第3話 尻尾をつかむ
超大国アクティクス。とてつもなく大きな城塞都市。
王のいる城を中心に、要塞が並び、人の住む場所があり、さらにそれを囲う城壁と要塞がぐるりと囲っている。
超大国全ての人間が、そこで暮らす。
なので、大きさが桁違いだそうだ。山の上に立っているのではなく、山々の上に立っている。
だが問題は、食料や、城を維持する資源が足りなさすぎるということだ。
だから彼らは、物資の確保のために、魔法によって仮想空間を作り上げた。
その名は『ライフ』、彼らはそこから得た物資をアクティクスに持ち帰り、使う。
そして『ライフ』という仮想空間を作り上げる魔法使いを、ライフアーキテクト、という。
ライフアーキテクトの仕事は3つだ。空間を作り続けるもの、大地を作り続けるもの。その大地で鉱石や植物、生き物を生み出し続けるもの。
彼らは、いろんな世界を作っている。ただ草原が広がる世界もあれば、僕が見た、空に島が浮かぶ世界。マグマに囲まれた世界。海の中に、地上のあるような草や大木が育っている世界もあるらしい。
いくつも世界がある中で、レオナがどこにいるのかは、わからないそうだ。
僕はツルハシで鉱石を掘りつつ、横に座ってそれを選別しているズズに聞いた。
「でも、僕早く探しに行きたいんだけど。その世界に住む人に聞いたりしてさ、少しでも情報つかもうよ」
「うむ、そのためにおまえさんに鉱石を掘ってもらっとるんじゃ。実はな、ならず者のライフワーカーの手に渡っとるのかもしれんのじゃ」
「なんだよそれ? ライフワーカー?」
ツルハシを振るう手を止めて、彼を見る。
「ライフアーキテクトは、いわば世界を作り続けている魔法使いじゃ。ライフワーカーは、彼らの指示で『ライフ』の警備や管理を任された人々じゃ。どうもな、一部の悪いやつらは、闇オークションをやっとるようでな。そして1月後のオークションでは『女の人間』が出される、という噂が流れとるんじゃ」
「レ、レオナじゃないか!」
「うむ、そうだと思っとる。なにせ、人間がこの世界に入ってくることはほぼ無いからの」
「こうしちゃおれないよ、ど、どうしよう」僕はツルハシを持ってうろたえた。
だがズズは平然と、鉱石を小さなハンマーでたたいて細かくしている。そしてこう言った。
「だからおまえさんに鉱石を掘ってもらっとる。ステラに鉱石を食べさせて力をつけてもらうんじゃ。竜の魔力や口から出す炎は、鉱石をたくさん食べて出てくるものなんじゃ。そうして、ならず者たちと戦うんじゃ。今のわしらでは、そんな奴らに太刀打ちできん」
確かにそうだ。僕が今行ったところで、小学生の体ではなんともならない。
ズズも、おじいちゃんだし腰曲がってるからなぁ。
「よし、こんなものでいいじゃろ」ズズは、あいたたたと言って立ち上がった。
鉱石はバケツに山盛りに入っている。
「リオ、ステラのためにこれ置いてこい。で、また戻ってくるんじゃぞ」
「うへぇ、じゃあズズ、ここにゲート作ってもらってもいい?」
ズズはゲートを作り出していろんなとこに行ける。もちろん、僕の日常世界にも。
「ふふ、重いかい。しょうがないの」
両手でバケツの取っ手を持ちながら、なんとか運んできた。
あれ? ステラがいない? 誰かが入った跡もないし、うさぎの巣穴にでも入ったかな?
今日は日曜日なので、先生は基本的にいない。以前からリオと僕がうさぎのお世話係をしていて、ゲンゾー先生は水曜の夕方と、土曜の日中にしか飼育小屋に来ない。
まあ、また帰ってきた時にでも見にこよう。そう思って外からは見えない角度のとこに鉱石を置いておく。早くズズのとこいかなきゃ。
あの人ちょっと遅れるとすぐ怒るからな。
急ぎ足で巣穴の中のゲートをくぐった。
鉱石を掘っていたとこに出たが、ズズはいなかった。あれ? 畑にもいないし。自分の家にでも入ったかな?
そのズズの暮らしているとこは、湖のほとりにあった。湖から見て正面は崖があり、そこから滝が流れていて、川は湖につながっている。その川の両側は畑があり、右手には木立ちが続いている。
僕は以前から、畑でステラのための食べ物を確保していた。今は僕の膝くらいまで成長した。畑では実や穀物、芋などとっていた。畑の横の木箱の中には鳥がいて卵を収穫できた。
ただ、その鳥は体が黄色と赤の色をしていて、トサカの大きな鳥だった。なんともド派手なとりだ。
放課後や夜、休日にはそんなこんなで大変だったが、やはり赤ん坊の、まだヨタヨタ歩きの時から手で餌をあげていたら、流石に可愛らしく思える。
森の中のズズの家に行く。玄関を開けると足元にバケツがあり、その中には大量の肉があった。中でズズが大きな生き物を解体していた。
丸太で作られたその家は、入って左側の壁は崖と接していて、岩がむき出しになっている。何やらその岩には扉がついているが、中がどうなっているのかはわからない。ズズから、家の中に入っちゃいかん、と言われていたからだ。
「おう、それも持って行ってくれい」
こちらに気づいたズズが、汗をふきながら続けて僕に言う。「終わったら戻ってこいよ、わしの仕事に連れて行ってやる」と彼は言った。
「ズズって普段なんの仕事をしているの?」
「わしはな、行商をしているんじゃ。聞き込みもかねていくぞ」
行商という仕事がよくわからないけど、レオナのために聞き込みに行けるのは嬉しかった。今まで竜を育てる為に孵化の時も、食料をとってくる時も苦労していたけど、今までレオナのためだとあまり実感できなかったからだ
ようやく、レオナのために一歩近づける手応えを感じた。
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