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それには、驚いて・・・
真っ白になっていく宝田の頭の後ろを見詰めて・・・
「そんなこと考えてたの?
子どもなんて作れないでしょ、ただ婚姻届出しただけなのに。」
私がそう言うと、宝田は少し無言になった後に大きく笑った。
「確かに!!!」
「この前せんぱいの赤ちゃん抱っこして、赤ちゃん欲しくなっちゃったんでしょ!?」
せんぱいとは、桃子せんぱいのこと。
宝田と私が新卒の時に教育担当をしてくれた人。
宝田も私も桃子せんぱいのことが大好きで。
桃子せんぱいの可愛い可愛い赤ちゃんを抱っこしたから、そんなことを言い出したのかなと分かった。
それが分かったから、私は宝田に言った。
「私は今の生活で子どもなんて作れないから、宝田が子どもが欲しいと思ってるならいつでも離婚するからね!!
それで他の女の子と再婚して子ども作って!!」
そう言った私に、宝田はまた少し無言になってから・・・
「俺も別に子どもなんて欲しくないから。
長峰が欲しそうに見えたから、聞いただけ!!」
そう言ってきたので、私は笑った。
「せんぱいの赤ちゃん、可愛かったからね~!!!」
そして、ホテルに突然入ったけれど空いていたダブルベッドの部屋。
そこで煩くなる、この男・・・。
「バカヤローっっ!!!
何で日本酒をグラスに入れてるんだよ!?
お猪口渡しただろ!?
今、俺がお猪口渡しただろ!?」
ホテルのロビーで販売されていたお酒。
温まるしお酒を呑もうと何本か買って。
そして、私が日本酒をホテルに常備されているグラスに注いだらまた宝田が煩くなった。
「だっっっる!!!
お酒なんて何に入れても味変わらないでしょ!!
わざわざ何回も注がないといけないの面倒臭いから!!」
「バカヤローっっ!!!
何の為にお猪口があると思ってるんだよ!?
先人が作った道具なんだよ!!
それが今も残ってるということは、必ず意味があるからに決まってるだろ!!!
日本酒はな、呑んだ後に香りが返ってくるのも楽しむんだよ!!!
だから酒器は香りを膨らませないお猪口!!!
グラスなんかに注いだら香りも入ってくるだろ!!!」
宝田がそう怒鳴りながら言ってきて、お猪口に注いだ日本酒を渡してきた。
お酒好きの宝田が必ず持ち歩いている2つのお猪口。
それにお酒を注ぎ私に渡してきた。
「お猪口で呑んでみろ!!!
今グラスで呑んだのと全然違うはずだからな!?」
ここで断ると更にダルいことになるので、私は渡されたお猪口で日本酒を飲む。
「うん!美味しい!!
呑みやすくて美味しい日本酒!!」
「だろ!?」
「でも、グラスとの違いはこれっぽっちも分かんない!!」
私が素直にそう言うと、宝田は目をまん丸にしてカタカタと震え出した。
もう熱いシャワーを浴びて、なんなら2人で浴びて、そのままそこで夕方なのに夫婦の夜の生活までしてきた宝田が。
寒くないはずなのにカタカタと震え出して・・・
「バカヤローっっ!!!
何十年そんな舌で酒屋の娘をやってるんだよ!!!?」
そう怒鳴り付けてきた。
そんな宝田の指摘には笑うしかない。
「酒屋の娘だって、そんなの分かんないから!!
弟はお酒大好きだけど、私は普通に呑めるくらいだし!!
それに、日本酒を専門に置いてるわけでもなく色んなお酒を置いてる酒屋だから、日本酒にも全然詳しくないから!!」
宝田も昔から知っていることだけど、改めてこう説明をする。
いつもは“それもそうだな”で終わるのに、今日はまだカタカタと震えていて・・・
「長峰のお父さんに電話する!!!」
「はあ!?やめてよ!!
何の話するの!?」
「娘がバカ舌すぎるって!!!
バカ舌過ぎて、何も分からないし何でも口から出してくるバカ舌女だって!!!」
「娘の悪口言われて、お父さんは宝田に対して面白くない気持ちになるに決まってるじゃん!!」
と、私は言ったのに・・・
「うん!!・・・・・うん!!そう!!それ!!!
・・・・・・・そう!!!
いや~・・・マジで長峰の親父さん大好き!!!」
電話の向こうにいる私のお父さんと意気投合している。
まあ、予想は出来ていた。
私のお父さんは宝田のことが大のお気に入りだから。
日本酒をお猪口で呑みながら、私にニヤニヤとしながら電話をしている宝田を見て・・・。
ムカついてきたので、私はお母さんに電話を掛けた。
対抗して、自分のお母さんではなく宝田のお母さんの方に。
宝田のお母さんは終始クスクス笑いながら、更にその向こうにいるらしい宝田のお父さんにたまに説明していて。
遠くから宝田のお父さんが宝田のことについて厳しいコメントをしてくれ、私のフォローをしてくれていた。
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