新メンバーさん
「まぁ、とりあえず会って話をしてみてもいいのではないか?」
村上さんにそう言われて僕はバンドメンバーのいる部屋へと向かった。
ドアをノックすると知らない顔の少年が出てくる。
「あれ、ここの近所の人っすか?お見舞いの品なら受け取るので渡してくれれば大丈夫っすよ!」
謎に軽い感じの雰囲気の男の子に僕は一言こう言った。
「奏はどう?」
少年は少しびっくりした顔をしてから何かを納得したような顔をした。
「なるほど……奏さんが言っていた幼馴染というのはあなただったんですか。」
奏が僕のことを話していたのもびっくりだがそもそもこの少年は誰なのか。
村役場で見たルーズリーフに書いてあった名前を思い出そうとしていると向こうから名乗り出てくれた。
「あ、申し遅れましたね。僕は
確かにギターの所に大山と書かれていた気がする。
「つまり、君が新しいギターの担当ってことか。まぁ、そんなことはどうでもいいけど……。奏に少し会って行ってもいいか?」
そうっすね、と答えたあとで惇はえっ!?と言ってからまぁ、いっか。とだけ呟いて僕を中へと入れてくれた。
奏は少し狭めの部屋ですやすやと寝ていた。
「ここは奏さんの部屋として割り振られてて、僕は2個左隣の部屋っす。」
惇の何の得があるのかよく分からない自分の部屋の話を適当に返事して聞き流しながら僕は奏の横にそっと座る。
「やっぱ幼馴染馴染みとして心配なんっすか?」
惇が僕に紙コップに入れた冷えた麦茶を渡してくれた。
「まぁね。後は奏とは色々あったからさ……。少しでもやれることはやってあげたくて。」
「あぁ、確かになんかそんな話もしてたっすね……。喧嘩、しちゃったんっすよね?」
どこまで奏は話しているんだと思いながらもまぁ、昔からそんなところもあったなと少し納得しながらそうだね。とだけ答える。
「あの日、奏さん泣きながら帰ってきたんっすよ。んで、僕達で何があったのか聞いたら、幼馴染でずっと仲良くしてた吉人に酷いこと言っちゃったって言い出して。そこで僕は前までここのバンドでギターをやってたのが吉人さんだって分かったんすよ。」
惇は前から軽音楽部は気になっていたそうなのだが他に一緒にやる人がいなかったらしく、たまたま僕が抜けたギターの枠で入ることが出来たらしい。
「どう、軽音楽部は。楽しい?」
「すごい楽しいっす。でも、奏さんはあんまり楽しそうじゃ無くて……。」
やっぱり村上さんの言う通りに僕が奏の軽音楽部にいるためのモチベーションになっているのだろうか。
「じゃあ、やっぱり僕がいなくなってからバンドが少し変わってしまったって訳か……。」
「そうっすね。僕が見に行った時にはみんな死んだ様な顔をしていて……。最近やっと少し元気になってきたなって感じっすね。」
僕がいなくなった事によってバンドも大きく変わってしまったいたようで、惇が来る前は本当に解散間際だったのかもしれない。
正直、引退してしまった自分が言うのもあれだが解散だけはして欲しくない。
「そっか……。話してくれてありがとう。もし奏が起きたら僕が来て、またギターをやり始めるかもって言ってたって言っておいてくれ。」
惇はわかったっす。とだけ答えて僕を無言で外まで送ってくれた。
宿から家へ帰ろうとしていると外の植え込みに水をやっている村上さんに会った。
「村上さん、ありがとうございました。お陰様で1歩踏み出せた気がします。」
「何を言ってるんだ。わしはただアイデアを出しただけで実際に行動に移したのは吉人君自身の力だ。」
自分自身の力。確かに今までならバンドメンバーと話をするのも嫌だっただろう。それが話をできるまでに一応成長した。これは僕にとっては大きな進歩だ。
「でも、まだメンバーと話せただけなので……ここからギター嫌いを克服しないと……。」
そう言うと村上さんは笑いながらそんなの吉人君なら楽にできるはずだ。と言ってくれた。
僕は家に帰ってからすぐに、充電していた携帯に手を取る。
明日、単身赴任で青森に行っている父親が1日だけ家に帰ってくる日なのだ。
チャットアプリを開き、父親に「明日実家宛にギターを送って欲しい」とメッセージを送る。
すると、丁度昼休みだったのかすぐにOKと鳥が喋っているスタンプが帰ってくる。
まずはギターをまた好きになるところから。村上さんのその言葉を思い出して1歩を踏み出してみる事にした。
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お久しぶりの方はお久しぶりです。ぽてぃと申します。
貴重な読書時間を私の小説に使っていただき、ありがとうございます!
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