第29話:冷蔵庫? ができました!


 メアがラルクの家に来てから数日。


「メアちゃん、これ美味しいよ!」

「ん、美味しい」

「でしょ? えへへ、あたしとラルクさんが畑で育てたやつなんだよ!」

「畑……面白い」

「メアちゃんも一緒に畑仕事してみる?」

「うん」


 なんて新鮮なトルメトを食べながら話す二人を、青子とラルクが微笑ましそうに見つめていた。


「すっかりお姉さんね、ディア様は」

「ディアは兄と姉しかいない末っ子なんだってな。だから妹ができたみたいで嬉しいのだろう」

「まるで、父親の気分ね。私は母親かしら?」


 青子がからかうようにラルクへと視線を向けるので、ラルクが苦笑いする。


「俺は親になれるほどできた人間じゃないさ」

「そうでもないと思うけどね~。そういうのは親にならないと分からないらしいし~。丁度いい相手もいることだし、挑戦してみるというのは?」


 青子がメアとじゃれつくディアとラルクを交互を見て、冗談を続けた。


「かんべんしてくれ……」

「仕方ないわね~。そういえば、主様。あれ、どうするつもり?」


 改まった様子になった青子が裏の畑へと続く廊下に山積みになっている、大量の果実と野菜へと手を向けた。


「ああ……あれな」


 ラルクがそれを見て、困ったような表情を浮かべた。

 ラルク達の畑は順調だった。この夏には収穫できそうなぐらいに育ちつつあるが、問題はポット君の畑の方だった。


「採って数日後に、同じぐらいの量がまた採れるようになるとは予想外だった」


 ポット君の畑で大量に果実や野菜が採れるのは分かっていたが、ラルクもまさか採ってから数日で同じ量が再び実るとは思っていなかった。


 採らないままにしておくのも良くないので収穫するしかないのだが――採ったものをどうするかで困り果てていた。


「村中に配っても余ったわねえ」


 とてもではないがラルク達だけでは食べきれないので、村の人々や酒場などに配ったのだが、それでも山積みになるほど余っている。

 流石にポット君の畑もそろそろ採れなくなりつつあるので、これ以上増える心配がないことだけが、せめてもの救いだった。


「困ったな……保存できればいいんだが、それにも限度がある」


 果実や野菜の長期保存の方法はなくはないが、それも既に試していて、既に一冬越せそうなほどにたくさん出来てしまっていた。


「果実酒にするにしても流石にこの量はちょっと大変ね」

「だがせっかく採れたものを捨てるのもな。かと言ってこのまま置いておくとすぐに腐る」

「どうしたものかしら~」


 明確な答えが出ずに二人が悩んでいると、ディアとメアがやってくる。


「どうしたんですか?」

「お腹いたい……?」


 心配そうにする二人に、ラルクが事情を話すと――


「……? じゃあ冷蔵庫に入れたら?」


 なんてメアが言い出すので、ラルクとディアが顔を見合わせて同時に首を傾げた。


「……? れいぞうこ?」

「ないの?」


 今度はメアが、不思議そうな顔をする。まるであって当然みたいな顔をしていた。


「いや、ないが……というかそれはなんなんだ?」

「えっと……うーんと……。あの棚、使っていい?」


 メアが部屋の隅にある、天井まで届くのに大きな棚を指差した。それは昨日届いたばかりのもので、まだ中には何も入っていない。


「構わないが……造るとは?」


 ラルクの疑問に答えず、メアがその棚へと視線を向けた。


「クリエイトモードに移行――解析完了。エーテル置換および3Dプリンタデバイスの起動」


 普段とは違う口調のメアにラルク達が驚いていると、彼女が背負っている謎の箱から二本の金属性の触手が棚へと伸びていく。


「なにあれなにあれ!」


 ディアが目を輝かせながら見守る中、伸びた二本の触手が棚を挟むような位置で止まると、その先にある五本の爪から、赤い光線が棚へと注がれた。


「……は?」


