心変わり……?
実家の近所同士では体調が悪くなった人がいるときに、それぞれの家が助け合って薬や果物などをそこに持ち寄る習慣があり、それは一時的な訪問者にも適応されるのだ。
奏と大雨の中、言い合いになった日に僕は帰ってすぐ母親によってお風呂に投げ入れられたのでなんとか風邪をひかずに済んだが、奏は大丈夫だったかは知らなかったが秀影おじさんから近くの宿に合宿してるバンドの学生の女の子が……という話を聞いて奏が風邪をひいてしまったということを感じ取った。
「これを村上さんの経営している宿に持って行って欲しい」と言われた時は奏に謝るチャンスだと思って僕は引き受けた。
自転車を漕いで村上さんの経営する宿へリンゴの入ったバスケットを持って向かう。
宿の中に入ると受付に村上さんが居て、お見舞の品はこの部屋に持っていってと部屋番号を教えて貰った。
階段を上がり、教えてもらった部屋の前へ向かいドアをノックする。
しばらく待ってみたが返事がないのでリンゴの入ったバスケットをドアノブのところに引っ掛けてその場を離れる。
受付にまだいた村上さんに部屋をノックしても留守だったことを伝えると念の為大丈夫か確認しておくと言われたのでひとまず実家へ戻ることにした。
「あれ、村上さんの宿に行ってたんじゃないのかい?」
僕のあまりにも早い帰宅に驚いた母親が何かあったのかと聞いてきたが僕が尋ねたが留守だったことを伝えると納得したのかまた台所へと戻っていった。
未だにあの日に奏と言い争いをしてしまったことは母親にも秀影おじさんにも話せていない。
「はぁ……、どうしようかな。」
正直今日奏に勇気を出して謝ろうとはしたが正直会っても何も変わらない気もした。
あの時奏は
あの時から何か変わったかというと何も変わっていない気がする。
ただきた初日から変わらずに農作業やご近所さんと物々交換をしているだけで特に新しい行動は起こしていないのだ。
「またギター、やるしかないのか……?」
ギターをまた再開する。それは一番やりたくなかったことで、今絶対ギターを見たらおかしくなってしまうに違いない。
「別に今やらなくちゃいけない訳じゃないし、それに無理してやるまでもないけど……。」
奏のあの言葉が胸に引っかかってずっとむずむずしている自分がいるのも確かだ。
そんな時に母親が村上さんが尋ねてきてると僕をキッチンから呼んでいる。
キッチンに向かうと窓から村上さんがバンドメンバーが帰ってきたと教えてくれた。
どうやら薬などを買い出しに行っていたらしく、部屋の中には寝ている奏しか居なかったので対応できなかったらしい。
「どうせなんだし、久しぶりに会いに行ってきなさいよ。」
母親にそう言われて僕は一度は断ったが、何も知らない母親によって結局つまみ出されてしまったので仕方がなく村上さんと淀へ向かうことにした。
「なんでそんなに嫌がるのだい?お友達なんだろう?」
村上さんは不思議そうに僕に尋ねてくる。
「実は、昔少しいざこざがありまして……。」
僕は村上さんと田んぼ横の小道を歩きながらあの文化祭の時にあったことや、昨日奏と言い合いになったことを話す。
「なるほどな……。」
村上さんは少し難しそうな顔をしてから一言こういった。
「それはつまり、吉人君が大切な存在でモチベーションの燃料だったってことじゃないのかい?」
「どういうことですか……?」
ミスしてしまった人が大切な存在でモチベーションの燃料とはどういうことなのだろうか。
「つまり、その奏ちゃんという幼馴染の子は吉人君、君がいたから軽音楽部を続けていられたということなのではないか?おそらく今は、彼女は仕方がなく続けているような状態なのだろうな……。」
奏に昨日言われた言葉を思い出してみると確かにそんな話をしていた。
「もしそうだったとして僕は、僕はどうしたらいいんですか?喧嘩しちゃってて……。」
「簡単なことだ、実力で納得させるしかない。吉人君はギターをやっていたんだろう?なら、ギターをまたやって奏ちゃんのモチベーション担ってあげればいいんだよ。」
村上さんの言うことは確かに理にかなっているし、一番現実的だ。
「でも、僕もうギターを見るだけでも怖くて……。あの文化祭のことがフラッシュバックしてくるんです。」
村上さんの真摯な態度に僕はほぼ全てのことを話してしまったがなぜか後悔は無かった。
「そうか……そこまでなのか。ならまずは家に飾っておくというだけでもいいのではないか?おそらく吉人君は無理に克服しようとしてるから、そうやって嫌な記憶が思い出されるんだろうな。」
家に飾っておくという考えは思いつきもしなかったアイデアだった。
確かにいつも通るところに置いておくだけでも少しずつ克服できる材料になるかもしれない。
「ありがとうございます。僕、そのアイデア試してみます!」
その返事を待ってましたとでも言うように、村上さんはにっこりと笑ってくれた。
宿は気づけばもう目の前だった。
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