安全柵からグラウンドを眺めている黒宮さんがいた。


 黒宮さんはこちらを振り向いて。


「ううん、私も今来たところだよ」


 ニコリとそう言って微笑んだ。


 こんな可愛い子と初めてをシてしまった俺はなんて幸せ者なのだろうか。

 いや、ダメだ。

 そういう気持ちでいちゃダメだ。


「話って?」

「エッチがしたいっていうのが四十パー、残りの六十パーはこれからのことについて」

「これからのこと?」

「うん、私が彼から、佐藤光太郎から振られる方法について」


 俺は黒宮さんを自殺から助けたんだ、その責任をしっかりととらなくては。


「とりあえずは、愛させてください」


 そう言って、黒宮さんはスカートをたくし上げ、俺に黒色のパンツを見せつけた。



「ここのトイレは人が来ないです」


 黒宮さんに言われて来たのは四階にある女子トイレだった。

 まあ、ここは授業にも部活にも使われていない、なんのためにあるのかわからない教室があるだけの階である。

 

 個室に入らずに、俺たちは洗面台の前でした。


「エッチしてる姿を見ながらシた方が興奮する」


 黒宮さんのそのセリフからそうなったのだ。


「ゴムは私、持ってる」


 俺自身も買った方がいいな、と思いながら、黒宮さんのゴムを使うことにした。


 まさか二日連続で黒宮さんとするなんて。

   

 行為中の黒宮さんはとにかくエロかった。

 

 ヤり終え、俺たちは制服を着る。


「うん、やっぱり、昨日より気持ちよかったです」

「俺も……」

「回数を重ねていけば、痛みはなくなりそうで快感だけになりそうです」


 壁に寄りかかる黒宮さん。


「今日、光太郎くんに一緒に帰ろうって言われて断ったんです。そうしたら、放課後、たまたま桜と一緒に帰ってる光太郎くんを見ちゃったんですよね。その度に心がギュッと苦しめられる」


 まだ、黒宮さんは俺よりも佐藤のことが好きらしい。

 それはそっか。

 俺が佐藤に勝てるものなどないのだから。

 あいつは完璧だ。


「もう苦しくて苦しくて、早くこの苦しさから解き放たれたい。早く、振られたい、振られなきゃ、私はきっと光太郎くんが嫌いになれないんです。ははは、私っておかしいですよね」


 当たり前だ。

 俺だったら、佐藤も神崎さんも嫌いになるだけだ。

 黒宮さんは普通の人より優しいのだろう。


「いいえ、おかしくないですよ」


 でも、黒宮さんから好印象を持たれるにはこの答えが正しいだろう。


「そうですか?」

「うん。傷つけたくないですもんね」

「そうです……」

「桜の方が好きになって私を振ってくれたらどれだけいいことか。早く振られたい」


 もしかしてだけど、このまま黒宮さんが佐藤に振られれば黒宮さんと俺が付き合う権利が手に入る。

 お互い初めてを捨てた相手だし、ほぼ確定で付き合うことになる。

 ……最高じゃん。


 自分の考えていることが悪いことぐらい知っている。

 けれど、こうしなきゃ、そもそも俺が黒宮さんとヤる機会もなかったわけだし。

 

「そしたら、俺と付き合ってくれたりします? ……なんちゃって」


 黒宮さんは少し頬を赤く染めながら。


「場合によってですね」


 これから黒宮さんは俺を愛すと、昨日宣言していた。

 いける。

 俺を愛し続ければ、好きになる。

 最高じゃんか。


 よし、俺は俺のために黒宮さんが振られる手伝いをするとしよう。

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