第24話 山崎先生とふたりの夜
「来てくれて、ありがとう」
「いえ、その、……わたしの方こそ、その、……ありがとうございます」
来てしまった。わたしはAV女優、山崎先生はプロデューサー。個室のレストランでの密会なんてバレた日にはマスコミが黙ってはいないだろう。
「さあさ、何でも注文してよ。今日は僕の奢りだからね」
「いや、わたしだって、その……稼いでますし、奢ってもらうのは……」
「僕が誘ったんだから、奢らせてよ」
山崎先生はニコッと笑った。あー、イケメン最高。イケメンが笑うと絵になるなあ。わたしは特別イケメン好きと言うわけでもないのだが、やはり顔の整っている男の子は正直ドキドキする。
人間性が重要という人もいるし、付き合っていけば好きになっていくと言うのも勿論あるだろう。
でもそう言う意味でも山崎先生は、顔も性格も、そして仕事も全てパーフェクトだ。わたしは、山崎先生の容姿に惚れ、そこから内面に惚れて好きになり告白した。
「あ、あの……」
「どうしたの?」
山崎先生が覗き込むようにわたしをじっと見てくる。胸の高鳴りが止まらない。鼓動の音、もしかしたら山崎先生に聞こえるかも……。顔、赤くなってないかな?
「いっ、いえ……、何でもないですよ」
こんなにじっと見られると照れてしまう。あー、この人を好きだと言う呪縛から、わたしは逃れられてないのだ。あー、かっこいい。好き……。
口には出さずに、心の中で呟いた。
「ちょっと、お手洗いに行ってきますね」
「うん、ゆっくりして来て」
胸の高鳴りは心臓発作一歩手前じゃないかとさえ思えてくる。
「うわ、やばいくらい顔、真っ赤だ」
トイレの鏡に映る自分の顔は驚くほど赤かった。赤面してることバレただろうか。山崎先生なら、バレても気がつかないふりをするくらい普通にするだろう。恥ずかしい。子供でもないのに……。
「わたしはどうすればいいの?」
鏡の中の自分を覗き込んで、ふと聞いてしまう。わたしは、今日どうなるんだろう。どうしたいのだろう。
冷静になんて考えられない。もし今日、山崎先生に言い寄られたら、とても断れる気がしない。完全に赤信号なのに、身体がそれを求めている。
「遅かったね」
「ごめんなさい。ちょっと時間かかって……」
嘘だ。手洗いでは何もせずに顔を覗き込んでいただけだ。
「まあ、沙也加の新しい決断に乾杯しよう」
わたしはソーダサワー、山崎先生はビールで乾杯した。
「ここのご飯、美味しいですね」
「だろう、ここは芸能人も少なくて穴場なんだよ」
「へえ、いい雰囲気の店なのに意外ですね」
「まだ開店して日にち経ってないからね」
フランス料理のコースで、前菜が出てその後、様々な美味しい料理が出てきた。メインのステーキは頬が落ちそうなくらい柔らかくて美味しかった。未来の料理も凄く美味しいが流石に家の食材でこの味の再現は不可能だろう。
お値段かなり、高いんじゃなかろうか。
「それよりさ、今日はこれから空いてる?」
「えっ!?」
それって、……夜のお誘い……。えと、どうすればいいのだろう。今日は何があってもいいように未来には何時に帰れるか分からないとは伝えていた。でも、……流石にそれはまずいんじゃないかと……。
じっと山崎先生の顔を見る。切れ長の整った瞳に長い鼻、そして優しそうな笑顔。わたしは思わず目を逸らしてしまう。
「どうしたの?」
「いえ、なんでも……ないです」
「でも、……顔……、赤いよ。熱ない?」
「いえ、これはそうじゃなくてですね」
わたしは思わず顔を伏せてしまった。
「可愛い……よ」
山崎先生の顔がわたしの目の前にあった。手はわたしのおでこに載せられている。熱はない。ないのだけれども……。
あー、恥ずかしい。トイレに逃げようかとも思ったが、そんなに何度も行くのも変だし……どうすればいいんだろう。
「キス……していい?」
「えっ? ええええええっ」
わたしの声があまりにも大きかったので、山崎先生は顔を逸らした。
「冗談だよ」
えと、冗談だったんだ。本当に心臓に悪いよ。あっ、喉がカラカラだ。わたしは喉の渇きを癒すために、ソーダサワーを口に含んだ。
「でも、沙也加をじっと見ていたいな」
「そんな照れること言わないでください」
視線を合わせてきた山崎先生の視線を慌てて逸らせてしまう。AV女優として知らない人と何回も性行為をしたが、そんなものよりも山崎先生に見つめられる方が遥かにドキドキしたし、ずっと緊張した。
「で、さっきの答え……教えて?」
「さっきの!?」
「だから、これから後の予定だけど……」
わたしはどう答えれば良いのだろう。はい、と言う言葉が簡単に出てこない。ここは心を空っぽにして、はいと言うべきなのだが……。
「いいね」
「断る理由がありません」
わたしは、蛇に囚われた子猫のようなものだ。煮るも焼くもわたしには選択肢はない。
「じゃあ、行こうよ」
心の中でどこへ、と言う言葉が出るがわたしはその言葉を飲み込んだ。もし、その言葉がホテルだったら、わたしは行けない。言われなければ、その後がホテルであっても許される気がした……。
わたし、ズルい女だ。山崎先生は、会計をカードでさっさと済ませて、わたしの手を握った。
「じゃあ、行こうよ」
「はい」
わたしは何も考えられず、その言葉に肯定しかできなかった。
――――――――
どうなっちゃうんでしょうね
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今後もよろしくお願いしますね。
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