第18話:バレンジアに来ました!


 バレンジアへと向かう馬車の中。


 デマリウスの絶え間ないお喋りにディアが愛想笑いをしながら付き合っている横で、ラルクはなぜか急に挙動不審になったザルクへと声を掛けた。


「どうした? 馬車酔いか?」

「い、いえ!!」

「そうか」


 それだけで会話が途切れてしまう。しかし、それも致し方ないことだった。


 ザルクは脳内で、ラルクに対してどう対処するべきかを必死に考えていたからだ。


(やばいやばいやばいやばい! というかこの人、このまま連れていって大丈夫なのか? 先に領主に連絡して歓待する準備を……いや、時間がない)


 ザルクはこの場から逃げ出したくてたまらなかった。


(そもそもの話、諜報部は何やってんだよ! 〝竜断〟が引退して田舎に戻ったなんて話は一切聞いてないぞ!)


 責任転嫁するものの、知らないとはいえとんでもない人物を領主に紹介してしまった彼は、この先どう穏便に済ませられるかに必死に思考を巡らせていく。


「ら、ラルクさん」


 ザルクがとりあえず会話をして親しくなろうと、口を開いた。第一印象が最悪なだけに、ちょっとでも挽回したいと思ったのだが――


「なんだ?」

「あ、いや……えっと、キーナ村にはいつ帰省されたので?」

「一週間ほど前だ」

「そうなんですね! あはは……」


(つい最近じゃねえか! そりゃあ知らんわ!)


 となったザルクだった。しかし、ここで本来の目的を思い出す。


(いや、待てよ。そもそも今回の目的は、東に現れたダークドラゴンらしき存在に対する対抗策として、強そうな村人を招集することだ。まあ強そうな村人どころか、この人は最強だけども)


 つまりザルクが領主へと具申したことは大筋では間違っておらず、かつ対ダークドラゴンの人選としては、ラルク以上の適任者はいないだろう。


 ただ一点――実はダークドラゴンがすぐ横にいることを除けば。


「ぶふふ、ディアちゃんは好きな食べものはあるかい? 僕がなんでも奢ってあげよう」

「えーっと……海鮮串?」

「ほう! ならばバレンジアで一番腕の良い串職人を呼んで、最高級の海鮮串を作らせるよ!」

「あ、ありがとう」


 なんて会話をするマリウスとディアを見て、ラルクが小さく笑ってしまう。


(ディアでも一応、知らない相手と話を合わせるようなことはできるんだな)


 それよりもラルクはザルクとその主であろう領主について、懸念を抱いていた・


(この仮面の男の口振りからすると、おそらく俺の正体に気付いているな。ということは、とんでもない厄介事を頼まれるかもしれない。さて、どう断ろうか……)


 ラルクもまさか対ダークドラゴンの戦力として招集されたとは考えもしなかった。


 結果としてザルクとラルクは会話が噛み合わず、バレンジアまでの間、終始気まずい空気が流れ続けたのであった。


***


 州都バレンジア。


 そこは流石辺境一の街だけあって、帝国の中でも特に異国情調溢れる巨大都市だった。


「うわー、建物が綺麗ですね! 屋根が丸っこくて可愛い!」


 馬車から降りたディアがその街の風景を見て、そんな感想を口にする。カラフルの屋根の建物が並ぶ街並みは、初めて訪れた彼女にとっては、かなり新鮮な光景だろう。


「えっと、それでは領主にラルクさんが到着したことを伝えてまいりますので、しばらく街を散策していただけますか? 時が来ましたらお迎えに上がります! それでは!」


 ザルクが早口でそう言うと、マリウスの腕を引っ張った。


「お、おい! 僕は今からディアちゃんと!」

「いいから、マリウス様も!」


 いつになく強引なザルクに、マリウスが連れ去られていく。


「……疲れた」


 去っていくザルク達を見て、ディアがそう呟いてしまう。それを見たラルクが労うようにポンと彼女の肩へと手を置いた


「よく頑張ったな」

「なんか偉い人なんですよね? でなかったらぶっ飛ばしてましたよ」

「そうだな、同感だよ」


 ラルクが心からディアの言葉に同意する。しかし、ディアの顔にはもう疲れた表情はなく、満面の笑みが浮かんでいる。


「さ、気を取り直してお買い物に行きましょう! あと海鮮串の美味しいお店を聞きだしておいたのでそこも行きたいです!」

「いや、しかし」


 領主に呼び出されたというのにそんなに浮かれていて大丈夫なのか、と思うラルクだったが、


「いいから行きましょ!」


 ディアに強引に腕を引っ張られて、ラルクは仕方なくお店が並ぶ大通りへと向かった。

 そこには観光客向けの店から武具屋、地元民らしき者達がくつろぐ茶店だったりと様々店舗が並んでおり、ラルクとしては武具屋に興味があるのだが、ディアが入っていったのは女性服専用の店だった。


「見てください! この服可愛くないですか!?」


 まるで砂漠の民の踊り子のような露出の高い、バレンジア伝統の衣装を早速試着したディアが、ラルクへとそのスタイルの良さを見せ付けた。


「ああ、そうだな」

「あー、目を逸らした!」

「俺はそういうのはよくわからん」

「ラルクさんもせっかく人間なんだしお洒落しましょうよ!」

「せっかく人間なんだしってなんだ」

「だって竜に服着る文化ないですし!」

「それは確かに」


 なんて会話しつつ、ディアはそれからいくつかの店で衣装を試着し、悩んだ末に結局、最初に着た伝統衣装をお小遣いを使って購入した。


「せっかくですし、着られます?」


 なんて店員に言われてしまったディアは、当然とばかりにそれへと着替えた。


「えへへ、可愛いですか?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら顔を覗き込んでディアに、ラルクは顎ひげを掻きながら頷く。


「似合っているよ」

「ふふふ、嬉しいです。さ、次行きましょ!」

「まだ行くのか?」

「だって、まだお迎え来てないじゃないですか。次は海鮮串の美味しいお店ですよ! なんでもバレンジアで一番高い宿屋さんに併設してる酒場の海鮮串が絶品らしくて!」


 こうしてラルクは、マリウスがお勧めした高級宿の酒場へと向かった。


***


 同時刻。バレンジア一の高級宿――〝銀の三日月〟のフロントにて。


「ねえ、そのなんとか村ってのは、この街から遠いの?」


 褐色の肌に金髪をツインテールにした少女が、フロントにいた男性にそう質問した。


「キーナ村は馬車で半日ほどですよ。ですが、あの村には特に何もありませんよ?」


 男性が不思議そうにその少女へと答えた。

 Sランク冒険者を名乗るその少女が、なぜそんな田舎の村に興味があるか分からなかったからだ。


「分かってるわよ。私だって好き好んで行くわけじゃないの。じゃあ馬車を手配してくれる?」

「かしこまりました」


 それから少女は何かの気配を感じ、何気なくフロントの反対側にある入り口へと目を向けた。

 そこにいたのは――





*あとがきのスペース*

一体何リーシャなんだ……。


最後に出てきた人物に心当たりない方は第一話を読み返すと吉。


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