寧々とSaya(4)
「面白かったー・・・
ラストのシーン、ちょっと感動しちゃったー・・・・・」
「寧々ちゃん、一度も付き合ったことないのに?」
「うぅぅ・・・・・それを言わないでくれ。」
ゴールデンウィークなだけあって、映画館の席を取るのに苦労した。
高校2年生のゴールデンウィーク、去年とは違って、みんな色んな場所で遊んでいるのが、SNSの投稿で分かる。
クラスメイトの3分の1くらいは、彼氏・彼女をつくって、ゴールデンウィークを機にデートを楽しんでいるみたい。
私はというと、『彼氏がいない仲間』の友人と一緒に映画館。別に寂しくはないけど、上映中にイチャイチャするカップルには、正直イライラした。
「寧々ちゃん、明日はお家で仕事?」
「そうなんだよねー
まぁ、家で勉強するよりは、働いてた方がマシなんだけど。」
「偉いなぁー・・・
あ、あそこのカフェ空いてる!」
映画に夢中になっている間に、手に持っていたポップコーンは全部空っぽ、飲み物も空っぽ。
二人でLサイズを分け合って食べていたけど、かなりお腹にたまった気がする。
ポップコーンって、映画を見ているときに食べるとすごく美味しく感じるけど、味が濃いと口がかわきやすくなるんだよね・・・・・
でも、また飲み物を買いに行くことも難しい。せっかく映画を見てるのに、損した気分になる。
だから二人で、終盤辺りから『感動』と『喉のかわき』で、なんだかよく分かんないテンションになっていた。
いつもはエンドロールも見る私だけど、喉のかわきに耐えられなくなって、エンドロールの途中で撤退した。
そして、ようやく足を休められそうなカフェを見つけて、店員さんが持ってきたお冷をガブ飲み。
口のなかに、まだ『バター』と『お肉』の味が残っているけど。『期間限定のステーキ味ポップコーン!』という宣伝につられて買っちゃった。
美味しかったけど、映画を食べる時には向かないような気がする。やっぱり定番の『塩』が良かったかな・・・
あと、久しぶりの映画でテンションが上がって、調子に乗ってドリンクのLを注文した私も馬鹿だった。
「寧々ちゃん、何する?」
「うーん・・・そうだなぁ・・・」
カシャッ!
後ろの方で、カメラのシャッター音が聞こえ、私は思わず振り向いた。私の後ろは『一人用の席』
本を読んでいる人やノートパソコンと睨めっこしている人に挟まれて、『茶髪の男性』がスマホを振り回している。
男性が撮影しているものが、チラッとだが見えた。かなり大きな『パフェ』
バナナやリンゴが動物のかたちに切り取られ、クリームもカラフルで、食べるのを躊躇するレベルに積み上がっている。
それこそ、写真を撮ってSNSに投稿すれば、注目されること間違いなし。ただ、問題は投稿した後だ。私だったら、絶対食べきれない。
今もちょっと問題になっているけど、写真だけ撮影して料理を食べない人もいる。カフェを経営している親の娘として、そうゆう人はSNSを禁止するべきだと思う。
「___あぁ、最近は男性でも、ああやって写真を撮ってSNSに投稿するのも珍しく
ないからね。
寧々ちゃんはそうゆうの、やる方?」
「うーん・・・・・」
私は、つい友人の言葉を濁してしまった。SNSは今もやっているけど、まさか「『裏アカウント』が失敗してから、投稿はしていない」なんて言えない。
私と友人は、冷たい飲み物と『パンケーキ』を頼んだけど、友人は手をつける前に、スマホでパシャパシャと撮影していた。
友人は撮った写真を、「おばあちゃんにも送ってあげよー!」と、ニコニコしながら送信している。
私はというと、まだパンケーキの温もりが消えないうちに食べようと、迷わずナイフとフォークを手に取って、パンケーキに切れ込みを入れようとした・・・・・
「ねぇねぇ、そこの女の子。」
「___え???」
今度は後ろから『男性の声』が聞こえた。振り向くと、そこにいたのは、さっきまでパフェの撮影に熱心だった男性が立っている。
しかも、彼の後ろを見ると、ガラスカップの中身は、もう空っぽの状態。そして、男性の頬に付いている生クリーム。私は男性の食べる速さに、ちょっと引いた。
ちゃんと味わったのか怪しいレベルの速さ。私が『お店のまかない』を食べる時の速さと同じ。
私は一瞬、友人の方をチラッと向いた。何故か友人は、目をキラキラと輝かせている。___多分、『ナンパ』だと思ったのかも。
しかし、男性が発した言葉は、予想を大きく外れていた。
「君、SNSの使い方に困ってるの?」
「え? ど、どうして??」
「君たち二人の話を聞いていたら、ちょっと気になっただけだよ。
俺、一応『カウンセラー』の資格、持ってるからさ。」
私と友人は、口を開けたまま呆然としていた。派手なスイーツを撮影する人が取っている資格にしては、かなり真面目だったから。
___これが『キャップ』なのかもしれない。
「___ね、寧々ちゃん、どうする?」
困った顔をする友人が何を考えているのか、私は分かる。私も同じことを考えていたから。
リカさんと優華の問題
これは、二人だけの問題ではない、クラスの問題。教師にも相談できない、親にも相談できない。
___となれば、全く事情を知らない『第三者』からの助言を求めたほうがいいのかもしれない。
でも、私たち二人に、そんな勇気すらもなかった。友人の場合、急に話しかけられてパニックになっているだけみたいだけど、私の場合、一度そうゆう方法で失敗している。
第三者なら、気軽に相談に乗ってくれるけれど、必ずしも、そうゆう人間ばかりではない。
SNSを通じて、私たちはこの世界がどんなの恐ろしいかを、身をもって体験する。
おめでたいSNSの投稿に、場違いなヤジを飛ばす人もいる。犯罪行為を自慢する投稿を平然と行う人もいる。
真剣に悩んでいる相談を持ちかけているのに、悪ふざけな返信や関係ない返信ばかり。私たち子供も、『大人を選ぶ時代』になってしまった。
「___いいえ、何でもないです。」
「うーん・・・・・本当?」
「本当です!!」
つい声を荒げてしまった私を、カフェにいる人たちがジーッと見ている。私は口を手で塞ぎ、男性から目を背ける。
友人は周りの人に、頭をペコペコ下げながら謝ってくれた。そして、私の声はカフェで待機していた店員さんにも聞こえてしまったらしく、男性の店員がでてきた。
確かに、周りの人から見れば、突然男性に声をかけられた私たちが、困っている様子に見えているのかもしれない。
私に声をかけてきたカウンセラーの男性は、男性の店員さんが来る前に、店から出て行った。だが私と友人の心情は、『安心』と『後悔』の、二つの感情でいっぱい。
あの男性が本当にカウンセラーなのかも怪しいし、カウンセラーを偽って、私たちを騙そうとしていた可能性もある。
でも、もし彼が本物のカウンセラーだったとしたら、優華を助ける可能性を、私たちが潰してしまった事にもなる。
突然のことだったから、考える余裕がなかったのは仕方ないけど、こんな時にも罪悪感を感じる自分に、少し苛立ちを感じる。
___いや、もうとっくに、自分に対して苛立っている。
友人も同じ心情なのか、その後全然会話ができなかった。まだ夕方にもなっていなかったけど、私たちは家に帰ることに。
まだ時間にもお財布にも余裕はあったけど、遊びたい気持ちが根こそぎ無くなってしまった。帰る最中の電車の中で、私は友人に『謝罪のメッセージ』を送る。
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Nene
ごめんね、せっかく映画誘ってくれたのに
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丸の山
いいよいいよ、あんなトラブルが起きるとは思わなかったし
それにしても、あの男の人、本当になんだろうね?
