第14話:弟子達が毎日来て困ります!
ユーリとミーヤがラルクに弟子入りしてから一週間。
ディアが恐れていた事態が、現実となっていた。
「師匠! おはようございます!」
「おはようございます!」
「また来たな! 帰れ! あたしとラルクさんの甘い時間を邪魔するな!」
「ディアちゃんは今日も元気だな!」
なんて朝から玄関口で騒いでいる三人を見て、ラルクはため息をつく。
「ユーリ、ミーヤ。毎日来る必要はない。教えた基礎訓練をやれ。ディア、そう邪険にするな」
ラルクの言葉を聞いて三人が口を閉じる。
しかし次の瞬間には、またそれぞれがラルクへと言葉を投げた。
「ラルクさん! 基礎訓練、簡単過ぎてすぐ終わるのですが! もっと何かありません!?」
「私達、体力だけは自信ある」
「うー、だってこいつら、事あるごとにうち来るんだもん!」
そんな三人を見てラルクは頭を掻きながら、どうしたものかと思考する。
(結構キツい基礎訓練を課したはずなんだがなあ……)
想像以上にユーリとミーヤは基礎がしっかり身に付いていたようだ。さらに戦闘技術面も悪くないのは前回の依頼で分かっている。ならばあと必要なのは――
「やはり実戦経験か」
こればっかりは一朝一夕で身に付く物ではない。
しかしそのラルクの結論に、ユーリが不満を露わにする。
「そうは言っても、最近全然依頼がないんですよ」
「村人達も不思議がってる。ガイアリザードとかブラックワイバーンが出たっきり、全然他の魔物やワイバーンが出てこないって」
「ああ、それは……」
ディアのせいだな、と言いかけてラルクは口を閉ざした。
大森林についてはディアの縄張り扱いになっているそうで、レッサードラゴンや魔物は寄りつかなくなったそうだ。北の山は黒吉が目を光らせているので、ワイバーンによる被害は今のところ一切出ていないという。
どちらもキーナ村の住民からすればありがたいことなのだが、レッサードラゴンや魔物を狩ることが生業のユーリ達からすると、商売あがったりである。
「もう冒険者はこの村にいらないってことですよ! ラルクさんとあたしがいれば大丈夫! ですよね、ラルクさん」
ディアがそう聞いてくるが、ラルクは首を横に振って否定する。
「今はそうかもしれないが、一ヶ月後はどうだ? 半年後は? 俺とディアが居ない時は誰が対処する?」
「そ、それは」
「冒険者の仕事がないのは本来良いことなんだ。だからと言って彼らの必要がなくなることは絶対にない。特にこの村はな」
「はい……でも黒吉も青子もいるし……」
なって拗ねはじめるディアを見て、ラルクがその頭を撫でた。
(とはいえ、依頼がないと実戦経験を積めないのは事実。俺が練習相手になってもいいが……)
なんて考えていると、青子が傍に生えてくる。
「主様~。そろそろ私の畑の方で間引きをする必要があるわ~。あとポット君の方はそろそろ収穫ができそうね」
「そうか。あとでやるとしよう」
「よろしくね~。あと実戦経験なら、私と黒吉が適任じゃないかしら?」
なんて青子がにこやかに提案してくるのを聞いて、ラルクが目を見開いた。
「その手があったか」
青子はドリアードだが、その強さはユーリ達を捕縛したところから証明済みだ。黒吉については言うまでもない。
「対魔物の訓練なら私だし、対レッサードラゴンの訓練を黒吉とやれば、きっと成長するわよ~」
「確かに」
「え? マジっすか」
「……トラウマ」
青子にツタによってぐるぐる巻きにされ、あっけなく捕らえられたことや、ブラックワイバーンに強襲された記憶が蘇り、ユーリ達の顔が青ざめる。
「そうだな。それがいい。まずは黒吉相手に実戦形式でやってみるのはいいな。ディア、黒吉に協力できるかどうか聞いてみてくれ」
「ええ……なんであたしが……」
嫌そうにするディアに、青子がそっと囁いた。
「黒吉との演習なら北の山だし、私との訓練なら裏の荒れ地。ラルクさんからあの二人を引き離せるわよ?」
