第11話 最低


 この前、涼花の頭を撫でている現場をクラスメイトに見られたようで、俺達はカップル認定されていた。


 やばい。やっぱりこうなったか。


「もう…こういうの迷惑…」


 とか言いながら、口元はによによしてて嬉しそうな涼花。分かりやすく可愛くて困る。



 元々俺達が幼馴染みだということは知られていたし、事ある毎に俺の傍には涼花がいた。遅かれ早かれ、こうなることは分かりきってたはずなのに…


 俺の前世での後悔が、涼花に対して距離を取る事が出来なかった一番の理由だろう。



 物心つく前から隣にいて、いつも一緒だった彼女。そんな涼花と付き合うようになったのは、たぶん自然な流れだったと思う。


 それなのに、俺達は離れてしまった。


 高2の時、父さんが亡くなり、進学校に進んだはいいけど勉強についていけず、俺もそういう年頃だったとはいえ、彼女に辛く当たってしまったのは間違いない。

 気心知れた幼馴染みだからこそ、あの時の俺には、遠慮なんてものはなかったと思う。


 3年に上がってからは受験への不安、優秀な姉への劣等感。何もかも俺のせいなのに、全部涼花に当たって…


 同じように受験生で、悩める年頃だったはずなのに、それでも涼花は俺の隣にい続けてくれた。

 けど、それも限界がきたんだろう。だから別れを告げられたんだ。


 そう。何もかも、俺のせいなんだ…



「ねえ、どうする?」

「え?」

「みんな…あんなふうに言ってるけど…」


 今、こうして俺に、ちょっと照れくさそうに、でも、期待を込めた目で言う彼女に、


「…どうも出来ないよな…」

「もう!」


(ごめん…)




 大学に進んでから、俺は瑠美と出会い、そして付き合うようになっていた。


 実家に帰省した時、母さんに言われた。


『涼ちゃんね、この前ふらっとうちに来てね。急にどうしたのかと思ったら、あんたに会いたいって。謝りたいって。でも凌、瑠美ちゃんと付き合ってるでしょ?それ話したら泣き出しそうな顔で出て行っちゃって。あんなに可愛らしいのに、全く、これのどこがそんなにいいんだか』


 その後、結婚して子供が産まれてからも、実家に帰る度にそれとなく言われた。

 涼花は彼氏を作ることもなく、親からの見合い話も全て断り、独身を通している、と。




 この時代に戻ってきて、俺の目の前には、あの頃大好きだった幼馴染みがいる。

 俺との何気ない会話で楽しそうに笑ったり、時にはムスッと頬を膨らませたり、表情をコロコロと変え、その想いを全て俺に向けてくれている。

 そんな彼女を、何も悪くない彼女を、俺は傷付けるのか?


 涼香の笑顔を見ていると、近くで接する時間が増えれば増えるほどに、当時のことを思い出すのと同時に、どんどん辛くなる。


 あの頃の楽しかったことや、その後のファーストキスや初めての…

 そして、別れを告げられたあの日…


 朧げだった記憶も日増しに鮮明になり、今の状況と俺がこの時代でやろうとしたこと、それがどれもこれもちぐはぐで、本当にどうすればいいのかが分からない。



 適当な返事で時間稼ぎして、卑怯なのは自分が一番分かってる。


 どうせなら、涼花と会わなければ思い出さなかったのに…それならよかったのに…


 …こうして涼花のせいにしようとする自分が嫌になる。




 俺は最低だ…





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