次のステージ

 その後、少し所要が有るとのことで席を外した少女の居ない内に、俺は改めて『賢者の手記』の自分のページを見直していたのだが……


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名前:

種族:キャタピルスケイラ

Lv:20/20


HP:423/423

MP:124/124



恒常スキル

 【ロケット:Lv5】【糸を吐く:Lv2】【大顎:Lv1】【虫食い:Lv1】【フレム:Lv1】


固有スキル


称号スキル

 【賢者の残滓:LvMAX】【人類の友愛者:Lvー】


耐性

 【毒耐性:Lv4】【火炎耐性:Lv-2】【物理耐性:Lv3】【身体装甲Lv:ー】

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 うわっ、なんかスゴいことになってる。

 HPどんだけ上がってんだ、これ。

 反対にMPの伸びは悪いが……まぁ、元々耐久が売りらしい種族だからな。

 それにMPの捌け口なんてそこまで無い……と思ったけどフレムが有ったか。

 だが……


「いやー、しかしホント謎だよなぁ、このスキル。

 あのタイミングで取得出来たのは偶然か……はたまた何かしらの条件をあの瞬間に踏んだか……」


 ……それに謎って意味では狼にトドメを刺したあの女声も大概だ。

 もし俺があの時気絶してなかったらもう少し何か分かったのかも知れないが……ま、気にしてもしょうがないか。

 事実として俺は結局気絶した訳だし。


 と言うわけで。

 さ、切り替えてスキルでも見ていこうとか思った訳だが……そういや、これ前から見てないよな。


 パラリ


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【身体装甲:Lv―】

自身への物理的ダメージをある程度軽減する

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 ほぉー、シンプルながらも強力な効果だ。

 ある程度ってのがどのくらいのもんか分かりかねるのが惜しまれるが、相性に寄っちゃ大分有利に立ち回れるんじゃ無かろうか。

 ……実は狼戦で生き残れたのもこれのお陰だったりして。


 んじゃ次は……ってか残りこれしか無いのか。

 どちらにせよかなり面白そうなこれで。


 パラリ


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【人類の友愛者:Lvー】

 悪意有る者として産み落とされた物ながら、混沌へと歩みを進めた者への称号。

 これは同類への裏切りであり、ありとあらゆる生命への侮辱である。


 この称号の持ち主はその姿を混沌種へと変貌させる権限を得る。

 この権限の使用にMPは消費しない。


 この時得た姿で活動する場合、HPMP以外の過去のステータスを参照せず、その姿の元となった混沌種のステータスが参照される。

――――――――――――――――――――――――


「……うわぁお」


 正直……それしか言葉が出てこなかった。

 だって見ろよ前半。

 絶対踏み出しちゃいけない一歩踏み出しちゃった感じじゃねぇか。

 まぁ、それが少女を助けることだとしたら、それについてはあまり後悔してなかったりするのだが……


 結局の所、気付けば俺が人間になってたのはこの称号のお陰ってことだ。

 この説明だと混沌種ってのが人間なんだろうが……なんで混沌?

 『悪意有る物』が所謂魔物だとしたら判断基準は……善悪ってことになるのか?

 だったらある程度納得も行く。

 人間程善悪も、感情もめんどくさい生物なんてそうは居るまい。

 後は……最後の「HPMP以外を参照」ってのと、「元になった」ってのが気になるが……後半は文字通りか。

 この姿はこの世界のどこかに存在する人間の姿をコピーしたものなのだろう。

 もし鉢合わせたら……「世界には三人似た人が居る」で、なんとかなるかなぁ。


 さて、後は前半だが……これだと俺が見えていないだけで他のステータスが存在していると言っているのも同然だ。

 なら当然、次に気になるのは何故手記に記載が無いのか、だ。

 可能性を考えるとすれば……俺の今使っているこの権限。『賢者の手記』はあくまで賢者の『手記』だってことだ。

 つまり何が言いたいかと言うと、その賢者が何らかの理由でHPMP以外に興味が無かったって可能性は無かろうか。

 それで賢者は手記にステータスを示さなかった……と。

 ……そうなると俺が今見ているのは、「賢者」の書いた物をMPを対価に見ているってことになるのか?

