第11話 熱愛報道
「山根康広さんですが、熱愛が発覚されたって本当なんでしょうか?」
「明日発売の週刊文集に掲載されてますからね。なんでもAV女優に指輪を送ったそうですよ」
数日後、わたしはテレビを見ながら未来の作ってくれた朝ご飯を食べていた。
「嘘!?」
テレビでコメンテーターが写真を拡大して説明している。ティファニーの袋を渡す写真が大写にされていた。
「これって、沙也加がもらった指輪……だよね」
「もらったじゃなくて預かっただよ」
「どっちでもいいよ。誰がこの写真を撮ったんだろ」
本当だ。周りなんて見る余裕がなかったから報道関係者がいても気がつかなかったかもしれない。まさか、撮影されていたなんて。
「それにしても、おかしいよね」
「なにが?」
「だってさ、山根先生が沙也加に会いに行くって誰が知ってるのよ」
「確かに。わたしと山根先生の事を知る人は少ない。もしかして……」
最悪の結論に達した。
「朝倉……さいってい」
未来も同じ結論に達したようだ。ほぼ間違いない。山根先生に悪い噂がたって得をするのは同じプロデューサーの朝倉だ。しかも、未来との件で恨んでいることは間違いない。
「でも、証拠がない」
「確かにそうだよね。撮影したのが誰か。出版社が漏らすわけがないし……」
「山根先生、きっと後悔してるはず」
テレビではリポーターが山根先生に突撃インタビューをしていた。撮影に来た山根先生が車から降りるところを若手のリポーターが無責任な質問をした。
「すいませーん、山根さんとAV女優の小嶋沙也加さんが付き合ってると言われてるんですけれども本当でしょうか」
「僕は急ぐので。沙也加さんに渡したのは事実です。彼女からは何も返事をもらってませんので、付き合ってはいません」
いつも思う。うまく騙せばいいのに。山根先生はどんなに自分にマイナスになっても嘘は言わない。言えないのだ。そう言う正直なところもわたしが好きになったところだ。
「これって、結構悪手だよね」
確かにそうだ。これでは山根先生がわたしにプロポーズしたのを認めたと同じだ。大物プロデューサーがAV女優に結婚を前提とした交際を申し込んだと言えば、大きな傷がつく。
わたしはスマホを手に取り、マネージャーの悠一に電話をした。
「雑誌編集部の件だよね。こっちも大変なことになってるよ。たくさんのリポーターが来てね」
「ごめんだけども、わたしのホームページにこの情報は嘘です、と掲載してくれないかな。それと弁護士を呼んで、名誉毀損でテレビ局に訴訟して欲しい」
「嘘……だろ。そんなことしたら、もう芸能界には……」
「戻らないし、もういいんだよ。わたしは芸能界とは関係のないところで生きていくと決めたんだから。こっちなら大丈夫でしょ」
「まあ、撮影には影響ないとは思う」
「なら、すぐにして」
朝倉だけは絶対に許せない。
わたしは電話を切ると山根先生にラインをした。
(山根先生、ごめんなさい。今マスコミで話題になってる雑誌の件ですが、わたしの方でカタをつけますので、先生は何も言わないでください)
仕事で忙しいはずなのに数分待たずに返信されてくる。
(沙也加は何も気にしないでいいよ。僕は後悔してないよ。そもそもいつかはバレると思ってたし、そんなこと気にしてたら結婚なんてできないだろ)
結婚と言う言葉にわたしの心臓は大きく跳ねた。山根先生が好き好きで次の言葉が辛い。
(ごめんなさい。プロポーズはお断りします。わたしはこの件は無かったと訴訟することに決めました。先生今までありがとうございました。指輪は、またお返しします)
郵送で送ろうとも思ったが、それでは先生に失礼過ぎるし、この件はちゃんとどこかで会ってケリをつけないとならないと思った。
わたしが山根先生を守らなくてどうする。朝倉にプロデューサーを奪われてなるものか。
次の返信までに随分時間があいた。隣にいる未来がわたしを心配そうに見つめる。
「ねえ、考え直さない? もうこれを機会に結婚を考えても……」
「ダメだよ。もう決めたことなんだ。一度決めたらわたしは曲げない」
「そこは沙也加のいいところなんだけどね」
じゃあ、洗うからと食器を下げて、コーヒーを淹れてくれた。
(結論を急ぐなあ。分かった。とりあえずだけれども、この件は無かったことにするからさ。でも、諦めてはいないからね)
マスコミ相手に裁判しても、勝てる見込みは薄い。そもそも受け取ったことは事実なのだから、リスクばかりでメリットは薄い気はした。でも、……朝倉だけは許せないのだ。
どこかで朝倉の尻尾を掴んで、この業界から引き摺り下ろしてやる。
わたしの大切な山根先生を陥れようとしたことを後悔されてやるのだ。
「わたし朝倉と戦うよ。未来を捨てたことも、山根先生を陥れようとしたことも絶対に許せない」
未来はわたしのそばに来て横からそっと手を回してくれた。柔らかい感触が肌に伝わる。
「沙也加、ありがとうね。でも、そんなことしてたら沙也加壊れちゃうよ」
「わたしの性格分かってるよね」
「うん、妊娠問題の時に言い放った言葉、かっこよかったよ」
「あれ、ちょっと今考えると恥ずかしいけどね。わたしも裏切っちゃったし」
「そんなとこないよ。生きる世界は変わってもきっとファンの沙也加に対する気持ちは変わらない」
「そうだといいな」
「ファンの気持ちを踏み躙ってあなた達どういうつもりよ。ファンあってのわたし達でしょ、って言ってくれた日のこと忘れないよ」
そうだ。ファンがいたから、わたし達は武道館でライブもできたんだ。出来婚なんか許せるわけがない。
「わたしはファンの気持ち裏切ってないかな。人前であんな淫なことをしてさ」
「大丈夫。だからファンに先に話したんでしょう。それにあれは演技で沙也加が淫なわけじゃない」
わたしは、自分のことを信じてくれる未来のことも、そしてわたしを好きと言ってくれた山根先生のことも守りたいと思った。
――――――――
大事になってきました。
さてさて、どうなることやら。
とりあえず朝倉最低ということで。
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