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ドライヤーが終わり、洗面所を出るとリビングの明かりはついていた。
でも、宝田の部屋からは物音も微かに聞こえてきていて・・・。
私も部屋に入りたいのでリビングの電気を消したいところ・・・。
でも・・・
仕方がないので、宝田の部屋に入った。
ノックもせず、いつも通り入った。
そんな私を宝田はチラッと見てくることもなく、机の上でノートパソコンを開き何かを・・・いや、仕事をしているはず。
日曜日の夜に、仕事をしている。
この煩い男はそういう男でもあるから。
そんな宝田の姿を扉の所から見ていると、宝田は口を開いた。
やっぱり私のことを見ずに、口を開いた。
「電気?」
その言葉に、私は小さく「うん」と答えた。
そんな私の返事に宝田は立ち上がり、私の横を通りすぎてリビングに入っていった。
スラッとした・・・でも、ちゃんと筋肉もある宝田の後ろ姿を見た後、私は自分の部屋に入ってベッドに入った。
それから、電気のリモコンで明かりを消した・・・。
なんというか、その・・・
私もずっと実家で暮らしていて・・・。
お母さんは看護師だから家にいない夜もあるけれど、お父さんは必ずいたし、2歳下の弟も一人暮らしをすることもなく家にいる。
このマンションに引っ越してくるまで、リビングが明くるくなっているのが当たり前で。
仕事が忙しく帰りが遅くなっても、古くなった2階建ての我が家のリビングは必ず明かりがついていた。
真っ暗な道、ヘトヘトになりながら仕事から帰る時・・・
我が家のリビングから光るその明かりは、私の道標となっていた。
同じ東京にある実家を思い出しながら、この歳でホームシックになっていると・・・
私の部屋の扉が開いた。
ノックもなしに、普通に開いた。
そして、宝田が入ってきて・・・
2人きりで暮らしているし、宝田以外の人のわけがないので、宝田が入ってきて・・・
「今日、出来る?」
と、聞いてきた・・・。
私の部屋の中、真っ暗な中、宝田と夜の夫婦生活を繰り広げていく。
結婚しているし、まあ・・・こういうことはしている。
でも、そこにもやっぱり愛はなく・・・。
当たり前だけど、愛はなく・・・。
「今日、凄いね・・・長峰。
飲んだの結子とだしね。
少し酔ってるからか身体はめちゃくちゃ素直・・・。」
「・・・私、いつも素直だし・・・っ!!
生理現象だから仕方ないし・・・っ!!」
「素直は素直だけど、いつも口だけじゃなくて身体まで張り合ってくるから。
感じないように張り合ってくるからさ・・・。」
宝田の舌や手で気持ち良くされてしまう・・・。
今日も、気持ち良くされてしまう・・・。
言われてみれば、いつもよりは身体の力が抜けているかもしれない・・・。
友達と飲むお酒は久しぶりで、良い感じに酔ったのかもしれない・・・。
彼女が1人もいたことがないという宝田が、夜のテクニックがある・・・。
夜のテクニック“も”、ある・・・。
ムカつくことに、宝田は何でも器用にこなせて・・・。
本当に、何でも器用にこなせて・・・。
彼女が1人もいなかったはずの宝田は、結婚してから初めてした夜の夫婦生活のテクニックもめちゃくちゃあった・・・。
何度目かの高みに達し、酸素を求めて空気を吸う。
そんな私の顔を宝田は涼しい顔をして見下ろしている。
それが・・・目が慣れてきたので真っ暗の中でも見える。
嫌でも見えてしまう・・・。
何も反応していない顔で・・・。
私との夜の夫婦生活に、何も反応していない顔で・・・。
私との口喧嘩の時には反応しまくっている顔をしているのに、この時の宝田は涼しい顔をしている・・・。
それには毎回ムカつくので、今回も私は身体を起こした。
「次は私の番。」
そう言って、身体だけは反応出来ている宝田の下半身に触れた。
結婚したからには宝田も私もお互いとしかこういうことは出来ない。
なので、たまにこういうことはしていた。
たまにだけど、避妊はしっかりとして・・・。
その最中も口喧嘩を繰り広げながら、夜の夫婦生活も繰り広げていた・・・。
愛の言葉もなく・・・。
お互いの唇に触れることもなく・・・。
1度も、触れることもなく・・・。
結婚式の誓いのキスでさえ、ギリギリの所で止まった宝田・・・。
なのに、写真を見返したらしっかりと唇が触れ合っているように見えて・・・。
私達夫婦の唇は重なることはない・・・。
きっと、これから先も、重なることはない・・・。
宝田と私はキスもしないまま夫婦になった・・・。
愛の言葉を囁かれることも、私が愛の言葉を囁くこともない・・・。
そんな、夫婦になった・・・。
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