第3話:家の掃除も修繕もお任せください!


 ディアと暮らすということで、ラルクはまずこのボロ家を何とかしないといけないな、と考えていた。


 扉はがたついているし、壁は隙間風が入ってくるほどにボロボロだった。


 家具類は一応残っているものの、十年以上放置されていたせいか、どれも朽ちかけている。


「いやあ、ボロいですね! あ、趣きがあるって表現した方がいいです?」

「そういう気は使わなくていい」

「はーい。でも、流石にちょっとこれは使えなさそうですねえ」


 座ったら間違いなく壊れそうなほどに朽ちた椅子を、ディアがツンツンと指で突いた。

 

「まずは片付けだな」


 ラルクがそう言うと、ディアが目を輝かせた。


「あたしの出番ですね!? 任せてください!」

「とりあえず使えそうなものがあれば残して、あとは処分するから外に運ぼう」

「了解です!」


 それからラルクとディアが手分けして家具類を家の外へと運んでいった。家の裏にはそれなりに広い荒れ地があり、一旦そこに処分する家具を集めていく。


 結果として――


「家の中が空っぽになりましたね」

「買い直すしかない」


 ディアが言うように、使えそうな家具は一切なかった。おかげで家の中は、ラルクが持ってきた荷物を除いて、何も残らなかった。


「結構お金掛かりそうですね」

「こうなることは想定済みで、金はある程度持ってきた」


 ラルクが心配するなとばかりに頷く。大した金額ではないが、まあ田舎の村で生活をはじめるには十分な金貨を持ってきている。


 元々彼は、一人では使い切れないほどの財産があった。しかし、これからの生活には必要ないと、そのほとんどを孤児達の世話をする救護院や病院などに寄付にしていた。


「お金あるなら大丈夫そうですね」

「次は掃除だな」

「……! ふふふ……」


 なぜか不敵な笑みをディアが浮かべた。


「ついに、あたしの力を発揮する時が来たようですね!」

「力?」

「あたしがやります! お任せあれ!」


 そう張り切るディアに、ラルクが一抹の不安を抱きながらも任せると――


「まずは水洗い! とりゃああああ!」


 ディアから魔力が溢れ、魔法が発動。発生した水流が猛烈な勢いで家の中を巡っていく。


「次は乾燥! 風と炎で熱風を作って~」


 まるで砂漠に吹くような熱のある乾いた風が吹き荒れ、家を中から乾燥。


「ちょっと焦げたところは樹木魔法で直して……あ、そうだ! ついでに修繕もしちゃいましょう!」


 再びディアから尋常ではない量の魔力が溢れ出る。それによって周囲の地面から木やツタが次々と生えていき、隙間風が吹き込んでくるほどにボロボロだった外壁と同化していく。


「どうです!? なんかエルフにお勧めできそうな物件になりましたよね!?」


 変わり果てた姿となった家を見て、ディアが満足そうに頷いた。


「……」


 ラルクが絶句してしまうのも無理はない。


 なぜなら、そこにあったのはあの朽ちたボロ屋ではなく――大樹と一体化したような立派な家だったからだ。

 一階部分にある優雅な曲線を描く扉にはツタがまるで紋様のように張っていて、確かにエルフ達が好みそうな外観だ。


「ついでに二階部分も作っておきました! ほら、これから二人暮らしですし……家族も増えるかもだし……えへへ、やだなあ、もう!」


 顔を真っ赤になって、バシバシとラルクの背中を叩くディア。


 それは普通の男ならば骨折するほどの力が込められているが、流石は元Sランク冒険者。平気そうな様子で、ラルクは家を見上げていた。


「信じられん」


 それはたった五分の出来事だった。その規格外な掃除と、修繕のやり方に……ラルクは唖然とするしかなかった。


「あ、家の中にあったは、どうします?」

「とりあえずさっきの家具とひとまとめにしようか」


 そうしてディアが水流で集めたゴミと先ほど運んだ家具の山を見て、ラルクが背負っていた大斧を構えた。


「とりあえず処分するか」


 細かく割って埋めるなり燃やすなりしようと思っていたラルクを、ディアがその腕を掴んで止めた。


「私がやりますよ!」

「できるのか?」

「もちろんです!」


 ディアが得意気な顔で右手を掲げると、これまでとは全く異なる性質の魔力が集まってくる。

 百戦錬磨のラルクですら、思わず一歩下がってしまうほどの魔力。

 全身の肌が悪寒で粟立つ。


「ほいっと」


 しかしディアは当たり前とばかりにその魔力をゴミの山に放つと、それは黒い渦となりゴミの山を衝撃音と共にしていく。


「それはまさか……を操っているのか」


 信じられないとばかりに、ラルクが目を見開いた。


 竜は、その鱗の色で使える属性魔法が決まっている。例えば青色の鱗を持つブルードラゴンは雷や風、赤色の鱗を持つレッドドラゴンは炎や大地、などといった具合にだ。


 しかし――中にはそのどれにも属さない禁忌魔法と呼ばれる魔法を操る竜がいるという。そういった竜は鱗の色に関係なく、ダークドラゴンと呼ばれていた。


 重力魔法はエルフでも使える者がいない、稀少かつ難易度の高い魔法であり、当然禁忌魔法に含まれている。


 ならばそれを扱えるディアは――ダークドラゴンということになる。


「そういえば、ダークドラゴンだと言っていたな」

「信じてなかったんですか!? 竜の中でも重力魔法を使えるのはあたしとあたしの兄ぐらいですよ!?」

「いや、すまん」


 頬を膨らませて拗ねているディアの手の平の上には、圧縮されて球状に小さく固まったゴミが乗っていた。

 彼女がそれに炎の息を吹き掛けるとあっけなく消し炭となって、風と共に飛ばされていく。


「ゴミ処理完了っと」

「うーむ……」


 ラルクは思わず唸ってしまう。あれほどの量のゴミとなると、処理をするのも一苦労だ。だがディアがいれば、それはものの一分で終わってしまう。


 竜の規格外な力は確かに危険というか、大雑把なところはあるが、上手く使うことができればかなり便利かもしれない。


 そうラルクは――


「これで完璧ですね! 家の中もピカピカですよ!」


 中は確認すると確かに綺麗になっており、汚れ一つない。

 ただ、汚れどころか――中には何一つ残ってなかった。


「……俺の荷物がない」

「へ?」

「中に置いていた俺の荷物が……」


 そこでラルクとディアはようやく気付いたのだった。


 さきほど、ディアが〝細かいゴミ〟だと言っていたものに――ラルクの荷物が含まれていたことに。


 当然そこには、ラルクの全財産が入っていた。


「ああ……ああああああああ!」


 ディアの悲痛な叫びが響き渡り、ラルクが膝から地面へと崩れ落ちた。


「金貨が……」

 

 ラルクの全財産は――ディアによって圧縮、焼却されていた。


 こうして……ラルクとディアは新居を手に入れたものの、資金ゼロでのスタートを余儀なくされたのであった。


 二人による自給自足の生活がはじまる。





*あとがきのスペース*

ラルク「まさか自分の荷物までゴミ扱いされてるって思わへんやんか」


今話の補足。

ディアは種族的に言うと、黒い鱗を持つブラックドラゴンで、金属系の魔法しか扱えない竜です。おや? と思った方は正解です。


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執筆モチベーションにも繋がりますので、何卒。

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