第4話:家具職人の依頼です!
しばらく言葉が出ずに、呆然とするラルク。
顔を真っ青にして、パクパクと口を開けては閉じるを繰り返すも、掛ける言葉が見付からないディア。
「えっと……いや……その……」
ディアが言葉に迷っていると――ラルクがようやく立ち上がった。
そしてディアに近付き、彼女へと手を伸ばす。
「ごめんなさい!」
怒られると思ったディアがそう謝るも、なぜかラルクに頭を撫でられてしまう。
「へ?」
「……俺の落ち度だ。ディアは悪くない」
ラルクがそう言って、ワシャワシャとディアの柔らかい黒髪を撫でた。そのやり方はちょっと乱暴だったが、彼女はなぜか嫌な気持ちがしなかった。
「で、でも」
「気付かなかった俺が悪い。それにもう金も荷物も返ってこない。だったらそれはそれでどうにかするしかない」
一切怒る様子のないラルクを見ても、ディアは落ち込んでしまう。
(あたしのせいで……ラルクさんの大事なお金が)
恩返しのはずが、余計に迷惑をかけてしまったことが情けなくて仕方なかった。
「とりあえず家具職人に知り合いがいるから相談してみよう。ついでに村も案内する」
そんなディアを見て、ラルクがそう提案した。
ここで落ち込んでいても、何も始まらない。元冒険者であるラルクの切り替えは早かった。あるいはだからこそ、Sランクになれたのかもしれない。
「……はい!」
ようやく笑顔になったディアを見て、ラルクが頷く。
「こっちだ」
ラルクが東側を指して、そちらへと歩き始めた。
北は険しい岩山、南は豊かなラーゲ海、東は竜界へと続く大森林、西はなだらかな丘陵地帯と、大自然に囲まれたこのキーナ村。
ラルクの家は西の丘陵地帯に隣接する村外れにあった。
そこから村の中心地に向かう為に、東へと続く道を二人が進んでいく。
漁師や狩人、あるいは北の山で採れる豊富な鉱石を目当てとする採掘士が多いこの村だが、あまり農業に向いた立地ではないので、辺境の村では珍しく農地が少ない。
「しかし自給自足するとなると、畑の一つでも作る必要があるな」
「畑! あたし、そういうのに憧れあるんですよねえ~。人の世界は初めてなので色々教えてください!」
当然とばかりに腕を絡めてくるディアに、ラルクは思わず顔を逸らし顎ひげを掻いてしまう。何より右腕に当たっているディアの胸の柔らかい感触から全神経を逸らすのに必死だった。
ディアの見た目は十代後半ぐらいで少し幼い顔付きをしているが、身体は完全に大人のそれだった。
(こんな子と、一つ屋根の下で暮らすのか……)
なんてことを今更考えはじめるラルク。
ラルクとて、男。人並みには性欲もある。
しかしこれまで恋人を作らなかったのは、単純にずっと冒険者の依頼で帝国中を駆けずり回っていたせいもあるが、何よりも亡き幼馴染みのことをずっと引きずっていたからだ。
しかし復讐を果たしたと同時に、その気持ちも消えてしまった。
なのでその縛りもなくなった今……ラルクは自分が獣にならないかが心配になってきた。
そんな彼の思考を知ってか知らずか、ディアが蠱惑的な笑みを浮かべてこうラルクへと囁く。
「家具といえば、ベッドもいりますよね? ふふふ……ダブルベッドにします?」
「しない」
ラルクが即答する。そんなことになれば、理性を抑える自信が全くなかった。
「ええ……なんでぇ」
ディアが、信じられないとばかりの顔をする。
「そもそも部屋は別だ」
「それ寂しいですって~新婚なのに」
「新婚じゃない」
「新婚、みたいなもんですって」
なんて言っているうちに二人は村の中心地にある広場にやってきた。
そこには各種施設とこの村唯一の酒場があり、村人達が集まって思い思いの方法で寛いでいる。
「結構人は多いんですね。こんな辺鄙な土地なのに」
活気のある様子を見たディアがそうラルクへ感想を伝えた。
「この辺りで人が住んでいる土地はここぐらいだ。だから漁師も、山に入る採掘士もここを拠点にする」
「なるほど。あ、あの屋台から良い匂いが!」
フラフラと、広場の中心にあるキーナ名物である海鮮串焼きの屋台へと誘われるようにディアが近付いていく。
その頭を、ラルクが掴んだ。
「……後だ。そもそも買う金がないだろうが。先に家具職人のところに行くぞ」
「ふぁーい」
屋台を名残惜しそうに見つめるディアを引っ張って、ラルクが広場の北側にある家具職人の家へと、勝手知ったるとばかりに入っていく。
