あっけない幕切れ
それから少しして。
俺は頭を抱えていた。
その理由は勿論……
イィィィィィ
ドォン
この爆発に他ならない。
……と言うのも、俺が奴の足をへし折った後のことだった。
奴は攻撃を遠隔主体に切り替え、攻撃の手を一層強めてきたのだ。
いやまぁ、そりゃそうだろうけど。
なんせ文字通りに足が潰れたのだ。
そんな身体で下手に動けば自らの隙を晒すことに直結しかねない。
それを狼も理解しているからこそ、じっとしたまま、例の音で爆破を仕掛けてくるのだ。
……とは言ってみたのだが、結果から言ってしまえば、それはなんら俺の脅威には成り得なかった。
……いや、確かに最初こそ危なげなかったが、慣れてさえしまえば割りとどうにかなるものだし、こうも連発されると嫌でもその隙や弱点は見えて来る。
例えば今回のスキル【単振】の場合、それは発生から爆発までの時間と、その予兆に有る。
先ず爆発の時間についてだが、どうやらこのスキル。
使用から爆破までに意外と時間を要する物らしい。
加えて、一度発動してしまえば途中での爆破位置の変更なども出来ないらしく、一度避けてしまえばなんら脅威には成り得ないのだった。
次にその予兆について。
音に関しては言うまでも無いだろうが、実はもう一つ致命的な程に分かりやすい予兆が有ったのだ。
それが攻撃範囲内での微細な振動である。
最初こそ、焦りが先走って気付けなかったが、余裕が出てくると、爆破の範囲内は、ビリビリと微かに振動が伝わってくることに気が付いたのだ。
しかも爆発間際になるほどその振動は強くなるおまけ付き。
それにさえ気付いてしまえば最早イージーモード。
この勝負は勝ったも同然……
とか考えてたんだけどなぁ。
そう思いつつ奴との距離を跳んで縮めた。
それと同時に感じる振動。
それは奴に近付く程大きくなっていき……
チッ……やっぱ厳しいよなぁ。
そう判断すると同時に地を尻で弾いて大きく右へ進路をずらした。
その直後……
ドォン
爆発音。
その爆風を背に受けつつ、俺は急ブレーキして奴へと向き直った。
そこにはしたり顔の様に顔を歪めた狼。
……まぁ、俺がそう見えるだけで、さっきとなんら変わってないと言われてしまえばそれまでなのだが。
まぁ、それはそれとして。
これが俺が頭を抱える羽目になった原因である。
……もっと具体的に言えばこの防御性能。
狼の周囲に近付くと反応する単振による爆発だ。
自立式だか能動式だか知らねぇがタイミングが良すぎてやりにくいったらありゃしない。
コレのせいで奴に近付いて攻撃をする前に撤退せざるを得なくなってしまうのだ。
最初は爆風の中を突っ切ってでも攻撃してやろうとか考えていたんだが、この爆風と衝撃だとロケットの加速も殺されて俺の一方的な食らい損になり兼ねない。
そんな訳で安定策を取った結果がこの泥仕合なのだった。
下手に油断さえしなけりゃ死ぬことは無いとは思うんだが、如何せんこちらも決定打に欠けるのが現状だ。
こんなときに遠距離スキルの一つでも有れば話は別なんだがなぁ……
【恒常スキル フレム:Lv1を入手しました】
【恒常スキル ロケットはLv3~Lv5へ変化しました】
…………………ん?
は?え?ちょっと待てよ。
何だこのタイミング。
ロケットはともかくこの【フレム】……
まさか俺が「欲しい」って思ったからってことなのか?
ということはこのスキル……
――――――――――――――――――――――――
【フレム:Lv1】
炎を産みだし、操るスキル。
産み出す量によって消費MPは変動し、操作するのにもMPは必要となる。
このスキルで産み出す炎には、最大量が有り、それを越えるにはより上位のスキルが必要。
加えて、Lvによってその火力は変動する。
――――――――――――――――――――――――
ハイ念願の遠隔攻撃キマシタワー
やった!これで勝つる!
勝った!勝った!夕飯はドン勝だ!!
……なーんて、これだけで調子に乗る程俺も馬鹿じゃない。
少女の魔法が目の前で打ち消されてたことくらい、未だ記憶に新しいのだ。
同じ轍を踏まない為にもこれは奴の気を逸らしてから使うとしよう。
……いや、なんなら逆に奴の気を逸らす為にこれを切っても良いのかもしれない。
確か、アイツの耐性には……有った。
俺が捲った手記には【炎耐性:Lv-3】の文字。
そりゃ少女の魔法も消す訳だ。
炎に対しては他より一層警戒しているのだろう。
これならば囮としてもこれ以上無い働きが期待できそうだ。
それにしてもなんでいきなりこんなスキルが……
イィィィィィィ
ってのは後回しか!……っと
ドォン
爆破を避け、素早く向き直る。
確かに気になることには気になるが、今ばっかりはこっち優先だ。
んなモン、コイツさえ殺せれば幾らでも考えられる。
とは言え……
「グルルルルル」
未だ殺しまでの目処が立っていないのもまた事実なのだが……
うーん、どーすっかな。
さっきみたく股抜けでもできたら隙を突けそうでは有るんだが……
今のアイツ腹這いだからなぁ……抜ける隙間すらありゃしないのが現状だ。
飛び越せればワンチャン有るかもしれないが……実は俺のロケット。
身体を縮めた反動で真っ直ぐに飛ぶという性質上、上方向には飛びにくいという難点が有るのだ。
事前に身体を斜めに固定できる小さな坂でも用意出来れば話は変わってくるのだが……少なくともこの辺りには見当たらない。
……もしかしなくても現状割りと詰んでるのか?
そんなことを考えていた時だった。
パシャ
突然、脳内に幾つかの情景が浮かんだ。
狼に近づき、防御用の単振を発動させる俺。
どこからか飛んでくる火球。
火を消そうともがく狼にロケットでぶつかる俺。
……?
何だこれ。
一体どーなってんだ?
もしかして神の啓示的な何か?
……んな、いつも覗かれてる様な気味わりぃスキルねぇよな。
そう思い手記を捲るがそこに有るのはおおよそ見覚えの有るステータス。
先ほど増えたフレムとロケットのレベル以外に変化は無いようだった。
……うん、そんな奴は無いっぽいな。
それに関しちゃ一先ず安心だが、だったらこれは……まぁ、良いか。
とりあえずやってみよう。
やってみて火球が飛んでくればヨシ!
飛んでこなけりゃ今しがた思い付いた若干捨て身気味の作戦でも決行するとしよう。
人間なるようにしかならねぇ……ってな!
俺は身体を縮め、狼の元へ跳んだ。
再び感じるピリピリとした振動。
それは奴に近づく程大きくなり……
ここらが潮時か。
再び尻で進路を大きくズラした。
その直後感じる爆風。
そこで急ブレーキを掛けようとして、ふと気付いた。
……あ?この振動……まさか!?
ィィィ
ドォン
直後に感じる意識の糸すら弾け飛びそうになる程の衝撃。
俺はそのか細い糸を必死に掴みながら反省した。
クッソ!やられた!
一度見せた回避ルートを辿ったせいで先置きされたんだ!
多重に発動出来ることにも驚きだが、正直コイツにそこまでの脳は無いと侮っていた。
なんで僕はいつも、こう……クソッ!
……いや、落ち着け。
とりあえず立て直そう。
残りは……
HP49/152
後一発……か。
……いや!悲観することはない。
なんとか立て直して逃げられれば……そうか。
なに考えてんだ俺は。
何も戦う必要すら無いんだ。
元々俺が飛び出してきたのはあの少女を救うため。
気付けば居なくなっていたところを見る限り、ちゃんと逃げられたのだろう。
それならば俺がここに居る理由も最早見つからない。
さっさとこんな場を逃げ出して……
イィィィィィィ
ッ!クソッ!
最早聞きなれたその音にその場を離れようとした瞬間、俺はとある音を聞いた。
それは……
イィィィィィィ
イィィィィィィ イィィィィィィ イィィィィィィ
イィィィィィィ イィィィィィィ
イィィィィィィ イィィィィィィ イィィィィィィ
幾重にも鳴り響く破滅の音と……自らの心が折れさる音だった。
あ……え?
視界が霞む、体が震える。
未だかつて無い破壊の規模に心までもが凍りつく。
あぁ、逃げられないな、これは。
そんな中でも俺の脳は揺るぎ無い一つの答えを出した。
爆破の予兆だけでこの振動だ。
本格的に振動を始めてしまえばこの形を維持することすら難しくなるのでは無かろうか。
それをどこか落ち着いた心境でこの景色を眺める僕が居た。
それに何故か安堵すると同時に恐怖する。
何故こんなに心穏やかなのだろうと。
一段と振動が強くなる。
あぁ、そうか。
全身の細胞がシェイクされる中、僕はやっと一つの結論に至った。
これで僕も還れるんだ。
「ざんねーん、もちっと頑張って貰おうか」
それを打ち消す様な陽気な女の声が聞こえた次の瞬間。
ボッ
そんな音を立てて飛来した何かが狼の頭部を丸ごと消し飛ばした。
それと同時に鳴り響いていた死の輪唱が途絶える。
それから咄嗟に身体を声の方へ向けようとしたのだが……
……あれ?動かない?
動こうとしても体が縮まないのだ。
一体どうして……
そんなことを考えていると再び声が飛んだ。
「そりゃ下半身が潰れたらねぇ。動ける筈もないでしょ」
……え?
思わず身体を震わす。
……ホントだ。
言われてみたら感覚すらない。
うわー……これからどうしたら……
「あー、身体に関しては心配ないよ」
と、女の声。
「私が直しておくからさ。だからほら。今はゆっくりお眠り、お坊ちゃん」
その声を最後に俺の意識はそこで途絶えた。
【462の経験値を得ました】
【スケイルキャタピラのレベルが5~20へ上昇しました】
【それに伴い進化が可能になります】
【称号スキル 人類の友愛者:Lv―を入手しました】
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