第6話:ポット君を運ぼう!


「というわけで、よろしくねポット君!」

「ぐる~」


 すっかりディアに懐いたポット君を見て、ラルクが口を開いた。


「……なあ、ディア」

「なんです? ふふふ、可愛いくないですか? ポット君」


 ガイアリザード……もといポット君の頭を撫でるディアを見て、ラルクが疑問を口にする。


「いや、うちで飼うのはいいが……どうやって家まで連れて帰る気だ?」

「ええっと。村の中を通って……?」


 ポット君の巨体はどう考えても目立つ。

 もし連れて歩いたら、間違いなく騒ぎになるだろう。下手すると討伐されるかもしれない。


 そう思ってのラルクの発言だったが、ディアは当然そこまで考えていない。


「ポット君に話を聞いたら、人間達を襲ったつもりはなくてたまたま逃げてきたところに出会っただけだそうです。追い払っただけで怪我もさせてないし、食べてもいないって。だからペットだと言えば、なんとかなりません? 」

「ならん。どこの世界にレッサードラゴンを飼う人間がいる」

「あう。それはまあ確かに……どうしましょ?」


 困るディアを見てポット君が、どうしたの? と言わんばかりに首を傾げた。


 今更、やっぱり保護できないので背中の竜尖樹だけ寄こせ――と言うのも、可哀想だな……とラルクも思ってしまう。


「……人目の付かない夜にこっそり家の裏の荒れ地まで来てもらって、土に潜ってもらうしかないな。万が一目撃されたら大変だが……」


 それ以外の方法でポット君の巨体を隠しつつ、家の裏まで移動させる方法をラルクは思い付かなかった。


「うー。もし見付かったらどうなります?」

「討伐するしかない。村に近付く魔物やレッサードラゴンは、駐屯している冒険者に依頼して討伐してもらうのが普通だ」


 そう話しながら、そういえばキーナ村の冒険者とまだ会っていないことをラルクは思い出す。


 確か聞いたところによれば、村には二人冒険者が派遣されてきているはずだが、そのどちらとも彼は面識はない。


 当然、元Sランクであるラルクは冒険者の間でも超有名なのだが、どちらかというと二つ名の方である〝竜断〟の方が通りが良いので、そちらを知っていてもラルクという名前も顔も知らないという者が殆どだという。


 しかもこんな田舎に派遣されているような冒険者なら尚更だろう。なので会ったところで正体はバレないだろうが……


(ま、関わらないにこしたことはないか……)


 そうラルクが考えていると、


「ええ……嫌です! ポット君を殺すなんて!」


 信じられないとばかりに、ディアがポット君の頭を抱き抱える。


「そうは言うがな……討伐して、死体は村に持ち帰って解体、各部位を討伐した者で山分けするのが村の決まりだ」

「蛮族だ……蛮族すぎる」

「そういうものだ」

「ううう……死体なら平気なのに、生きていたらダメなんて理不尽だ……ん?」


 自分の発言を聞いて、ディアが何かを考え出す。

 それからしばらくして、彼女は両手を勢いよく空へと掲げた。


「ピッコーン! あたし、良い方法を思い付きました!」


 そうディアが叫び、そのアイディアをラルクへと伝えた。


「なるほど……あまり気は進まないが」

「いけますって! ポット君にはあたしが説明しますし!」

「仕方ない。それでいくか」


 二人による、ポット君移送が始まったのだった。


***

 

 キーナ村の大通りにて。


「おお! 凄いぞ! ガイアリザードだ!」

「竜尖樹が生えているぞ!」

「ラルクが狩ったのか!?」


 村人達の視線の先には、ポット君が寝そべっている荷台を引いているラルクとディアの姿があった。


 ディアの作戦はシンプルだった。


『ポット君を討伐したというていで、普通に運べばいいんですよ!』


 なので、ポット君には荷台で大人しくしてもらって、家の裏にある荒れ地まで運ぼうとしたのだが――ラルクはすっかり失念していた。


 このキーナ村の住人は、レッサードラゴンを狩った者を英雄視しがちであるという気質を。


「いやあ、これからは安心だな」

「流石ラルクだ」

「木こり達が何度訴えても冒険者が動かなかったのに、流石だ」

「最近、北の山でもレッサードラゴンが出るから今度からラルクに頼むか」


 そんな言葉を聞いて、ラルクはダラダラと汗を掻き始めた。

 そういうことから離れるために故郷へと帰ってきたというのに。


「あはは、凄いですねえ」


 嬉しそうに笑うディアを見て、ラルクはため息をついた。


「目立つのは好きじゃないんだがな……それに冒険者の立場もある」


 本来なら冒険者へと振られる仕事を横取りした形になるのでラルクとしてはあまり歓迎できる事態ではなかった。


「ポット君の為です! 我慢我慢」

「仕方ないか」


 そう二人が会話していると、遠くから慌てた様子で赤髪の男がやってくる。


「ラルク! お前……凄いな!」


 駆け寄ってきてラルクの背中をバシバシ叩いたのは、家具職人のダリウスだった。


「ダリウス。竜尖樹が手に入ったぞ」

「見りゃあ分かる! しかもこいつは凄いぞ! 竜尖樹の中でも滅多に見付からない〝寄生樹〟じゃないか! 竜の魔力をたっぷり吸っているから木材としては最高のものだぞ!」


 興奮するダリウスを見て、ラルクがここでようやく微笑むことができた。


「家の裏で伐採して、全部そっちに運ぶつもりだがいいか?」

「全部だと? 一本で十分だが……」

「俺達が持っていても仕方ない。好きに使ってくれ」


 ラルクの発言を聞いて、ダリウスが悩み出す。

 はっきり言ってこれだけの量の竜尖樹、しかも寄生樹の売値を考えると、対価として渡すつもりだった家具一式と、全くそれに足りていない。


「むむむむ……流石に全部タダで貰うわけにはいかないが、買い取る金もないし」


 さらに寄生樹は、伐採してからすぐに特殊な方法で加工しないと劣化してしまうという厄介な性質を持っている。なので金が用意できるまで放置する、というわけにもいかなかった。


「だったら、一旦そっちに全部預けるという形でどうだ? この木材を使って利益が出たら、改めて払ってくれたらいい」


 考え込むダリウスを見て、ラルクが提案する。付き合いが長いだけに、ダリウスがこういうことで好意に甘えるようなことを絶対にしないことは、彼が一番よく分かっていた。


「ディアもそれでいいか?」


 ポット君から採れた竜尖樹の所有権は飼い主であるディアにあるので、ラルクが問いかけると、彼女は満面の笑みで頷いた。


「もちろんです!」

「なら決まりだ」

「……ありがとうラルク。それにディアちゃんも。とりあえずある程度の金は用意するよ」


 ダリウスが感謝するので、ラルクとディアは顔を合わせて頷き合った。


「とりあえず家具はなんとかなりそうだな」

「お金も入りますね!」


 村人の注目浴びつつも、なんとか無事ポット君を家の裏の荒れ地へと運んだ二人は、あれこれ見学に来ていた村人達に言い訳をしながら、ポット君を地面へと埋めたのだった。


「いよいよ明日からは畑作りですね!」

「そうだな。手伝ってくれるか?」


 ラルクは、ポット君を埋めてなお、まだ半分以上が手付かずの荒れ地を見て、ディアへと一応尋ねた。


「もちろんです! ね? ポット君!」

「ぐる~」


 地面から顔だけ出して返事するポット君にディアが、〝いいこ、いいこ〟とその頭を撫でた。


 二人と一匹による、畑作りが始まる。


 それがまた騒ぎの元となるのだが……そんなことを彼らは知る由もなかった。





*あとがきのスペース*

村に派遣されている冒険者についてはいずれ出てきます。

いよいよスローライフっぽい話になってきましたので、次話もお楽しみに!


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