その家の敷地内には工房があり、その中には木材を使った様々な家具が置いてあった。
「久しぶりだな……ダリウス」
ラルクがそう、工房内で木を削っている男へと声を掛けた。赤い髪を短く刈り上げたその男は、戦士とは違う体付きではあるが、ラルクと同じぐらいには体格が良かった。
「おお! ラルクじゃねえか! 帰ってきたって噂は本当だったか。それに……そっちが例の」
家具職人のダリウスが、驚いたような表情を浮かべたあとにディアを見て、ニヤリと笑った。
「初めまして! ラルクさんの妻のディアで――モゴモゴ!」
ラルクがディアの口を塞ぎ、顔を引き攣らせながら代わりに答える。
「……訳あってうちで世話することになった子だ。家の片付けをしていたんだが、家具は全部ダメになっていた」
「ふーん……なるほどねえ」
ダリウスがニヤニヤしたまま、ラルクとディアの様子を観察する。
ダリウスとラルクは、幼い頃から兄弟のような関係だった。ダリウスの方が年上だったが、ラルクとダリウスはそれぞれに男兄弟がいなかったせいもあって、余計に仲が良かった。
その関係は、二十年経った今でも変わらない。
「まあ、詳しい話は今度酒の席でじっくり聞こう。で、何が欲しい?」
ダリウスがそう聞くと、ラルクは少し考えた末にこう答えた。
「とりあえずベッドだな。棚やらテーブル、椅子もいるが……」
「ベッドか。当然ダブルベッドだよなあ、ディアちゃん?」
悪い笑みを浮かべながらダリウスが、ディアへと視線を向ける。
「もちろんです!」
ラルクの拘束から脱出したディアがダリウスへとそう答えるので、ラルクはため息をつく。
放っておくとこの二人はずっと調子に乗りそうなので、釘を刺しておく。
「シングル二つだ。他にもまた頼むと思うがまずはその二つを。ただ――」
ラルクが、金がないことを伝えようとするも、
「えー、ダブルでいいじゃないか」
「えー、ダブルでいいですよねえ」
ダリウスとディアが二人して口を尖らせるので、ラルクが視線に圧を込める。
「
「相変わらず堅物だな……そんなんじゃ可愛い嫁が泣くぞ」
「いや、違う。彼女は……」
ラルクがどうディアについて説明したらいいか迷う。
当然、ディアの正体が竜だとは言えない。
この村は竜界と隣り合わせのため、村人達は竜の怖さをよく知っている。ディアのせいで村に騒ぎを起こすのは望むところではなかった。
しかしダリウスは肩をすくめると、ラルクへと言葉を投げた。
「色々事情があるみたいだが、とりあえずベッド二つを特急で作ってやる。引越祝いだ。格安にしてやろう」
ダリウスがそう言うと、ラルクとディアが気まずそうに顔を合わせた。
「その件だが、実は――」
そうしてラルクが詳細を省いて金がないことを告げると、ダリウスが腹を抱えて笑い出す。
「あはは! お前は相変わらずだな! 昔からこいつは真面目なくせに、たまに抜けてるとこがあるんだよ、ディアちゃん」
「あ、いや、でもあたしが悪くて……」
そうディアが言うも、ラルクが無言で首を横に振る。
そんな二人の様子を見て、ダリウスが仕方ないとばかりに口を開いた。
「ま、こっちも商売なんで、全部タダで作ってやるというわけにはいかないが……頼みを聞いてくれたら、特別にベッドと家具一式プレゼントしてやるよ」
「いいのか?」
「頼みを聞いてくれたらな」
それを聞いて、ディアが今度こそと張り切りだす。
「その頼みってなんですか!? あたし、頑張ります!」
それを見たダリウスが頷き、口を開いた。
「東の大森林で、竜尖樹の木材を取ってきて欲しい。最近木こり達が、強い魔物が出たからと言って行きたがらなくて、不便してんだよ。ま、ラルクなら大丈夫だろ。その木材の余りで、家具を作るつもりだ」
「木材か……なるほど。分かった、すぐに向かう」
こうしてラルクとディアは、東の大森林へと出掛けることとなった。
*あとがきのスペース*
<クエスト発生> 【木材を採取せよ!】
ラルク&ディア「楽勝やな。採取装備でいこ」
????「こんにちは! 〇ね!」
みたいなクエスト、嫌いじゃないです(モンハンX感)
少しでも面白い! 続きが読みたい! という方は是非フォローおよびレビューをお願いいたします!
執筆モチベーションにも繋がりますので、何卒。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます