6.オタクを釣る一番手っ取り早い方法
次のライブでも、わたしには見えてないヘラヘラさんが望海ちゃんにだけ見えてて、わたしはグループ内推し変を確信する。むかつく。死んでるくせにほかの子に釣られやがって。
これが生きてるオタクだったら、というか、「生きてるオタク」って言葉がもうおかしいんだけど、まあ生きてるオタクだったら、ライブ中に送るレスを増やすとか、チェキ撮りに来てくれたらいつもより長く話しちゃうとか、繋ぎ止めるために打つ手もあるのだけれど、何しろ相手は幽霊なのだ。わたしには見えもしないのだ。どうしたらいいのだろう。
もう数カ月放置していた個人ブログを久々に更新してみることにする。幽霊が読めるのかはわからないけど。でも幽霊ならなんでもありっぽいからブログも読んでくれる気がする。
さて、どう書こ。
とりあえずタイトルを『霊感がほしい』にしてみる。久々に更新されたアイドルのブログとしてはエキセントリックすぎるかもしれないけど、もしヘラヘラさんが読んでくれたなら一発で自分に向けた記事だと分かってくれるはずだ。オタクを釣る一番手っ取り早い方法、それは私信なのだ。
本文を書き始める。まずはひさしぶりの更新になってしまったことを謝って、最近のライブや日々の出来事について記して、ファンの皆さんへの感謝の気持ちを綴って、次のライブの告知も入れて、最後に、
《ところで
みなさん、霊感ってありますか?←唐突(笑)
わたしは昔はあったんですが、最近はなくなってきたんです(泣)
なくなっちゃったら、寂しいので、また復活してほしいなと思ってます。切実に。
寂しすぎるよ。もどってきて》
ド私信を放り込んでみた。
でもこれなら、わたしを推してくれているほかのファンの人に、これが誰かに向けた私信だと悟られる心配もないだろう。ほかのオタクへの私信に気づくとオタクは病むから気をつけなければいけない。向けた相手にだけ私信と分かる私信こそが正しい私信なのだ。
《えー霊感なんてほしいの? なくなってよかったじゃんw》
みたいなコメントをいくつかいただく。果たして幽霊になったヘラヘラさんにこの私信は届くのか?
届く。
というのが、次のライブで、あっさりヘラヘラさんが復活しててわかる。またわたしだけを見てくれている。
終わった後、望海ちゃんに確認してみる。
「今日、こないだ話してた、あの物販来てくれないお客さんいた?」
「いませんでした」
チョロい! オタクチョロい! 生死に関係なくオタクはチョロい生き物(死に物?)なんだ!
もどってきてくれて嬉しい。いなくなるならまだしも、グループ内推し変なんて許せない。
成仏できないんならわたしだけを見ててほしい。
でもこのときのわたしは、ヘラヘラさんのわたしを見る目が変わっていたことにまだ気づいていない。
死んだ人間になんて固執するべきじゃなかったんだ。
霊は成仏するべきで、この世にとどまり続けるなんてよくないことだったんだ。
行き過ぎた私信はオタクの勘違いを生む。勘違いしたオタクは厄介なガチ恋となり、ほかのオタクを敵視し始める。
不用意に送ったわたしの私信が、ヘラヘラさんの何かを変えて、死んだオタクによる、生きたオタクへの、推し被り潰しが始まる。
(つづく)
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