第15話:商店でお買い物です!
ポット君の畑にて。
「ラルクさん! 見てください! すっごく大きいの採れました!」
暑くなってきたので麦わら帽子を被ったディアが、弾けるような笑顔で真っ赤に実ったトルメトの実をラルクへと見せた。
「美味そうだな」
ラルクも汗を拭いながら、ディアへと答える。春だというのに日差しが強く、作業しているだけでも汗を掻いてしまう。
「トルメトって塩かけて食べたら最高なんでしたっけ?」
「そうだ。後で試してみよう」
「はい!」
流石ガイアリザードの背中だけあって、その畑には植えてから一週間とは思えないほどの量が実っている。
特に青色の果実でほのかな酸味と爽やかな甘みが特徴のオラージと、酸味と旨味がある赤色のリモネは、それぞれカゴ一杯採れた。
「果実酒~♪ ららら~果実酒♪」
嬉しそうに変な歌を口ずさむディアを見て、ラルクが微笑む。
(しかし作るとなると、酵母に容器、それに道具もいくつか必要になるな)
「ディア。このあと、広場にある商店へ行こうか」
「商店!? はい! 何買うんですか!?」
「果実酒作りに必要なものだよ。多分、売っているはずだ」
「でも、お金は大丈夫なんです……?」
ディアがそう心配するのも無理はなかった。ダリウスからとりあえずもらった金については食糧や寝具、服といった必需品やらを買っているうちにかなり少なくなっていた。
ダリウスから木材代が入るのはおそらく一ヶ月先であり、逆に言えばそれまでは収入なしである。
「そろそろあれを売ろうか」
ラルクが指差したのは、家の裏に設置した小さな机の上にある、長方形型の平べったいカゴだった。
その中には、カラカラに乾いたブルーブラッドリーフが綺麗に並べられている。
「あー! そういえばあれがありましたね!」
それは数日前にラルクが余った木材で組み立てた、簡易の乾燥箱だった。
「ブルーブラッドリーフは乾燥させてからの方が効能が高まって高く売れるんだ」
「なるほど! じゃあそれを売って、道具を買う資金に充てるんですね!」
「そういうことだ。あとは果実酒も上手く作れば、酒場でも売れるぞ」
「へえ!」
「昔、よくそれで小遣い稼ぎをしていたよ」
ラルクが懐かしむような表情を浮かべ、空を見上げた。
まだラルクが幼い頃。
ラルクは少し年上のダリウスと、彼の妹で同い年であるリリアの三人でよく遊んでいた。
そんな思い出が頭をよぎり、胸が少しだけ痛くなる。
「どうしたんですか?」
心配そうに覗き込んでくるディアを見て、ラルクは曖昧に微笑んだ。
「なんでもない。よし、とりあえず取った果実は水の張った桶の中に入れておこうか」
「はい!」
ディアが大きな桶に水を張り、ラルクがそこに採れたばかりの果実を入れていく。
青と赤の果実で、水の中に沈んでいく。、
「よし、これでいい。浮いてきた果実は中がスカスカなので、皮は取っておいて実は肥料にしよう」
「はーい! 流石ラルクさん、手慣れてますね」
「十五歳まではこの村に住んでいたからな。ある程度のことは一通りやってるさ」
「なるほど……。でも、なんで十五歳で村を出たんです? そのあとは冒険者をやってたんですよね?」
ディアがユーリ達から聞いた話をそうラルクに伝えた。
(そういえば……ラルクさんって全然自分の話をしてくれないなあ)
そんなことに今更ディアが気付く。
「まあ、色々あってな」
ラルクが片付けをしながら、そう短く答えた。
「色々か……いつか、それも聞かせてくださいね」
二人は片付けを終えると、青子に留守番を頼み、村の広場へと向かうべく家を出た。
「そういえば、ディアはどうして人界に来たんだ」
小道を歩きながらラルクが逆にそうディアへと問うた。
若いとはいえ、ダークドラゴンである彼女が、わざわざ人界にやってきた理由がラルクには分からなかった。話しぶりからすると、邪竜認定されて追放されたというわけでもなさそうだ。
「あー。うーん。まあ、大した理由ではないんです。人を……あ、この場合は竜なんですけど、その人を捜すために人界に来ました」
「竜を捜しに? 知り合いなのか?」
「あたしの師匠なんです。とても強くて、優しくて……」
「見付かったのか」
「……
ディアの顔に浮かぶのは、普段の天真爛漫な彼女からは想像もできない、憂いを帯びた表情。
「そうか」
それ以上、ラルクは何も聞かなかった……否、聞けなかった。
人界に来た竜の殆どは……
ディアのように人に対して好意的な竜はもちろん多いのだが、彼らが人界へとやってくることは滅多にない。来る理由がないからだ。
ゆえに邪竜や悪竜といった追放され、居場所を失った竜しか人界にはやってこない。
それを考えれば……その師匠とやらももう生きていないだろうことは明らかだった。もし、ディアが生きて師匠と出会っていれば……酒を飲まされ邪教徒に捕まるなんてヘマはしないはずだ。
(あるいは……俺がこれまでに討伐した竜の中にいたかもしれないな)
そう思うと、ラルクは自分の過去についてディアへとますます話し辛くなるな……と思ってしまう。
「ラルクさん! 暗い話はやめましょ!」
ラルクの思考を察したのか、ディアが笑顔で腕を絡めてくる。
「……そうだな」
「あたしは、今とっても楽しいですよ? 人界に来てよかった、ラルクさんに会えて良かったって心から思っています」
「そうか」