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Nene
まぁ、ああゆう人に関わらない方がいいのは確かだと思うよ
うちのお店にも時々来るんだよね、『自称グルメ』とか『自称インスタグラマー』
とかそうゆう人の話を聞いても「あぁ、そうなんですか」しか言えないし
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丸の山
寧々ちゃん大人だねー・・・・・
あの男の人より大人かも
カウンセラーだとしても、普通あんな場所で、知らない人に声かけないでしょ
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確かに、友人の言うことも正しい。『仕事熱心』と考えれば納得できるけど・・・
優華の件で、『電話相談センター』という手も考えた私。でも、それすらできない。SNSの裏アカウントの件がトラウマになって、第三者を頼るのが怖くなってしまった。
(___ちょっと向こうで、時間潰せばよかったかな。
こんなに早く帰ってきたら、さすがにびっくりするよね・・・)
朝一番の上映を見に行って、スマホで時間を確認すると、まだ正午。まだ街で、友人とお昼ごはんを食べていたはず。
全部をあの男性のせいにする事はできないけど、私は気づいたら、またあの公園に来ていた。そこで、どう時間をつぶそうか考える。
地元に遊べる場所はほぼない、コンビニくらいしかない。別の駅で降りれば、まだ暇をつぶせる場所がいくつかあったんだけど、スマホの画面ばかり見て、そこまで気が回らなかった。
ゴールデンウィークの真っ最中という事もあって、公園で遊ぶ子供は、いつもより少ない気がする。
大型連休になれば、いろんな家庭で遠出を計画している。でも私の家では、『大型連休=かせぎ時』が基本。
それが当たり前だと、大型連休に出かける家が珍しく感じる。休日に家族一同でどこかに出かけるのも年に2・3回くらいの我が家。
だけど、その代わり働いた分のバイト代はちゃんと出るから、それであちこちに遊びに行っている。
高校を無事卒業できたら、『原付バイク』を買う予定。それで県外に行って、いずれは『車』か『本格的なバイク』で走り回ってみたい。
「でも車はなぁー・・・・・
買った後にあれこれお金がかかるみたいだから、バイクの方が無難・・・・・
_____ん??」
SNSでバイクの写真を眺め、ちょっと首を真上に伸ばした直後、視界のすみに、『見覚えのある姿』があった事に気づいた。優華が、ヨロヨロと道を歩いている。
その歩き方が、どうもおかしい。まるで『風に流される袋』みたいに、フラフラしている。
いつもと様子は違うけど、優華に間違いなかった。
(車通りが少ないとはいえ、あんなフラフラ歩いていたら、車にぶつかってもおかし
くない!!)
この前とは違って、バタバタと足音をたてて近づいたはずなのに、優華は全く気づいていない。明らかにおかしいと思った。
「ちょ、ちょっと優華!! 大丈夫な・・・・・」
「黙れ。」
「っ?!!」
せっかく優華の手を掴めたのに、私はまた自ら手を離してしまった。びっくりしすぎて、脳が強制的にシャットダウンしたような感覚。
それくらい衝撃的だった、優華の声が、ありえないくらい冷たかったから。話しかける事すらなくなった私でも、優華の声のトーンは、何となくだが知っている。
そんな彼女の口から出た言葉とは思えないくらい、冷たい声と、冷たい言葉。
「近づかないで!!」とか「もう関わらないで!!」と言われるのを覚悟していた私に、とんでもない大きな爆弾がぶつかってきたような気持ち。
優華が私の方を一瞬だけ振り向いたが、その時の顔と目は、優華のものではなかった。一瞬、「人違い?!」と思うほど、まったくの別人になっている。
でも、改めてその背中を見たけど、やっぱり優華に間違いない。私はこの異常事態に、自分自身を疑うしかなかった。
「_____私、今何を見たの???」
プップー!!!
路上で一人、ブツブツと呟く私。後ろから走ってきた車がクラクションを鳴らさなかったら、そのまま固まっていた。
クラクションの音で我にかえった私は、慌てて道のすみに逃げる。そのまま塀にタックルするように倒れこみ、私は数秒前をもう一度振り返る。
でも、やっぱりあれは『幻』でも『妄想』でもなかった。ほんの数秒だったけど、私は優華と言葉を交わした・・・というよりは、拒絶された。
前にも一度拒絶されたけど、今回はあの時のダメージをはるかに上回る。爆弾をくらった私の心身は、もうボロボロのズタズタ状態。
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