「っ! 確かに! 分かりました! すぐに伝えてきます!」
ディアが脱兎の如き勢いで外へと飛び出したのを見て、ラルクが苦笑する。
「やれやれ。黒吉に無茶を言わなければいいが」
「いや、えーっと、ラルクさん? いくら訓練とはいえ、相手がブラックワイバーンはちょっといきなりハードすぎません?」
ユーリが顔を引きつらせながらそう問うも、ラルクはその通りとばかりに頷くだけだった。
「死ぬ危険がなくブラックワイバーンとの実戦経験を積める貴重な機会だ」
「本当に黒吉は大丈夫な……?」
「心配ない」
「師匠、本気ですか……」
と言いつつも、ラルクの指示を断れない二人だった。
「帰りました! 黒吉に伝えたところ、〝こちらも対人間の訓練ができるから丁度良い〟って言って乗り気でした!」
五分もたたずに帰ってきたディアにそう言われて、ユーリ達は覚悟を決めるしかなかった。
「……ぐぬぬ、仕方ねえ! やってやりますよ! ブラックワイバーンなんて楽勝で倒せるぐらいに!」
「大丈夫かなあ……」
なんて言いながら、ユーリ達は早速北の山へと向かったのだった。
「……ふう! ようやく静かになりましたね!」
「そうだな」
邪魔物がいなくなった途端に抱き付いてくるディアに、流石のラルクも慣れたのか、余裕そうにその頭を軽く撫でる。
「えへへ……」
「さ、青子の畑で間引きをしないとな。あと、ポット君の畑の収穫もだ」
「収穫! 初めての収穫、楽しみですね!」
「ああ、俺も楽しみだよ」
「じゃあやりましょうか」
そうして二人は畑へと出て、青子の指示通りに作業を始める。
「そこの株と株の間にあるのを抜いていいわよ~」
「これか」
「そっちの苗木の枝も少し払った方がいいかもね~」
「はーい!」
地道な作業であり、おそらく青子に命令すれば全て彼女がやってくれるだろうことをラルクは知っている。
しかし彼は青子に、そういう作業の必要性や指示は出してもいいが、作業自体はするなと青子に予め伝えていた。
(これぐらいは自分でやらないとな)
汗を拭いながらやる作業も悪くない。
そう思える今の環境が、幸せだった。
「早く実らないかなあ~」
ディアが楽しそうに苗木の枝を何やら魔法を使って払っている。
「ポット君の方はもう実ってるけどな」
「あっちはなんていうか全部ポット君のおかげなので自分達で育てた感がないんですよね~。すぐに食べられるのは良いことですけど!」
「俺もそう思うよ」
とはいえ、ポット君の畑の収穫も楽しみではある。
甘酸っぱい味の真っ赤なトルメト。
柑橘の王様であるオラージに、酸味が特徴のリモネ。
そして、焼くだけでご馳走になるソルト芋。
どれもこの村の特産である。
「しかし、かなりの収穫数が見込めそうだな」
「ですね! 食べきれない!」
遠目から見てもたわわに実っている果実や野菜を見て、ラルクはさてどうしようかと考えていた。
「トルメトとソルト芋は料理に使うとして、オラージとリモネは流石に持て余すな」
「あ、じゃあ、果実酒でも作りません!? なんか村の人が作っているのを見ましたよ!」
「悪くないな」
オラージとリモネを使った果実酒は確かにこの村でよく作られている酒であり、そこまで難しい工程はないはずだった。
「……というか、君が飲みたいだけだろ」
ラルクが視線を向けると、ディアが光の速さで顔を逸らした。
「あはは……いやあ、そんなつもりは全然……まったく……ちょっとだけ」
「はあ……まあ果実酒作りはいいとして、飲むのは少しだけにしておくんだぞ」
「はーい!」
ディアの元気良い返事を聞いてラルクが頷く。
こうして二人は、果実酒作りに挑戦することとなった。
*あとがきのスペース*
誰でもできる、簡単果実酒作りが始まるよ!
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