第25話:竜を狩る者達(間話)
ラルク達が帰路についている、その頃。
デナイ男爵の執務室に、デナイ、ザルク、そしてリーシャの三人が集まっていた。
「まずはギルド側と交渉し、寛大な処置をしてもらったリーシャ殿に感謝を」
デナイがリーシャへと感謝を告げた。
今回の騒動に関して内々で済ませてることに同意してくれ、ギルド側にもそう報告してくれた彼女には頭が上がらなかった。
(……代わりににたんまり報酬金を要求されたがな)
とはいえ金で済む話なら安いものだった。
しかしリーシャはそんなことはどうでもいいとばかりに肩をすくめる。
「それより、そっちが観測したっていうダークドラゴンについて教えなさい」
リーシャが鋭い視線をデナイへと向けた。彼女は、今日の騒動とラルク達の態度に妙な違和感を覚えていた。
それが何なのかを確かめる為に、今この場にいると言っても過言ではなかった。
「いや、その件についてはもういいんだ。ザルクの勘違いということになっている」
「勘違い? どういうこと?」
リーシャの問いに、ザルクが代わりに答える
「あれはダークドラゴンではなく、ディア氏の魔力だったんですよ。確かに今日の観測したディア氏の魔力はまるで竜の魔力のようでした」
「ああ……確かに私もそう感じたわ」
「というわけで、ダークドラゴンが現れたわけではないのですよ。すみません、お騒がせして」
「……おかしいわね。私が聞いた話とちょっと違うけれど」
リーシャが腕を組んで、苦い表情で説明をはじめた。
「今日取っ捕まえたあのテラリス教団のネクロマンサーによると、彼らは確かに一週間ほど前にダークドラゴンを見たと言っているわ。それどころか、生贄に捧げようとしたとか」
「どういうことだ? ダークドラゴンはいないはずだが」
デナイが勘弁してくれとばかりにそう否定する。
「だからおかしいって話をしているのよ。あいつらが嘘を付いているとは思えない。というかそんな嘘をつく必然性がない」
「ザルク、今日観測したディア氏の魔力と五日前に観測したダークドラゴンの魔力は同じだったか?」
デナイの質問に、ザルクは少しだけ考えてからこう答えた。
「……確かに言われてみれば、
そのザルクの言葉を聞いて、リーシャが眉をひそめた。
「つまり、たまたまディアの魔力と被っていただけで……
「……それはマズいぞ」
デナイ男爵が頭が痛いとばかり顔をしかめる。もしダークドラゴンがいるのなら、対抗策を練らなければならない。しかし、こんなことになっては流石にラルク達に協力を要請することもできなかった。
そんな困っているデナイの様子を見て、リーシャがニヤリと笑った。
「仕方ないわね。この件については私が調査してあげるわ」
「……良いのか?」
「一応、これでもSランク冒険者だからね。ダークドラゴンがいるとなったら、放っておけないわ」
「そうか! それはありがたい」
「というわけで、私は早速キーナ村へ向かう。ギルドには報告しておくからその他もろもろの手続きよろしく」
そんな言葉を残して、リーシャが退室する。
執務室から廊下へと出たリーシャが立ち止まり、目を閉じた。
「……ラルクとディアが出会ったのは一週間ほど前。テラリス教団がダークドラゴンを生贄にしようとした儀式が行われたのも一週間ほど前。ラルクはその儀式を邪魔したと言っていた。ディアの魔力が竜の魔力と酷似している。でも、観測された魔力は二種類ある」
ブツブツと呟きながらリーシャが目を見開いた。その目は
「ディアがダークドラゴン? それとは別の仲間がいる? 分からない。けど……あの二人は何かを隠している」
今日、やけにあっさりと別れを告げたラルクの態度が、リーシャは気に食わなかった。
(昔なら、酒でも飲みに行こうって誘ってくれていたのに)
「もう一度会わないと」
そんな呟きだけを残して――リーシャの気配が消えた。
廊下に静けさに戻る。
***
帝国北部――ガランガ山、山頂付近。
その山は、かつては緑に覆われた美しい山だった。
しかしその山頂付近は、まるでそこだけ
そんなある種地獄のような様子となっている山の頂点を目指して、軍服を纏った青年が歩いていた。その胸当てには、帝国軍の中でも特殊な立場に位置する特殊部隊――〝竜狩り隊〟を表す紋章が刻まれている。
青年の視線の先である山頂には巨大な竜の首が置かれていた。その周囲には、レッサードラゴンの死体が山のように積み上げられている。
「――シエル
青年が首塚とでも言える山頂に辿り着くと、巨大な竜――〝冥老竜〟と呼ばれる厄介な邪竜の首に腰掛ける、とある人物へと言葉を投げた。
それは、沈みゆく真っ赤な太陽をただ見つめる、軍服を纏った銀髪の女性だった。
全身が竜の返り血で血塗れになっているが、その美しさは何一つ損なわれていない。
「なんだい、アレックス君。隊長への報告は済んだのだろう?」
「もちろんです。よくやったと言っていましたよ」
「出来れば僕が出ばる前に、こいつ程度の邪竜なら君達だけで何とかして欲しかったけどね」
帝国軍の中でも特に腕利きが集う竜狩り隊において、二十代かつ女性でありながら副隊長の座まで登り詰めた規格外の存在――シエルが身軽な動きでその青年、アレックスの横へと着地。その肩をポンと叩いた。
「いやいや……〝厄災級〟の邪竜ですよ、こいつ。隊長といい、シエル副隊長といい、こんなのを独りで狩るんだからバケモノすぎます。一緒にされたらこっちはたまんないですって」
「うら若い乙女にバケモノとは失礼だね。それで、どうしたの」
血塗れのままニコリと笑うシエルに、アレックスが真面目な顔で答える。
「東部で、
「……またかい。ここ最近、立て続けじゃないか」
「はい。しかも、今回のはダークドラゴンである可能性が高いと」
アレックスの報告を聞き、まるで新たな獲物を見付けたとばかりにシエルが目をスッと細めた。
その細い手が腰に差してある剣の、やたらと複雑な機構が組み込まれた柄へと伸びる。
「……ダークドラゴンね。そりゃあまた大物だ」
「まだ確定ではないそうですが、極めて可能性が高いとか。どうします? 司令部からは特に指示は出ていませんが」
「隊長はなんて?」
「〝任せる。任務ではないので、帰省休暇のついでに様子を見てきたら?〟だそうで。とりあえず俺達には帰還命令が出てますが」
「帰省?」
アレックスの言葉にシエルが首を傾げた。
「なんでも、ダークドラゴンはシエル副隊長の故郷の近くで観測されたとか。確か
その問いに答えず、シエルが遠い故郷の方へと視線を向けた。
「帰省ついで、ね。そうだなあ、それも悪くないかもしれない。そうだ、ついでに誘っちゃおうかな」
「誘う? 誰をですか?」
その問いを聞いて、シエルがまるで恋する乙女のような表情を浮かべたのだった。
「誰だって? そりゃあもちろん、この世界で一番強くてカッコ良くて優しい……ラルクお兄ちゃんさ」
*あとがきのスペース*
キーナ村の村長「マジで勘弁してくれ」
銀髪クソつよ僕っ子ブラコンという属性モリモリな新ヒロイン。ラルク氏が竜狩り隊について苦い思い出があるのは主にこいつが原因。
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