第19話:ライバル? 登場です!


「ラルクさん! ここですよ!」


 ディアがバレンジアいちの高級宿である〝銀の三日月〟の中へと入っていき、ラルクは彼女に腕を引っ張られながらその後についていく。


 すると――


「ふえ?」


 金色の颶風が、ラルク達へと迫る。


「っ!」


 殺気を感じてラルクが思わず大斧へと手をやるが、それよりも速く、ディアへとその金色の風が接近。


 それはディアの腕を掴むとこう叫んだのだった。


「誰よあんた!」

「へ?」


 ディアが驚いた様子で、自分の腕を掴む相手を見つめる。


 それは金髪をツインテールにした、褐色の少女だった。その華奢な体からは想像も付かないほどの力が込められていて、ディアはどう反応したらいいか分からなかった。


 すると、ようやくラルクが口を開いた。


「リーシャか!?」


 その言葉を聞きリーシャが怒りを全身で表現しながら、今度はラルクへと食って掛かる。


「勝手に引退したかと思えば、昼間からこんな格好した女を連れて宿でしっぽりだなんて良いご身分ね!!」

「は?」

「信じられない! てっきり引退してジジイみたいな生活してると思ってたのに!」


 顔を真っ赤にして怒るリーシャを見て、ラルクは何を怒られているのか分からずに、困惑する。


「えっと……ラルクさんのお知り合いですか?」


 ディアがそう聞くと、ラルクとリーシャが同時にそれに答えた。


「そうだ」

「そうよ!」


 妙に二人の息が合ってることに気付き、ディアはリーシャがただの知り合いではないことに気付く。


「ま、まさか! ラルクさんの元カノ!?」

「違う」

「ち、違うわよ!」


 なぜか急にモジモジするリーシャを見て、ラルクがため息をついた。とにかく何か誤解されているようなので、解かないといけない。


「リーシャ。別に俺は宿でしっぽりしに来たわけではない」

「え? そうなんですか!? てっきりご飯食べたあとに、〝実は一番良い部屋を取っているんだ……〟みたいなことを言われると思ってました!」


 なんてディアが余計なことを言うので、リーシャの怒りが再発する。


「ほらやっぱり! ずっと女に興味ない朴念仁だと思ってたのに! 本当はむっつりスケベ野郎だったのね!」

「そうなんですか!? いやだなあラルクさん、そうならそうと言ってくれたらいいのに」


 ディアとリーシャの噛み合わない言葉を聞いて、ラルクはこの場から逃げ出したい気持ちで一杯だった。


「俺達はただ海鮮串を食いに来ただけだ」


 そのラルクの言葉をリーシャが即座に切って捨てる。


「嘘ね」

「本当だ。そうだろ、ディア」

「はい!」


 屈託のない笑顔でそう答えるディアと、ラルクの困ったような顔を交互に見たリーシャは今更ながら、何かとんでもない勘違いをしていることに気付く。


(ちょっと待って……これじゃあ私が勝手に勘違いしたあげく、初対面の子にいきなり突っかかったヤバい奴みたいじゃない!)