 それだと俺のステータスがリアルタイムで更新されてるのはおかしい訳だが……ま、考えても仕方あるまい。


 とまぁ、そんな感じに以上が、今のステータスだったわけだが……


「結局一番気になるのはこっちなんだよなぁ」


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ハードキャタピラ  ランクD


キャタピルバレッタ ランクC-


キャピタルマジッカ ランクE+


レッダーキュレイタ  ランクB-

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 そう、無論進化である。

 今の今まで気付かなかったが、どうやら狼を倒した(?)経験値でレベルが上がっていたらしい。

 ……まぁ、そりゃそうか。

 あんだけ苦戦すりゃあね。


 さ、切り替えて早速見ていきたいんだが、今回は先に進化先を決める指標を定めておこう。

 なんせ、初めて他人と共に暮らすのだ。

 前有った毒虫なんてもっての他。

 狂暴性もなく、自分の意志と関係無しに害する可能性が皆無な物へと進化したい。

 と言うわけで……だ。

 今回俺が目指すのは、攻撃手段を持ちつつ、庇うためのある程度の固さや、速度を持った魔物だ。


 仮に多少目を瞑るとすれば……固さか。

 多少柔らかいといっても、今のままで安物の刃程度なら防ぐらしいこの身体だ。

 進化して今よりステータスが落ちることはないだろう。


 それを踏まえて……頼んだ、手記さん


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ハードキャタピラ

 キャタピルスケイラの通常進化。

 より固く、より打たれ強くなり、その体表の外骨格は、微弱だが魔法の力を散らすようになった。

 基本温厚で天敵も少ないが、一度怒れば、自ら鎧を弾きとばし、凄まじい力で暴れだす。

――――――――――――――――――――――――


 ほぉー、これは中々……

 魔法を散らす、か。

 今まで居なかったが、魔法を使って来る奴なんて何時出会ってもおかしくなかったからな。

 その対策が出来ると言うだけで、これへの進化は考えて良いのかもしれない。

 しかも緊急時に備えて防御と引き換えに攻撃力も上げられるおまけ付き。

 かなり使い勝手が良さそうじゃないか。

 初手から中々良い出だしだぞ。


 よーし、んじゃ、この流れで次!


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キャタピルバレッタ

 キャタピルスケイラの変異進化。

 キャタピルスケイラの中でも、より攻撃に特化した者がこの進化を辿る。

 胴体の外骨格は軽量化と、風の抵抗を減らす為に少し薄くなったが、その分顔の先端の装甲は厚く、鋭く。

 要するに、抉り、貫くための銃弾の様なフォルムを手に入れた。

 その身体から放たれるロケットの威力は薄い鉄板ですら軽く貫く。

――――――――――――――――――――――――


 ほぉー!これまた中々……

 多少人間の脅威にはなり得るが……俺にはもう協力者が居るのだ。

 もうそこら辺に気を使うことは有るまい。

 少し、防御が下がるみたいだが、それは事前に確認した通り、十分許容範囲だ。


 だが、さっきから気になっていたのだが、「通常進化」だの「変異進化」とか言うのは一体何なのだろう。

 多分読んで字のごとくとは思うんだが……一応調べるに越したことはないか。

 じゃ、たのんます。


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通常進化

 その一つ前の進化形態の正当な進化。

 単純にその特徴が大きく引き伸ばされるが、大きな変化は現れない。


変異進化

 その一つ前の進化形態を活かし、何かに特化した進化。

 その特化した部分が大きく伸びるが、元々伸びる筈だったステータスがむしろ下がることもある。

 姿や生態も大きく変化するため、新たなスキル等が手に入ることが多い。

――――――――――――――――――――――――


 ほぉー!なるほど、個人的には変異進化の方がワクワクするんだが……要するに、安定の通常進化、特化の変異進化って感じか。

 今後も出てくるだろうし、しっかり覚えておくとしよう。


 と言うわけで次……だが……


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キャピタルマジッカ

 魔法の力に目覚めた芋虫。

 下級では有るものの、4属性の魔法を操る。

 同ランク帯では、一歩の接近すら許すこと無く外的を葬り去ることが可能。

――――――――――――――――――――――――


 うーん、やっぱりか。

 ランクと名前を見た時点で察したがこれ……退化してないか?

 俺が通ったキャタピルスケイラと同じ第一進化の系列で有りそうな印象だ。

 だがそれが何故今更……?


 少し、考えてみよう。

 仮にこれが第一進化と同じ進化だった場合……少なくとも芋虫の進化は、まず第一進化で指標を定める。

 それからその指標に沿って特徴が強化されるって感じなのだろう。だが、その理論に依るとやはりこの進化先はいささかおかしい様に思う。

 ならば、これは進化ルートのリセット。

 やり直しと言うことなのでは無かろうか。

 それならある程度納得は行くが……生物の身体がこんなに自由が効いて良いものか。

 ただ、今は不便さも覚えてない上、やり直すメリットも今の所そんなに無いため、これは正直無しかもな。


 んじゃ……既にイヤな予感はしているが最後。


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レッダーキュレイタ

 生物の返り血を浴び続け、その身を深紅に染めたバーミキュレイト。

 細長い身体はより固く成長し、凄まじい速度で地中を掘り進む為の器官を手に入れた。

 一度狙われれば、掘れない足場の有る足場に逃げることしか逃げ道は無い。

――――――――――――――――――――――――


 うっわ……

 殺傷性能伸びてるじゃん……

 誰だよコイツに土に潜らせる器官を与えた奴。

 うん、案の定無しだわ。

 バーミキュレイト系は……何と言うかその生態を除いてもなんか選びたく無いんだよな。

 不気味と言うか悪寒がすると言うか……


 ……ま、バーミキュレイトは論外にしても以上四種。

 かなり面白くなって来てるな。

 これは今選んでも良いが……一応少女に確認を取った方が良いだろう。

 うん、それまでゆっくりするとしよう。


 そうベッドに寝転びながらそんなことを考えたのだが……あれ?


 俺、目覚めてから一回でもあの娘の名前聞いたっけ?

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