第13話:酒盛りだ!


 ラルクの家にて。


「そんな過去が……ううう……ディアちゃんすまねえ! 辛いことを聞いて!」


 ユーリがテーブルで木製のマグに入った葡萄酒を飲みながら、袖で涙を拭った。


「親に捨てられ、竜に育てられた少女……そしてそれを保護した優しき山賊……二人はいつしか恋に落ち……そして……ふふふ」


 ミーヤはというと、こちらも葡萄酒を飲みながら何やら怪しげな笑みを浮かべている。


 無事北の山での依頼が終わり、二人の冒険者を労う為に夕食を買いに行ったラルクが家に戻った時、二人の冒険者はそんな感じに出来上がっていた。


「……どういう状況だこれ」


 ラルクが酔っ払っている冒険者二人と、それ以上に顔を真っ赤にして酔っ払っているディアを見て、思わずそう呟いてしまう。


「うへへ……あたしとラルクさんの馴れそめぉを~、お二人にお話していたんですぅ」


 目がとろんとしていて、妙に色っぽい雰囲気を出しているディアがそんなことを言いながら葡萄酒の入ったマグを片手にラルクへと抱き付いてくる。


「優しい山賊だ! 優しい山賊が帰ってきたぞ!」

「クマとミノタウロスだけが友達だった不器用な山賊だ!」


 ラルクを見て、盛り上がるユーリとミーヤ。


「はあ……」


 どうやら、ラルクがいない間に酒盛りをはじめた結果、ディアが酔っ払ってあることないことをこの二人に吹聴していたようだ。


(流石に自分の正体がダークドラゴンであることは言っていないようだが……優しい山賊って俺のことか?)


 よく分からない話になっているので、ラルクはとりあえずディアから酒を取り上げた。


「君はこれ以上飲むな」

「ええ~! ケチ! ラルクさんの意地悪!」

「酔ってまた怪しい連中に捕まっても、もう俺は知らんぞ」


 ラルクの言葉を聞いて、ユーリとミーヤがはやし立てる。


「そのエピソードはあれだな! 悪い盗賊に捕らわれたディアちゃんをラルクさんがカッコ良く助けたやつだろ? ひゅーひゅー! ラブラブだな!」

「羨ましい……」


 チラリとユーリの顔を見て、ミーヤが乙女のため息をつく。


「ああ、俺も美少女を助けたいなあ」


 しかしそんなことをユーリが言い出すので、ミーヤは笑いながら怒るという器用な表情を浮かべながら、ユーリの太ももをつねった。


「ユーリみたいな田舎者は私で我慢しておけ」

「ギャアア! 痛いって! 握力オーク並のお前のそれは洒落にならな――ぎゃああああ」

「ラルクさ~ん。あたし~、酔っちゃったぁ」


 そんな酔っ払い三人を見て、ラルクが買ってきた肉やら串やらをテーブルにドンと置くと、低い声で脅すようにこう言ったのだった。


「お前らさっさと食って帰れ。ディアは水飲んで寝ろ」


 その言葉でユーリとミーヤの酔いが冷め、コクコクと何度も頷いた。ディアは既に限界が来ていたのか、ラルクに抱き付いたまま眠ってしまった。


「まったく……」


 ラルクがディアを抱えて彼女の部屋まで運ぶと、優しい手付きで彼女をベッドへと横たわらせた。


「ん……ラルクさん……むにゃむにゃ」


 寝言で自分の名を呼ぶディアを見て、ラルクはポリポリと顎ひげを掻くと、そのまま彼女にタオルケットを掛けて部屋を出る。


「やれやれ……」


 そう呟くものの、ラルクの顔にはまんざらでもない表情が浮かんでいた。


 彼がユーリ達の下に戻ると、ユーリ達が恥ずかしそうにしながら肉へとかぶりついていた。


「いやあ、お見苦しいところを」

「えへへ……なんかお酒が美味しくてつい」

「それは構わんが.……ディアの話を真に受けないでくれよ」

「分かってますって。何か事情があるんですよね?」


 真面目な顔でユーリがそう聞いてくるので、ラルクは無言で頷く。

 そういえば、気付けばユーリはいつのまにか自分に対して敬語を使っていた


「私達も色々あったので、なんとなく分かりますよ」


 ミーヤの言葉に、ラルクが万感の思いを込めて言葉を返す。


「冒険者は皆、少なからずそういう事情を抱えているからな」


 ラルクが葡萄酒を自分と二人のマグに注いでいく。

 成功したにせよ、失敗したにせよ、依頼の後はこうして酒盛りをするのが冒険者の流儀だった。


「詮索はしないですけど……ラルクさんって冒険者ですよね?」


 ユーリがそう発言する。

 色々とそう推測できる材料あったが、何よりもラルクが纏っている、冒険者特有の〝死の匂い〟がそう彼を確信させた。

 

 そんな言葉を受けて、ラルクが葡萄酒を一口飲むと、目を閉じてそれに答える。


「……元、冒険者だ。大したもんじゃない」

「それで田舎に帰ってきたってやつですか」

「そうだ。だから、あまり目立ちたくなかったんだが……あれは誤算だった」


 ラルクがガイアリザードの件について言及すると、ミーヤが小さく笑う。


「あはは……そりゃあガイアリザードなんて狩って帰ってきたら、ここの村人にとったら凱旋みたいなもんですよ」

「反省している」

「ラルクさん……実は相談があるのですけど」


 ユーリが改まった様子で、そうラルクへと視線を向けた。


「ん? なんだ?」


 ラルクがそう聞くと――ユーリとミーヤが勢いよく頭を下げて、こう叫んだ。


「――俺達を鍛えてください!」

「お願いします!」

「……は?」


 それが何を意味するか分からず、ラルクは困惑する。


「ラルクさんですら大したことないってことは、帝都の冒険者ってのはラルクさん以上にとんでもなく強いってことですよね!?  俺達もまだまだこの村で冒険者をやっていくつもりなんですが、いずれは帝都で冒険者として成功したいんです! でも今のままだと無理だと痛感しました! 俺達はあまりに弱い」

「い、いや、そんなことはないぞ」


 ラルクがそう慌てて言うも、二人は聞く耳を持たない。


「気を遣わないでください! 自分達が現状のCランクに相応しくないことはもう痛いほど分かっています! なのでラルクさんには新人だと思って一から鍛えていただければと!」

「がんばる!」


 ユーリとミーヤが本気であるとことを知ったラルクがため息をつく。

 比べる相手が悪いだけなのが、それを今更説明するのもなあ、と考えたラルクは、結局こう答えるしかなかった。


「……分かった。だが俺はあまり教えるのは上手くないぞ? あくまで自己流になるが……」

「構いません! 少なくともブラックワイバーンやガイアリザード程度は余裕で狩れるレベルになりたいです!」

「です!」


 帝都の冒険者でもそれが出来るのは極々一部だけなんだがなあ……と思いつつも言えないラルク。


 なんだかんだ言いつつ、頼られることが嫌いじゃないラルクだった。

 

「明日からはよろしくお願いします、師匠!」

「雑用でも畑仕事でも、なんでもしますよ師匠!」


 いつのまにか師匠呼びになっている二人を見て、ラルクは苦笑するしかない。

 結果として――ディアの乙女の勘は見事に当たったのだった。


 のちに、ユーリとミーヤは〝双竜閃〟と呼ばれるほどの冒険者になるのだが……それがラルクの薫陶によるものなのは言うまでない。



*あとがきのスペース*

ディア「またあの二人来てる!! 帰れ!!」

となる未来しか見えない


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