第15話 お祝い

 AVだが販売されて一気にランキング一位に1週間でたどり着いた。元アイドルという肩書きだから、当たり前なんだろうけども、結果が出せて正直ホッとした。


「沙也加、良かったね」


 未来はそれを見てニッコリと微笑んだ。AV業界は最初は伸びやすい。ユーザーは処女性を望んでいるようで、培った演技力よりも大根役者でもいいから、新鮮さが重視される。


 そういう意味ではこの順位は当たり前なのだ。それでも……。


「安心したよ」


 わたしに抱きつきながら、自分のことのように喜んでくれる未来を見ていると嬉しかった。


「今日はお祝いしないといけないよね」


「いいよ、普通でさ」


「そう言うわけには行きませーん」


 手作りケーキに挑戦すると言って朝から台所でケーキ作りに真剣な表情で取り組んでいた。


「わたしも手伝うよ」


「ダメだよ。沙也加のお祝いなんだからね」


「ねえ?」


「んっ?」


「朝倉にも作ってあげたの?」


「まさか、作ったことないよ。だって、家に呼んだことも、呼ばれたこともなかったもん」


 驚いた。もしかしたら、この姿を見ていたら、何かが変わったかもしれない。ただし、浮気男の一番なんて勝ち取ったって意味なんてないだろう。


「絶対に未来を捨てたこと後悔させてやるからね」


「えーっ、そんなこと考えてたの?」


「もちろんだよ」


 もう一度、朝倉への復讐をわたしは誓うのだった。


「ねえ、明日のオーディション。練習しなくて大丈夫!?」


「もう何度も練習したじゃん」


「それはそうだけどさ。そうだ、明日ついていってあげようか」


「えーーーっ、なんて言うのよ」


「姉ですとか……、だめ!?」


「ダメじゃないけども、じゃあお願いしようかな」


「うんうん、わたしが見てあげるから頑張れ」


「流石にオーディションは見れないと思うけども」


 それはそうか。それでも一緒にいてあげたかった。


「ねえ、わたしがいてマイナスにならないかな?」


 ふと考えてしまう。わたしのAVが有名になったため、知っている人もいるだろう。わたしが未来のそばにいたら悪い噂でも立たないだろうか。


「ならないよ。それにさ、もしそんな人がいるなら、わたしの方が願い下げだね」


 未来にそう言われると少し気分が楽になった。


「ありがとうね」


「わたしと沙也加はね。ふたりでひとりなんだよ」


 未来がわたしに抱きついてきた。


「ずっと一緒だよ。何があってもね」


 用意されたケーキはイチゴのホールケーキだった。店のものよりも甘さが抑えられていたけれど、そのまろやかさが却って美味しかった。


「今後もよろしくね」


「わたしの方がよろしくだよ。沙也加、よろしくお願いします」


「今日のお願いはこれでいいかな」


「あっ、忘れてた。お願いしてして」


 未来が乗り出すようにこっちに近づいてきた。猫のさやちんは未来の膝の上に乗り、ゆっくりと寝ていた。


 最近のさやちんの特等席らしく、未来が家にいる時はそこにいることが多かった。


「じゃあ、今日も一緒に寝よか」


「うんうん、それだけでいい!?」


 えっ、それだけでって、ちょっと頭の中に変な妄想が湧き起こる。いやいや、それはダメだよ。


「今日は抱きあいながら寝ようか?」


 未来は驚くことを言った。ちょっと待ってよ、それは我慢の限界を超えてしまいそうだ。って、何を考えてるんだよ。


「分かった」


 でも、その誘惑に抗えるわけもなくて、それだけ言った。心臓はドキドキしている。きっと撮影中に誰と絡むよりも緊張していた。わたしってもしかしてバイなの?




◇◇◇



 わたしはベッドに座って未来を待つ。なんだよ、この新婚初夜のような感覚は……。わたしはドキドキしながらベッドの上で未来を待った。さやちんは先にベッドに潜り込んで寝ていた。


「あーあ、わたしもこんなに図太くなりたいよ」


「お待たせぇ」


「えっ!?」


「ちょっと大胆かな?」


 それはパジャマと言うよりネグリジェに近かった。ピンクのレースの衣装をまとった未来はいつもよりずっと大人ぽく見えた。


「可愛いけども、それって……」


「朝倉を誘惑しようとして買ったんだけどね。結局、着る機会なかったね」


「えっ、もしかして未来って朝倉とエッチしてないの?」


「してないよ、と言うか正確にはできなかった」


「どう言うこと?」


「わたし、小さい時に二人目のお父さんにその、犯されそうになったことがあってね」


「嘘!?」


「お母さんがすぐに気づいて助けてくれたから、何もなかったんだけどね。それ以来、男の人が怖くなった


 初めて聞いた。未来がそんな家庭に育っていたなんて。


「お母さん、その男と別れて二度と結婚しなかった」


 何も知らなかった。家庭の事情なんて聞くものでもないから、当たり前だけれども、こんなに近いと思っていた未来が過去にそんな壮絶な経験をしていたなんて。


「だからね、朝倉に何度もホテルに連れられたけども、その……、わたし逃げ出したの。だからかな……自業自得なんだよ」


「それは違うよ。過去にそんな体験をしていたのなら、それを知っていたのなら、守ってあげないと……」


「ありがとうね。だから合わなかったんだよ」


 未来はわたしに抱きついてきた。


「わたしは大丈夫?」


「だって沙也加は女だよ」


「そりゃそうだ」


 わたしは何を考えてるんだ。危ない危ない。それを聞いたら尚更、未来を守ってやらないとと言う気持ちが強くなった。


「ねえ、沙也加、キスしよっか?」


「はいっ?」

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