ラルクは目を閉じ、再び開けた。その顔にはもう暗い表情は浮かんでいない。
そうして二人が歩いているうちに、村の広場へと辿り着く。
「さ、着いたぞ」
ラルクが一軒の商店を前にして、ディアへと説明をはじめた。
「ここが村唯一の商店である、カマロ商店〟だ。大体のものがここで揃う」
「ほえー」
二人が商店の中へと入っていく。中は狭いが、食料品から日用品まで様々な物が売っていた。
「お、ラルクじゃないか。いらっしゃい……って今日は夫婦揃ってだな」
そう二人へと声を掛けたのは、金髪の青年――このカマロ商店の店主であるリードだった。
「えへへ、初めまして。ディアです」
ラルクは何度か訪れたことがあるが、ディアは初めてだったのでそう自己紹介しつつ頭を下げる。
「噂は聞いているよ。いやあ、噂よりもずっと可愛いね」
それを見てリードが緩んだような表情を浮かべるも、横に立つラルクの顔を見て、咳払いをした。
「……コホン。それで、今日はどうした?」
「果実酒を作ろうと思ってな。酵母と容器、それに簡易の圧搾機が欲しい」
「あいよ。しかし、果実はどうするんだ?」
「畑で採れた」
「は? いや、だってラルクが帰ってきたのって一週間前だろ? いくらなんでも早すぎないか」
リードが当然の疑問を口にした。ラルクが畑作りをはじめたのは知っているし、あれこれ畑仕事用の道具やらを手配をしたのも彼だった。だからこそ、たった一週間で収穫できたという話が信じられない。
「ディアの魔法のおかげだ」
「ほう?」
「え?」
ディアまでもが、なにそれ? みたいな顔をするので、ラルクが軽くディアの背中を小突きながら、説明する。
「ディアは樹木魔法が得意で、あの家も畑も彼女の魔法のおかげなんだ」
家や畑を見られてあれこれ言われるのを分かっていたラルクは、村人達には、〝全て魔法のおかげ〟で押し通していた。幸いここは辺境であり、かつ魔法を使える者はほとんどいないため、殆どの村人がそれを信じてくれた。
「そ、そうでした! あたしの魔法のおかげです!」
そういうことにしようとラルクに何度も言われたことを思い出し、ディアが何度も頷く。
「ああ、そういえばあの美人な案山子も魔法で作ったんだっけ? 村のガキどもが、しょっちょう覗きに行ってるぞ」
美人な案山子……が青子のことであると察したラルクが曖昧な表情で肯定する。
(最近、村の少年達を畑の近くでよく見掛けるのは、青子目当てだったか)
「魔法はすげえなあ。羨ましいよ、魔法が使える奥さんがいるのは」
「そうだな。助かっているよ」
ラルクがそうリードに返しているのを見て、ディアが嬉しそうにはにかむ。
「そうだそうだ、果実酒用の道具だったな」
リードがガサゴソとカウンターの裏の棚を漁りはじめた。
「ついでにこいつの買い取りをお願いしたい」
そんなリードを見て、ラルクがカウンターの上へと乾燥させたブルーブラッドリーフを詰めた袋を置いた。
「ん? おお! こりゃあまた見事なブルーブラッドリーフだな! どこで採取した?」
「畑だ」
「そうか……流石は魔法の畑だ。この質なら医術士のロマナ先生に高く売れるから――全部買い取りかつ今日の会計を差し引いて、十二ベタンでどうだ?」
三十ベタンあれば一ヶ月は楽に暮らせることを考えると十分な金額だと納得し、ラルクが交渉成立とばかりに首肯する。
それを見たリードがあれこれ道具やらをカウンターの上へと置いていった。
しかし、とある物がないことに気付き、ばつの悪そうな顔でラルクへと謝罪する。
「あちゃあ。すまん、簡易圧搾機を切らしちまってるみたいだ。あれ、州都まで行かないと売ってないんだが、まだ今週は行商人が来てなくてな」
「そうか。それなら仕方ない」
「悪いな。その分は抜くと……ほら、十三ベタンだ」
リードが汚れた銀貨を十三枚ラルクへと手渡した。
「またブルーブラッドリーフが集まったら売りに来るよ」
ラルクが銀貨を受けとると、木箱に買った道具や酵母の入った袋を入れていく。
「頼むよ。こういう質の良いブルーブラッドリーフは貴重なんだ」
「分かった。それじゃあ」
「まいどあり~。ディアちゃんもまたね」
「はい! また来ます!」
商店を出たあとに、ディアが嬉しそうにラルクへと話し掛けた。
「結構な金額になりましたね! 十三ベタンが千三百ペトルで……海鮮串が一本十ペトルだから……百三十本買えますよよ!」
ディアが屋台で売っている海鮮串を見て思わずそう計算してしまう。
「さっき昼を食べたばっかりだろ。海鮮串は買わないぞ」
「た、食べたいわけじゃないですって! 例えですよ~」
「分かってるよ」
ラルクが意地悪そうな笑みを浮かべた。
「いじわる~。そういえば、簡易圧搾機? がなくても大丈夫なんですか?」
「一個一個で手でやるしかないが、やれないことはないさ」
「ほほう。あ! あたしの重力魔法使えば簡単なのでは?」
「……確かに」
「じゃあ帰ったら早速やりましょう!」
(果実を潰す程度なら、大丈夫だろう)
そんな甘い考えと共に、帰宅したラルクは早速ディアの力を借りて果実酒作りをはじめたのだった。
結果として二人は――とんでもない酒を生み出すことになる。
*あとがきのスペース*
完全に作者の趣味な果実酒作り編だよ! 真似しないでね!(できない)
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