 すると、棚がまるで無数の細かい立方体のようなものに分解され、それがひとりでに動き、違う形のものへと変化していく。


 気付けば木製の棚が、白いスベスベした謎の素材でできた大きな巨大な箱へと変化していた。


「――エーテル注入」


 今度は青い光がその白い箱へと注がれる。すると、箱から静かな駆動音を聞こえてはじめた。


「おしまい」


 メアの背中の箱へと触手が戻っていく。


「えっと……これはなに?」


 ディアが聞くと、メアがその白い箱の前面についている取ってを握って、手前へと引いた。


「開いた!」

「これは……」


 扉のように前面が開いたその箱の中から、冷気が漂ってくる。


「これが冷蔵庫。ずっと中を冷やした状態して、かつそれぞれの食材に最適な温度と湿度を自動調整するから食材が長持ちする。下には冷凍庫があるから凍らせればもっと保つ。エーテルたっぷり入れたから百年ぐらいはずっと動くよ」


 メアの説明を聞いて、ディアが冷蔵庫の中へと手を入れて、はしゃいだような声を出した。


「凄い! これって氷魔法!? つめたーい!」

「違う。エーテルと触媒を使った科学」

「そのエーテルってなに?」

「……この星で魔力と呼ばれるものと類似した概念」

「ふーん。つまりやっぱり魔法だ!」


 そんな二人の会話を聞いていると、ラルクはそれがとんでもない代物だと気付いてしまう。


(確かに貴族の中には氷室を用意して食材を貯蔵をすると聞いたことあるが……あれは莫大な労力と金を使って万年雪を運んでくる必要がある……それがこんな簡単に!?)


  メアの正体は未だによく分かっていないが、〝異星の民〟は竜とは違った方向でとんでもない力を持っていることが分かり、ラルクはもしかしたらとんでもない人物を迎え入れてしまったかもしれないと思い始めた。


「ま、細かい理屈はいいじゃない。果実と野菜を保存できるなら」


 ラルクが悩んでいるのを察してか、青子がそんなことを言うので彼も頷くしかなかった。


「そうだな。ありがとうメア。早速使わせてもらおう」


 こうして収穫物の保存問題はメアのおかげで見事に解決した。


「さてと……」


 冷蔵庫へと収穫物を入れ終えたラルクの下へ、メアがやってくる。


「あの……ラルクお兄ちゃん」


 ズボンを掴んで上目遣いしてくるメアを見て、ラルクが微笑む。


「どうしたメア」

「お願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「メア、陸上生活でも平気なんだけど元々海の中にいたから……水が恋しくて」

「そうか……それはそうだな。すまん、気が利かなかったな」

「大丈夫。一応目の前は海だからそこにいけばいいけど、でも家の中にもあったらなって」

「ふむ。それで?」

「……プール造っていい?」


 おずおずとそう言い出すメアを見て、ラルクがプールが何かを思いだしていた。


「プール? それってあれか、貴族の屋敷の庭にあるような水を沢山溜めて、泳いだりするためのやつか?」

「うん。そんなに大きくなくていいけど、あったらいいなって。だから家の横のスペースに造っていい?」


 家の横と言えば、ただの空き地で何も置いていない。さらにその先には誰も住んでいないので、何を作っても問題ないだろうと考え、ラルクが返事する。


「ああ、構わないぞ」

「じゃあ一緒にあれも作っておくから」

「あれ?」

「ラルクお兄ちゃんみたいな人がみんな好きなやつ」

「ほう? それは?」


 ラルクの言葉に、メアがにっこりと笑いながらこう答えたのだった。


「――サウナ!」




*あとがきのスペース*

ちょっと想定より文字数が増えたので、汗だくラルク氏を見れるのは次話です……!


ラルクみたいな人がみんな好きとかいうナチュラルな偏見を持つメアちゃんですが、悪気はないので許してやってください。


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