第12話 本当のファン感謝祭!?
どんなに現実が悩ましくても、新しい日はやってくる。そう今日は撮影の日だ。
「未来、行ってくるね」
「大丈夫? 私もついていこうか」
わたしはゆっくりと首を振り、ニッコリと笑った。
「未来は家を守ってて」
「うん、分かった」
未来に現場を見られたくなかった。エゴかもしれないけども、やはり好きでもない人と繋がるのは堪える。そんな姿を未来には見られたくなかった。
わたしは悠一の運転する車に乗り込み、スタジオへ向かう。
「沙也加の言ったようにホームページにアップしたよ。弁護士の先生にも相談してる」
「ありがとう」
「弁護士の先生がね。沙也加にも会って話したいと言われたけど、空いてる日教えてくれるかな。こっちで調整するから」
「分かった」
わたしは撮影のない日をチョイスした。撮影が無ければ、この仕事は暇だ。アイドルのように自分で宣伝する必要もない。全部、事務所とメーカーがやってくれる。
有名になったら握手会とかハグ会とかがあるそうだ。売れなくなった時代に同じことをしてたので、基本的に同じだろう。
そう考えながら、スマホでネット記事を読む。わたしと山崎先生の話題は小さくなるどころか、かなり色んなところで話題になっていた。
SNSでも無責任な会話がされている。山崎先生は若手でイケメンなので、ファンからは失望したと言う意見が多く見られた。
元アイドルだからって、身体を利用して近づいたのでしょうとか、言われてそれに同意する人が大勢いた。
「ふざけてるよ、何にも知らないくせに」
「ネットはあまり見ない方がいいよ。後芸能雑誌も無責任なこと書いてるよ」
「本当のこと、何にも知らないのにね」
「追い落とすのが朝倉の目的だろうからね。父親のコネも使って派手にやってるみたいだ」
「ふざけてるよ。マジ、最低……」
「俺の方では、全く関係ないの一点張りで行ってるからね」
「ありがとう。今後もそれでお願い……」
この仕事が結果的に山崎先生を追い込むことにならないか。自問自答してみるが答えなんて出るわけがない。今辞めても、叩かれることには変わりがない。
「この記事を上げてる出版社全部確認しといて」
「おいおい、もしかして……」
「全部と戦ってやる!」
悠一はこちらをチラッとみて、やれやれと言う顔をした。
「沙也加らしいと言うか……、分かったよ」
わたしを怒らせた罰だ。その報いは受けないとならない。そんな話をしていると撮影所に着いた。前回がイメージビデオを意識したものらしく、二作目からが普通のAV撮影らしい。
「今日は絡みが四回だね。ストーリーは、アイドル撮影会でファンにご奉仕だって……」
「なによ、それ。そんなんあるわけないでしょ」
わたしはぷっと吹き出した。まあ、ファンサービスにはなるかな、とは思った。
「まあ、男なんてそう言う生き物だからね」
「本当にファンだったらいいのに」
「いや、そうらしいよ」
「えっ!?」
「一応、男優だけども元ファンの人ばかり集めたんだってさ」
「そうなんだ。ならいいかな」
「沙也加のファンサービスは過激だな」
アイドルとファン。ファンは知らないと思うが、アイドルにとってファンはそれ程までに貴重なんだ。
「赤の他人に抱かれるよりも、ファンに抱かれたい。アイドルならきっとそう思うよ」
駐車場に駐車して、降りると見知った顔が数人いた。
「嘘? 君たち……」
「俺たち、本気で沙也加のこと大好きだから……」
「大好きだからって、こんなことしてくれなくてもいいのに」
「俺たちの沙也加を好きって気持ち本気なんだよ」
「なんかそれ聞くと泣けてくるね」
涙が出てくる。辛い仕事ばかりだと思ってたけども、こんなサプライズもあったんだ。
「おいおいおい、沙也加ちゃん。大丈夫?」
「大丈夫だよ。これは嬉し涙……」
「本当か。辛かったらなんでも言ってくれよ。俺たち沙也加のためならなんだって出来るから」
「じゃあ、思い切りやってくれていいから」
「いや、それはちょっと」
目の前のファンの下腹部を見ると盛り上がってた。
「ヘンタイ……」
「仕方ねえだろ。むしろこれが正常じゃ……」
「冗談だよ」
話しているとこの前撮影所にいた監督が近づいてきた。
「気に入ってくれたかな」
「監督、ありがとうございます」
わたしがぺこりと頭を下げると、監督も嬉しそうにした。
「だろ、沙也加ならきっとこんな撮影が好きじゃないかと思ったんだよ」
「俺たち、絶対沙也加のこと楽しませるからさ」
「あなた達AVの見過ぎよ」
「ええええっ!?」
女の気持ちはそんなに簡単なものじゃない。ファンと言えども好きでもない男性に抱かれるんだ。それで興奮したら、それはむしろ獣じゃないか。それでも……。
「君たちが喜んでくれることが、わたしは嬉しいんだよ。だって、わたしは今でもアイドルだからさ」
「分かった。沙也加、じゃあ嫌だったらすぐに言ってくれよ」
「言ったらどうかなるの?」
「えーと、……」
「俺たち、少しでも楽しい話するから……」
「あははははっ、それいいね」
なんか嬉しい。こんなことがあるなんて、デビューするまでは考えもしなかった。
アイドルとファン、そこには大きな超えられない壁があった。それが今、解き放たれる。そんな気がして、わたしは嬉しかった。
「それにしても沙也加のバージン奪いたかったな」
「何よ、それ」
「監督に聞いたんだよ、前回の撮影ではバージンだったって」
「あなた達正真正銘のバカね」
「なんでだよ!」
男には分からない。処女なんて痛いだけでいいことなんてないのにさ。
――――――――――
今回と次回は撮影会です。
スキャンダル、未来との関係、そして撮影と忙しいですね。
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