第17話 控室での争い
控室に朝倉と彼が選んだ女優候補が入ってきた。
「……嘘っ」
わたしと未来、そして悠一までもが息を呑んだ。
「優奈、なぜあなたがここにいるの?」
「なぜって……? オーディションに来たに決まってるでしょ! あなたの方こそ、なぜここにいるの? あなたはAV女優でしょ」
綾城優奈はわたしを睨みながら、控室のみんなに聞こえるように大声でそう言って笑った。
「あはははは、それにしても仲がいいのね。未来もこんなのと一緒にいて男に抱かれたいのかしら……」
「ふざけないでよ。あなたなんかに沙也加の何が分かるのよ!」
「分かるわよ! 勝手にAVに堕ちて発表会だ。そのおかげでわたしまで、いつ脱ぐのか変な事務所から連絡が来てんのよ」
「そもそも、それを言うならあのふたりが妊娠したから、こんな事になってるんでしょ」
「アイドルが人を好きになって何が悪いのよ! それで結婚するのなら文句も言えるわけないよね」
「それは違う! アイドルはお客様に夢を提供するのよ。なのに、それを壊しちゃったら、グループなんか崩壊しちゃうでしょ」
未来は涙目になりながら、優奈を睨みつけた。握られた両手は怒りに震えていた。
「もういいよ、未来……この話いくら言い合っても平行線だよ。言わなくていい。いいからさ」
わたしは未来がこんな不毛な争いで傷つくのが見てられなくて、思わず未来の手を取った。
「でも……!」
「何を言われようと勝てばいいのよ。勝てばね」
「ふんっ、まあ今のうちに吠えずらかいておけばいいわ。AV女優と泣き虫さんはね」
それだけ言うと優奈は、朝倉と一緒に控え室を出て行った。
「ちょっといいかな」
山崎先生がわたしと未来の正面に立った。
「大丈夫、……ですよ」
「わたしも、大丈夫」
「うん、どうやら朝倉が連れてきたのはきみたちの元グループのメンバーのようだね」
「はい、優奈はフラワーズの元メンバーです。彼女は勝ち気で昔から色々とわたしたちと揉めていました。でも、一番の亀裂はあの妊娠発覚で……」
「うん、その話は僕も知ってる。おかげでグループが崩壊したこともね」
「その時にふたりを庇ったのが優奈です。なぜ庇うのか当時どうしても許せなくて、言い争いになりました」
「そんな優奈を朝倉が連れてきた。何かがあるような気がするね」
確かにそうだ。演技力だけを考えれば優奈は未来には勝てない。それは優奈にだって分かったはずだ。ベルサイユ公演で未来が演じるマリーアントワネットの演技は飛び抜けて素晴らしかった。
「山崎先生は、朝倉が何を考えてると思いますか?」
「彼のやりそうな事は分かるよ。きっと裏から手を回している。審査員を抱き込んでるとすると勝つのは非常に困難かもしれない」
そうか。わざわざこの起用をして来たのは、わたしに対する当てつけか。
「朝倉は僕と違って演技力には興味はない。あるのは、野心だけだよ」
「それじゃあ、勝ち目なんて無いような」
「僕たちはやるだけのことをやるだけだよ。きっと人の心は動くと信じてる」
「確かにそうですね。未来、頑張れ!」
「うん! 頑張るよ」
「あっ、それと今回のオーディション、付き添いの人でも見ることができるようだよ。応援してあげて欲しい」
控室で待たないとならないと思っていたから、わたしは正直嬉しかった。未来の演技をもう一度見れるのだ。
「わたし、応援するからね」
「声援はやめてくれよ」
山崎先生が冗談を言う。
「そんなことするわけないですよ」
わたしが大きく口を膨らませて、怒った表情をした。みんなから笑みが溢れた。
「行こう、そろそろ時間だよ」
◇◇◇
オーディション会場は意外に大きく、目の前に舞台、審査員席、そして付き添いの人が観覧できる席が用意されていた。
「嘘? この舞台ってベルバラ……」
「うん、明らかにしてなかったけれども、そうみたいだね。あれって原作者の……」
会場には原作者さえもいて、この舞台がただの舞台でないことは明らかだった。
「最近のリバイバル人気でベルバラの映画化などと併せて演劇もしたいそうだ。演劇では宝塚がよくやってるけども、あれよりもドラマに近い感じのようだね」
演劇はオスカルとマリーアントワネットの話を日本風にアレンジしたようなお話になるそうだ。ベルバラはフランスの史実を元にした悲恋ものだが、今まで日本風にアレンジしたことはなかった。
「えと、みなさまお集まりいただき、ありがとうございます。この舞台は東京、名古屋、大阪、福岡、岡山で土日を含めた七公演。全国で35公演が予定されております。予定では二ヶ月後の七月東京公演を皮切りに八月末までの予定で行われます」
ここから監督から演技の内容、演技順が説明された。優奈が最後から一つ前、未来が最後に演技を行う。持ち時間は10分。監督から言われた演技を即興で行うと言うもので、ベルバラのワンシーンを演技すると言うものだった。
「そうか、だから未来に声がかかったんだね」
「そうみたいだね。沙也加、わたしベルバラなら絶対負けないよ」
「がんばれ」
いくら朝倉がコネを使ってもベルバラなら未来に負けるわけがない。だって、未来は本当にベルバラが好きなのだ。
どんなコネを使ったかは知らないが、未来の本気思い知らせてやる。わたしは自分が出演するわけでもないのに、なぜかこのオーディションは負けないと思った。
だって、原作者がいるんだよ。池田理世子先生が未来のベルバラ愛に気づかないわけがない。
――――――――
すみません。
原作者を登場させて、申し訳ありません。
こんな話見てるわけはありませんが、池田理代子先生、お名前をお借りいたしました。
一応、そのまま引用するのは失礼なので代の字を世に変えてます。
誤字ではありませんので。
角川様、問題があれば変更いたします。
ご容赦のほどよろしくお願いします。
いつも応援ありがとうございます。
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