「そ、そう! ならいいのよ!」


 リーシャがぎこちない笑みでそう言いながら、一歩引いた。

 そんな彼女を見て、ディアが逆に一歩彼女の方へと踏み出し、手を差し出した。


「あたしはディア! 貴女は?」

「……リーシャよ。というか、あんたなんなのよ」

「ラルクさんの妻です!」


 胸を張って答えるディアを見て、リーシャが再び声を張り上げた。


「はああああああ!? どういうことよラルク!」


 涙目で睨み付けてくるリーシャを見て、ラルクはため息をつくしかなかった。


「ディア、適当なことを言うな。リーシャ、その子は色々訳あって今一緒に暮らしている子だ。そういうアレコレは一切ない」

「どういう訳よ!」

「それは……まあ色々だ」


 まさか、リーシャにディアの正体がダークドラゴンであると言えるわけがなかった。

 その理由は、シンプルである。


 リーシャは――この世界において何よりも……


 憎悪と言ってもいいその感情を、ラルクは痛いほど知っている。

 ゆえに、こうしてディアと合わせてしまったのは、痛恨のミスだった。


 まさか……こんな辺境の街で偶然出会うとは思わなかった。


 出来る限り早く、この二人を引き離さないと。そうラルクが考え口を開こうとすると――


「まあ、積もる話は色々ありそうだけども……せっかくだしリーシャも一緒にご飯を食べる?」


 なんてディアが言い始めた。


「お、おい、ディア」


 慌ててラルクが止めようとするも、時既に遅し。


「いいわよ。じっくりとあんたらのこと、聞かせてもらおうじゃない」


 バチバチと視線を交わすディアとリーシャを見て、ラルクはため息をつくしかなかった。


「さ、行きましょラルクさん」

「行くわよラルク!」


 二人の美少女にそう誘われ、ラルクは周囲から好奇の視線に晒されながら、酒場へと向かったのだった。


***


 一方その頃。


 領主の館の執務室にて。


「それは本当か?」


 領主であるデナイがザルクから報告を受けて、顔を引きつらせていた。


「……はい。裏が取れました。間違いなく、ラルク氏はかの有名な〝竜断〟です」

「〝竜断〟――〝一人竜狩り隊〟、〝歩くドラゴンウェポン〟〝最も竜を殺した人類〟とも噂されるあの男か」

「間違いありません。突然の引退にどうやらギルドもかなり困惑していたようで、情報規制をかけた形かと」

「つまりだ、レッサードラゴンを狩れる強そうな村人が実は元Sランク冒険者だったとは知らずに、我々は呼び付けてしまったわけだ。しかもあの馬鹿息子は喧嘩まで売ったとか」

「どころか、恋人だか妻だか分からない少女に夢中になってて、なんとか手篭めにしようとしています」


 なんてザルクから言われて、デナイは深いため息をついた。


「それでその……ラルク氏は怒っている感じか?」

「なんというか、怒っているのかどうかも分からなくて。無愛想というか無表情というか」

「使えん奴だ。しかし困ったことになったな」

「ええ……どうしましょ」


 自分で提案しておいて、そう聞くのもかなり恥ずかしいことなのだが、流石にこの事態は自分一人では対処しきれないことをザルクは分かっていた。


 そんな彼を見て、少しだけ考えた末にデナイ男爵が口を開いた。


「マリウスのことはともかく、これは逆に運が良かったのではないか?」

「というと?」

「ダークドラゴンが仮に侵攻してきても、〝竜断〟がいれば問題ないだろう。それとは別にSランク冒険者が一人、このバレンジアに滞在しているそうだ。あの、〝薔薇ばら〟だよ」

「〝撫で薔薇〟ですか!?」


 ザルクが驚くのも無理はなかった。

 それは〝竜断〟と双璧をなすSランク冒険者であり、おそらく帝国において、〝竜断〟に次ぐ、ドラゴンスレイヤーだ。


「なぜ彼女がこの街に!?」

「わからん。だが、ダークドラゴンの出現と何か関連しているのかもしれん」

「なるほど……つまり今バレンジアには、ダークドラゴンに対抗しうる存在が二人もいるということですね」

「その通りだ。これを好機と取るしかない。どうにかしてこの二人に協力を求めるしかない」

「理解しました。では万全の用意をして、招待しましょう」


 ザルクが頭を下げるのを見てデナイは頷きつつ、一つの懸念を口にした。


「それとマリウスを呼んでこい。何かあいつがしでかす前に釘を刺しておかないと」

「仰る通りで。すぐにでも呼んでまいります」


 そうしてザルクが執務室を出ていってから、数分後。


「で、デナイ男爵!」


 慌てた様子でザルクが帰ってきたのを見て、デナイは嫌な予感がした。


「どうした」

「マリウス様が……

「どういうことだ?」

「私兵を連れて、街に出たとのことです・もしかしたら……ラルク氏が連れている少女を力尽くにでも奪うつもりでは」

「っ! それはマズいだろ!? なぜあの馬鹿はそんなことを!」

「それが……マリウス様はおそらくまだラルク氏が〝竜断〟であると気付いていなくて。いえ、説明したんですけど、信じてくれなくて!」


 ザルクの言葉に、デナイは舌打ちをする。


「すぐに兵を動かしてあの馬鹿を止めろ!」

「はい!」


 こうしてデナイにとって、〝人生で最も最悪な日〟と呼ばれる一日が始まるのだった。





*あとがきのスペース*

マリウス、動きます。


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