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「・・・長峰!!!!

この日本酒、冷蔵庫に入れないでよ!!!」




可愛い可愛い結子との楽しかったデートの後、宝田と暮らす2LDKのマンションに帰ると早々に宝田が騒ぎだした。




日本酒の一升瓶を持ちながらそんなことをまた言ってくる。

それに溜め息を吐いた後に宝田に言う。




「じゃあ、自分の部屋に置いておいてよ。

キッチンに置かれたら邪魔。」




「部屋には開けてない日本酒を置いてる!!

開けたらキッチンに置いておくのが俺のやり方なんだよ!!

1年以上も一緒に暮らしてるのにまだ覚えられないとかダルくなるからね、長峰!!」




「常温とか冷蔵とか、私には分からないから!!!

色々と拘り強すぎて本当に煩い男!!

だから顔は良いのにモテないんだよ!!」




「・・・はあ~!?バカヤローっっ!!

基本的には常温なんだよ!!

中には冷蔵しないといけない物もあるから冷蔵庫に入れてるんだからな!?

それに、モテないとかふざけんなよ!!!

どう見たらそう見えるんだよ!?」




「そのバカヤローとかやめてよ!!

急に口調も変わるし本当に煩い!!

あと!!!朝、食器洗わなかったでしょ!!!

キッチンは常に綺麗にしておくのが私のやり方なの!!!

宝田こそまだ覚えられないとか、だっっる!!!」




お風呂の湯船に入り、まだ鎮まらない怒りの感情ごと身体を湯船に沈める。

寒い2月の季節、濁りピンクの入浴剤を入れて少し落ち着いてきた頃・・・




浴室の扉が、開いた。




普通に、開いた。




それに私も何の反応もせず、入ってきた人を見上げる。




普通の顔をして入ってきた宝田。




身体のどこも隠していないので、細くも筋肉のある身体が今日もあり・・・




そして、何の反応もしていない下半身もある。




そんな宝田に普通に口を開く。




「また入ってこないでよ、1人でゆっくり入りたかったのに。」




「俺がお風呂に入ろうとしたら先に長峰が入ったんだよ。

俺がお風呂沸かしてたよね?

入浴剤だって入ってなかったってことは、俺がまだ入ってないって分かったよね?

それに、長峰だって俺がお風呂に入ってるとよく入ってくるじゃん。」




「それは、私がお風呂に入ろうとしてたら先に宝田が入るからじゃん。」




そう言ってから、私は口を閉じた。

そしたら宝田ももう何も言わなかった。




どっちもどっちだとは、頭では分かっているから。

宝田も、分かってはいるから。




でも、止まらなくなる。

宝田と話していると止まらなくなる。

当たり前かのように、こんなやり取りばかりになる。




自社製品ではないスキンケア用品でスキンケアをしていく。

フワ─────ッ...と一瞬だけ香るその匂い。

嫌ではないその香りはすぐに消え、私の肌だけではなく心の中におさまった。




そして、それからスウェット姿でドライヤーで髪の毛を乾かしていく。

結婚してこの家に引っ越してきた時、宝田が実家から持ってきたドライヤー。

家電量販店で見掛けないようなドライヤー。

聞き覚えのない会社の、真っ黒で重めのドライヤー。




これが、凄い・・・。

この中に何かの石が入っているらしく、髪の毛が痛んでいくどころかトゥルントゥルンになる。

そして、私の黒い髪の毛に天使の輪が出来ていく。

更には冷風でリンパの流れのマッサージまで出来てリフトアップ効果まで期待出来る。




拘りが強すぎるうるさい男だけど、一緒に暮らし初めてからこういう恩恵も受けてはいる。




愛のない結婚生活・・・。




宝田と私は、愛はないのに結婚をした・・・。




まさかの、売り言葉に買い言葉で結婚をした・・・。




入籍をした数日後、それが会社の集中プロジェクトによって仕組まれていた1つだったと知ることとなった・・・。




愛はない・・・。




この生活に、愛はない・・・。




この結婚に、愛はない・・・。




婚姻届は確かに黒い文字で埋められていたのに、まるで白紙で出してしまったかのような錯覚に陥る・・・。




真っ白だった・・・。




結婚式の時に着たウェディングドレスのように、真っ白だった・・・。




婚姻届だけではなく、これからの道も・・・。




どこが道かも分からなくなったくらい・・・。




それくらいの雪が積もった真っ白な世界・・・。




進むべき道がどこにあるのか分からない中、その場で立ち止まった・・・。




真っ白な世界の中、1人で立ち止まっていた・・・。

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