第23話 ケーキと騒動

「ただいま」


 わたしが家に帰ると未来が心配そうに玄関まで出てきた。


「大丈夫だった?」


「うん、大丈夫、大丈夫。実は妹と会って来たの」


 妹と言う言葉に未来は表情をさらに曇らせた。無理もない。麻友を知っている未来にとって、身内から声を掛けられたと言うことは、それだけで心配になる。


「その、大丈夫なの? 仕事のこととか……」


「一節縄では行かないよね」


「そっか。その話では何かあったんだね」


「自分が選んでなった仕事だからね。責任持ってやらないとダメだけども、それで身内を不幸にしちゃうのは、もっとダメだからね」


 未来はその言葉を聞くとそっかとだけ言ってキッチンに戻って行った。


「まあ、その話は置いておいて、ご飯食べようよ。冷めちゃうし」


「美味しそう。今日の料理は豪華だね」


 テーブルにはチキン、生ハムのカルパッチョ、グリーンホットサラダ、コーンスープ、フライドポテトがあった。


「ふたりだと少し多いかもね」


「まあ、残ったら明日に回すから大丈夫だよ」


「そう言って、また手を加えなくていいよ」


 そうなのだ。未来は次の料理にするにも手を加えるので、そのまま出てくることは滅多にない。このままじゃ、料理もしなくなり、わたし結婚できなくなりそうだ。


 今の時代では男も料理をすると言っても限定的だ。それを期待すると失望させられる。


「大丈夫、大丈夫。それより食べよ」


 料理は美味しかった。デザートのケーキも流石老舗の店だけあって、甘すぎることも、かと言って味気ないわけでもなく美味しい。


 未来とわたしは、食べながら色々話をしたが、未来も私に気を遣ってるのか麻友との話には触れなかった。


「あー、美味しかった」


 ご飯が終わって食事を片付けた時にわたしは簡単に今日あったことを話した。


「彼氏の家に行くって、大丈夫なの?」


「大丈夫か、分からないけども説得できる可能性はあると思う」


 未来は嬉しそうにわたしの手を握った。


「じゃあ、決断してくれたんだね」


「もう、その方向しか残ってないよ」


「わたしは、沙也加がオスカルやってくれると嬉しいなって思ってたよ」


「決まったわけじゃないよ。未来と違って練習しないとダメだろうし」


 未来のマリーアントワネットと違って、池田先生はわたしの演技を褒めてくれたわけじゃないのだ。練習をしっかりしないときっと合格できない。


 そう考えていると、スマホが鳴った。画面を見ると妹の麻友の名前が表示されていた。


「麻友、どうしたの?」


 電話の向こうの麻友の声は泣き声が含まれていた。


「あのね、今日雅孝くんのお母さんが家に来てたらしくて、うちのお母さんに別れてくれないか、って……」


「なんで!?」


「向こうも世間体があるらしくて、そのお姉ちゃん有名でしょ。近所の人からも色々噂になってるらしいのよ」


「それで、お母さんはなんて……」


「ふたりの問題だから、とりあえずお互い話してみないと分からないよ、と言ってくれてるよ、……でも、これではとても結婚なんてできない」


 わたしは雅孝の両親よりも前にうちの両親と話すべきじゃないかと感じた。


「明日でも家に行こうか……、何言われるか分からないけども、それだと、まずはうちの両親と話し合う必要あるかもしれないよ」


「お姉ちゃんが来てくれると助かるよ」


 妹からお願いします、と言われた。もう、時間は待ってくれない。電話を切ると不安そうにこちらを見ている未来の姿があった。


「大丈夫? 全部聞いたわけじゃないけど、なんか大変なことになってる?」


「うん、雅孝のお母さんが別れてくれって……、頼みに来たらしい」


 これを聞いた未来はわたしをそっと抱きついてきた。


「ねえ、もう撮影やめた方がいいんじゃない?」


「一時的な休止はあり得るけど、無理だよ。この手の契約は基本複数契約なんだ。わたしの場合、残り8本の契約が残ってる……」


 金銭面だけ言うと相当な前金が振り込まれていた。後戻りはできない。ただ、舞台を理由に撮影を先延ばしにすることはできるとは思う。


「そっか……、とりあえず山崎先生に連絡しない?」


 そうだ。将来の方向をわたしが勝手に決めても、それで方針が決まるわけじゃない。わたしはもう一度、スマホを手にして、山崎先生に連絡した。電話は数回の発信音の後に繋がった。


「もしもし、沙也加か。どうした……」


「わたしも演劇のオーディション出られないかな?」


「おっ、やる気になってくれた?」


「止む止まれぬ事情からね」


「そうか……、池田先生が言ったように合格する可能性は高いと思うよ。もし良かったら、レッスンプロを紹介しようか?」


「ありがとう。その方がいいよね」


「オーディションになると、光るものも重要だけども、やはり演技力が問われるからね」


「お願いします」


「僕の方からそれとなく監督と池田先生に伝えておくよ」


「ありがとう。その、何から何までお願いして。ごめんなさい」


「沙也加が幸せになるなら、僕はそれでいいよ」


 あれ、この言葉がわたしの胸を大きく打つ。もう終わったと思っていた懐かしいドキドキした感覚。ダメだ、わたしと一緒になったら不幸になるから……。


「それじゃあ、切るね」


「ちょっと待って!」


「うん!?」


「打ち合わせも兼ねて、レストランで食事しない? その個室で口も硬いところがあるからさ」


 その言葉にわたしは、目を瞬かせた。行きたいけども、もしマスコミにリークされたら怖い……。わたしの口は重くなかなか答えが出せないでいた。




――――――



おやすみすみません。

今日から毎日目指して頑張ります


応援ありがとうございます。

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