衝狼戦
さてさてさーて……
いやー、こっからどーしたもんかねぇ。
狼から放たれる濃厚な殺意を受けつつ俺は考える。
本来なら不意を突いて目玉だけでも潰せねぇかなぁ、とか考えていただけに、ここで万全の奴のヘイトが俺に向いているのは非常にマズイ。
なんせこの体格差だ。
下手に当たりゃ……いや、多分下手しなくてもワンパンで逝けるだろう。
だからこそ少しでも感覚器官を潰すことで奴の命中率を可能な限り下げたかったのだが……
「グルルルルル」
ここまで警戒されちゃあそれも難しいよなぁ。
一撃で沈むであろう貧弱者としてはなんとか隙を見て再び姿を眩ましたいのだが……うわっと!!
お手でもするように繰り出された素早い前足を奴の股下に潜り込むことでなんとか回避する。
隙なんかどこに有るんだよ……
そう、コイツ。
余程知能が高いのか、はたまた野生の勘なのか、異様に警戒心が強いのである。
さっきだって突撃しようと身体を縮めた瞬間に大きく横っ飛びして避けようとしやがるし、今この瞬間にしたってそうだ。
避けられたと見るや否や、着いた前足を素早く引っ込め距離を取る。
ロクな隙すらありゃしない。
ただ……隙の作り方自体は分かる。
俺が思うに、隙ってのは理解の範疇を越えた瞬間に生じる状況整理の為の一瞬だ。
他だと身体の不調による隙なんかも有るのだろうが、今回はあまり時間を掛けていられない……ってか掛けたくないのでこの隙は狙わない。
狙うは前者だ。
このくらいなら手札の乏しい今の俺にも演出出来る……と思う。
ま、結局の所、悩んでても仕方ないし……な!!
先ずは一跳び。
MPを3込めて奴の右へ跳んだ。
すかさず飛び上がってこちらに向き直ろうとする狼。
その鼻っ面がこちらへ向くより速く、俺は奴の股下を通って反対側へと跳んだ。
即座に振り向けば、狼は俺を視認出来ていなかったらしく、奴は辺りをキョロキョロと見回していた。
よっしゃ!!狙いどおり!!
俺はMP10注ぎ込んで、背後から奴の前足へと大突貫を仕掛けた。
「ギャン!!」
辺りに悲鳴が響く。
見れば、奴の右前足はあらぬ方向に曲がり、白い骨を剥き出しにしていた。
うわぁ……これは……
狙ってやったっちゃやったんだけど……惨いな……これ。
そう思って一時手を止めてしまった時のことだった。
イィィィィィ
突如そんな音が鳴り響いたのだ。
?なんだこの音……ってこれあれか!
少女の魔法を打ち消した奴だ。
なんで今それ……が……ッ!!!!
その可能性に思い至った瞬間、突如として俺の全身が引き千切れんばかりの衝撃を受けた。
思わず意識が飛びそうになる中、俺は悪態をつきながら思い至った可能性を口にした。
クソッタレ!!
なんで最初から気付かなかったんだ!!
これが【単振】かよ!!
クソッ!どう考えたら自然に起きた音だとか考えんだよ俺のアホ!!
タイミングから結果まで奴にとって得しかねぇじゃねぇか!!
まさか破裂だけじゃなく魔法を乱すことが出来るなんて思いもしなかったが……あれはスキルで有ると同時に体内構造でもあるって話だ。
それなら多少の応用が利くことくらい容易に想像できても良かった筈なのに……
……いや、いつまでも過去の自分を責めても仕方ない。
なんとか立て直したいが……ってあれ?
思わず身体を動かす。
そういや俺、生きてるな。
欠損も無いみたいだし……
なんでだ?
そう疑問符を浮かべつつ俺は手記を捲った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
HP :103/152
MP :80/95
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……あれぇ?
結構余裕有るぞぉ?
……なんで?
イィィィィィ
ほわっ!?
再び鳴り響いたその音に我にかえって、必死にその場から離れる。
一撃で死ななかったと言うだけで何度も食らえる程の余裕は無いからな。
それに……だ。
俺は改めて奴の顔を見る。
そこには折れた足を庇いながらも射殺さんばかりの視線を俺へと注ぐ狼。
……どうやらこっからは奴も本気らしい。
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