第14話 入院

「どうしたのよ、ねえ!」


「ちょっとだけ寝かせて」


「何があったのよ!!」


「すぐに慣れるよ……、慣れてないからね」


「悠一さん、ちゃんと説明してください」


 わたしは下腹部の熱を下げるためアイスノンを持ってきてもらったりして、色々やって見たが、ジンジンとする痛みが引くことはなく、逆に立てなくなるほど痛くなってきた。結局、搬送されるように悠一の車で自宅のマンションに戻った。


「ごめんな、あいつらやりすぎだよ」


「本当、最悪だよ」


 監督に大きく頭を下げられた。激しい性交渉により、大きく腫れてしまったようだった。あまり濡れてなかったこともあったのだろう。


 悠一はこれまでの話を怒りの表情を露わにした未来に説明した。


「こんな仕事、もう辞めさせてください!」


「未来、駄目だよ。わたしが稼がないとね」


「こんなことしてまで、稼いでもらわなくてもいいよ。わたしとふたりで力を合わせたら、ここの家賃と生活費くらいなんとかなるよ」


「とりあえず、その話は置いといて、わたし疲れたよ……」


 わたしがベッドに行こうとして、足を踏み外した。悠一が慌ててわたしの身体を支えてくれる。こんなところは男の子だなって思う。


「危なかった。大丈夫!!」


「ねえ、病院行こうよ」


「そうだな。病院行こうか」


 悠一と未来に説得されて、近くの総合病院で診療してもらった。真夜中だからもちろん救急だ。


「しばらく入院するかね」


「えっ!?」


「うん、膣に細菌が入ってるせいで腫れてるんだ。抗生物質で抑えるけども、二、三日は入院した方がいいよ」


 年配の医師は、どうしてこうなったとは聞かずに結論だけを言った。今の時代、こんな例は数多とあるだろう。


 幸いにも個室が空いていたので、そこで入院することになった。


「ねえ、沙也加……」


「どうしたん?」


「ありがとうね」


「わたし、何もしてないよ」


「そんなことないよ。こんな傷ついて」


 悠一は今後こんなことが無いように監督と話をすると出て行った。


「勘違いして欲しくないんだ。ファンの子たちが悪いんじゃないよ。わたしも自分のことよく分かってなかった」


 もっとセーブすべきだったのだ。擬似だってあると聞いた。AV撮影は何も性交渉を見せるものではない。演技でもいいのだ。


「ちょっと寝るね。未来は一度帰ってもいいと思う」


「気にしないで、わたしはやりたいからやってるだけだよ」


「ありがとう」


「何が!?」


「わたしを心配して怒ってくれてさ」


「そんなことないよ。わたしズルいんだよ。表舞台に立たずに沙也加にだけ辛い思いさせてさ」


「違うよ。わたし、未来には綺麗なままでいて欲しいんだ」


「でも、それじゃあ沙也加だけが……」


「わたしは未来のお姉ちゃんだからね。これはお姉ちゃんのわがままだよ」


 未来はわたしに覆い被さった。小さく嗚咽の声が聞こえる。わたしは優しく髪の毛を撫でてあげる。


「わたし、子供じゃないんだよ」


「知ってるよ」


「なら、わたしだって!」


「だめ、わたしが許さないよ」


「なぜ!?」


「わたしの未来を傷つけることは誰であれ許さない。もちろん、朝倉のこともね」


「なによ、それ」


 その日、ふたりして大泣きした。他の病人には迷惑だったと思う。でも、泣いたおかげで少し楽になった。




◇◇◇




「沙也加、撮影は暫く擬似のみにしたから」


 次の日、朝早く悠一は、わたしの病室に入ってくるなり、そう言った。監督と話し合った結果だそうだ。


「それとさ、監督から調子乗りすぎてごめんってさ」


 女の身体は意外と脆い。江戸時代の花魁おいらんは、性病で亡くなることが多く、平均寿命は22歳だったそうだ。


 今の時代は医療体制が整ったために昔のようなことはない。とは言っても、性交渉は女性にとってそれだけリスクが大きいのだ。


「問題ないなら、暫くそれで」


「暫くじゃなくてずっとでいいよ。沙也加が壊れちゃうよ」


「まあ、先のことはわからないし……」


「沙也加、もう絶対危ないことしちゃ駄目だよ。わたしが許さないからね」


 未来らしいな、と思う。


「それとさ、こっちは朗報」


 悠一が未来の方に向いた。


「未来ちゃんが嫌でなければ、出て欲しい撮影があるんだけども……」


「悠一!! 未来は絶対撮影には出させないよ」


「うん?」


「だから、AVの撮影なんかさせられないって言ってるのよ」


「なんでAVなんだよ」


「だって、その話なら……」


「違うよ。撮影中に山崎先生から連絡があってね。舞台の撮影に未来を起用したいと言う監督がいるんだよ」


「舞台!?」


 そう言えば昔、ベルサイユの薔薇の舞台をやったことがあった。アイドルがやる舞台だからそれは酷いものだった。でも未来だけは素晴らしかった。今までなぜ忘れていたんだろう。


「未来、おめでとう」


「えっ、ええええっ」


「気が早いよ。もちろんオーディションがあるから、そこで落とされる可能性だってある」


「わたしが出ていいんですか」


「先方は未来に出演させたいと言ってるんだよ」


「沙也加、こんな幸せなことってあるかな」


「うんうんうん、だから、泣かないでよ」


「これは嬉し涙だよ」


 わたしは身体を起こして未来の頭をもう一度撫でてあげる。未来は嬉しそうに泣きながらはにかんだ表情をした。


「沙也加、ごめんね。沙也加にAVの仕事させて、わたしだけ舞台なんてさ」


「いいの、いいのよ。これがわたしの思い描いた未来絵図だからね」


 未来にはわたしにはない才能がある。だからこそ、未来を育てられたらと思っていた。もちろん、妹同然の未来への心配と言うのが大半なのだが。だから故にこんな早くにいい話が来るのはありがたかった。





――――――――――





いい話が来てよかったね。

沙也加はこれからもこの世界で生きていくんでしょうかね。


色々と動きそうな気もしますが、まあそうは言ってもまとめてお金もらってるでしょうから、すぐ辞めるわけにはいけないよね


読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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