第19話 茶番

「それでは投票を始めます。この投票は原作者の池田先生、監督、映画の制作配給会社の3人で行います」


 三票か。分が悪いな。演技力だけでは勝てない芸能界。未来が勝つのは難しいとわたしは感じていた。


 呼ばれた3人が出演者の名前を書いていく。優奈の演技がもっと棒演技であれば良かったのだけれども、これでは見る人が見れば甲乙つけ難いと言われても仕方ない気がした。


 不安そうな表情をしていると山崎先生がわたしの隣に座った。


「先生、未来のところにいなくても大丈夫なんですか?」


「うん、全て終わったからね。未来ちゃん頑張ったね」


「本当にそう思います。結果がどうであれ褒めてあげたいです」


「うん、彼女の演技は本物だよ。もしかしたら彼女の演技を見てどこか声がかかるかもね」


「やはり、ベルサイユのヒロインは難しいですかね」


「朝倉があそこまで手を回してるとは思わなかったよ。これはかなり厳しい」


「でも、池田先生は……」


「確かに先生の未来への関心は強い。それは嬉しいことだよ。でも、それだけじゃ難しいよね」


 確かにそうだ。これは子供の世界ではないのだ。池田先生だって、きっと分かっておられる。だから、きっと……。


「それでは、発表させていただきます」


 もう一度、会場にみんな集められた。


「ベルサイユのヒロインを勝ち取ったのは、……結城優奈さんです!!」


 やはりそうか。たったひとりではこの状況が覆るわけがない。


 優奈はみんなの前に一歩出た。未来は命とも言うべき髪まで切ったのに。わたしは悔しくて涙が出てきた。


「何をおっしゃっているのですか?」


 会場にひとりの女性の声が響き渡った。


「はい?」


 その声に監督が素っ頓狂な声を上げる。


「池田先生、どうされましたか?」


「どうされたも何もあなたたち、居眠りでもしてたの?」


 池田先生があたり前のように言っているため、止める言葉が見つからず、みんな言葉を失っていた。嘘、池田先生が―大人が言うわけがないと思ってた。それを口に出しているのだ。


「おかしいって言ってるのよ。ベルサイユのヒロインは前川未来ちゃんに決まってるでしょう」


 そう言いながら未来の前に立った。


「可哀想に女に取って命と同じくらい大切な髪を演技のためにね。あなただけよ、わたしが描きたかったマリーアントワネットの苦悩が分かってたのわね」


「ちょっと先生、待ってくださいよ。何を言い出すのですか!」


 監督が慌てて池田先生の前に立って頭を下げる。


「やめて下さいよ。ヒロインは決まってるんですよ。勝手に変えられては困るんです」


 この言葉が池田先生の怒りにさらに火をつけた。


「と言うことはあなた達、最初からグルで決めてたって言うの!?」


「そう言うわけでは……」


「あなた達の言っていることはそう言うことでしょう」


 池田先生が朝倉を無視して、会場に目を向ける。


「そうだ、じゃあ。試験の内容を変えてふたりが戦うと言うのはどうかしら? 例えばそうね。初めてマリーアントワネットが、フェルセン伯と出会った時はどうでしょう。乙女の恋の高鳴り、凄く絵になるわ」


「はい、池田先生、わたしもそう思います!」


 未来も嬉しそうに賛同した。優奈の方を見てみると顔が強張って震えていた。


「おや、もしかしてベルバラの演技をするのに、別のシーンはできないとでも言うの?」


「えと、これはですね」


「あなたは黙っていなさい! わたしは優奈さんに聞いてるの!!」


 勝負合ったと思った。他のシーンを即興で出来ないのなら未来に勝てるわけがない。ハリボテが剥がれた瞬間だった。


「ごめんなさい。わたし……、ヒロインにしてあげるからって言われて……、本当はベルバラの演技なんか殆ど出来なくて……すみませんでした」


「いいのよ、分かってたから……」


「えっ!?」


「わたしが何年ベルバラやってると思うのよ。そんなの見れば分かるわ」


 この瞬間、未来がマリーアントワネットに決まったと言ってもいい。原作者の凄さをまざまざと見せつけられた瞬間だった。


「て、ことで未来ちゃんがヒロインで大丈夫かしら? 朝倉プロデューサー!」


「えと、そのですね……」


「他に何か言い訳があるの? あなたの裏側から手を回す汚いやり方はよく知ってるのよ」


「でも、未来に同居してる女は、AV女優で、元アイドルにも関わらず汚い仕事を……」


「ふざけないで! そんな下を見て蔑むような台詞がどこから出て来るのかしら。どんな仕事でも仕事よ。貴賤は関係ない。それと演技に関しては、この瞬間が全てよ」


 その後、池田先生は監督に目を向けて決め打ちをする。


「それとも、未来ちゃんをヒロインにしないつもり? なら、映画も認められないけど大丈夫?」


「えっ、それとこれとは……」


「一緒よ。わたしは原作者。あなたは原作者のわたしに喧嘩を売ったの。なら、分かるでしょ」


「すみませんでした。先生のおっしゃられた通り、未来をマリーアントワネットにして公演をやります」


「そうよ、それでいいわ。そうね。それと未来ちゃんに何か嫌なことをしらわたしが許さないからね」


 そう言って未来に近づく。


「未来ちゃん、何かあったらおばあちゃんに言ってね。実のおばあちゃんと思ってくれても大丈夫よ」


「先生、ありがとうございます」


 池田先生は未来の手を握った。芸能界、こんな番狂せが起こるから面白い。わたしは胸の高鳴りが止まらなかった。


「それとね、お友達の演技も見てみたいわ」


「はい?」


「だから、そのAV女優をしてると言う娘ね」


「先生、沙也加は!」


「そう沙也加さんって言うの。応援に来てるのかしら」


 嘘、……これはチャンスだが、出て行って良いのだろうか? わたしは、先生の真意が分からず出るに出られなかった。




――――――――




読んでいただきありがとうございます。

未来が決まりそうですが、沙也加も???


一波乱ありそうですね。

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