プロローグ

第1話 狩人と銀狼

「小さな奇跡が、大きなひずみと不幸を招く。そう言ったのは、君だったね。僕のことを愛したはずの、僕の神様。僕が気づいたのはいつからだっただろうか。君が僕を見ていないことに気づいたのは。もう、僕は全部知ってる。君がどうして僕を愛したのか。僕を愛するフリをして、誰を愛したかったのか。君は本当に不器用で残酷で傲慢で、それなのにガラス細工のように繊細で。それでもいいさ、もうどうでもいいことだ。」


謳うように、銀狼が言った。今はまだ、人形のように美しい少年の姿で笑っていた。少年の腰まで届く銀の髪が、夜の冷たい風に揺られている。それはまるで、一枚の絵画のような美しい光景だった。


「嗚呼、知られてしまった。私の秘密も、私の心も。だましていたことも利用していたことも、あなたに全て悟られてしまった。でもそんなことも、そうね、確かにどうだっていいことだわ。だってあなたは今から私を殺すのだもの。殺して食べてしまうのでしょう?もう、私はあなたのものだから。」


はらりはらりと涙を流しながら、狩人は嘆く。閉じることを忘れてしまったような狩人の瞳は、満月のように美しい銀色だ。肩のあたりで切りそろえられた金の髪は、小刻みに震えていた。


「もう、終わりにしよう。君は被害者なんかじゃない、加害者だ。どうして?どうして忘れる?思い出さないんだろう、のことも。…それでもいいよ。あの満月が昇りきったら、僕は君を殺すから。君は罪を償って、僕は約束通りに君をほしいままにする。…時間だ。」


その言葉とともに、少年の姿が変わっていく。陶器のように白い肌は、月光を溶かした銀の毛皮に変わる。瞳孔は縦に開き、手足が四つ足の獣の物になった。新たな姿となって、少年だった銀狼は吠える。満月が大きく輝く夜空に、虚しいほどに響く咆哮だった。


「嗚呼、私はこれでおしまい。未練があるわけではないけど、やっぱり恐ろしいわ。死ぬのは怖い。でも、どうしてだろう?なんだか暖かい…あなたのこと、大好きだったわ。さようなら。」

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