星屑の海

サクサク

第1話

ちゃぷ


ちゃぷ•••


静かに••時には激しく揺れる水音に、思わずため息を吐く••


はぁ~

なんだか、やけに揺れるな••


それに、さっき大きなアミで追いかけられて、仲間達のいる場所と離れていつもとは違う、やわらかい壁になってるし••

こんどは、何処に連れて行かれるやら••

本当ため息しか出ないや。


ようやく、激しく揺れていた場所から、ゆったりした揺れに変わり


「新しい水槽だよ!」

と、言われ今より少し大きな海に出る


この海には、先住民はおらず縄張り争いをする必要性もないようだ。


しかし、新しい場所はシッカリ確認しておかねばならない


海藻の隙間や水面に至るまで、隅々まで確認する


ふと、ガラス越しの壁に目をやると、小さな女の子がこちらを覗いていた。


ニコニコと笑いながら、こちらを見るだけで、仲間達と泳いでいた場所のように、バンバンと大きな声を上げて叩いたりはしないようだ。


さっき、僕を抱えてこの海に移してくれたおおきいひとが、少女に話し掛ける


ほら、けいちゃん。

新しいお友達だよ。7歳のお誕生日おめでとう。

綺麗なお魚だね!


少女は、フフッと微笑みを浮かべ、ありがとうママと、静かに答える。


「けいちゃん、この子に、名前を付けなきゃね」


もぉ、この子が来ると決まった時から、名前は決めてあるわ。


ママ!

あのね、名前は•••


そぉ!いい名前ね!と、少女と母親が微笑み合う。


けいちゃん今日は、気分はいいかしら?少し起きて、ケーキは食べれそう?


これが、彼女との最初の出会いだった。


数日が経ち、分かった事は、彼女は病気で1日の大半を部屋の中で過ごしている。


気分がいい時は、外にも出ているようだ。

起きている時の話相手は、自然と僕になるが、僕が口を開いた所で、泡になって言葉も、彼女の為に歌う事すら出来ない••


水面に響く彼女の声は心地よく、凄く好きだなぁ。と感じる。


だから、早く泳いだり、ジャンプをすると、無邪気に笑うから、僕も楽しくなる。


そんな無邪気に笑う彼女も、暗くなり大人が出入りしない時間になると、そっと僕の海を抱えて、窓辺に座り話かけてくる。


あのね••

私、もうすぐお星様になるの。

ママ達は、元気になったらお友達と外で遊べるようになるて言うけど、ママとパパがコッソリ泣いている事知ってるんだ••


お星様になったらね。

少し大きく、星に向って手を伸ばし、ママやパパ達を高い空から見守りながら、見付けて貰えるように輝くんだ!


何時も明るい彼女の目から、沢山の雨を降らし、僕の海にいくつもの弧を描く••


僕は、彼女の描く弧を見上げながら静かに泳いだ••


えへへ!泣いた事は、私と•••のヒ・ミ・ツね!

イタズラぽく笑った後、泣く事はストレス発散と笑う事は、元気になる魔法の薬なんだよ!と、僕に教えてくれる。


朝は、またあの苦い薬かぁ~ヤダなぁ~。


さぁ!

寝ようか!オヤスミ!


ベッドに入り、けいが僕の名を呼んで、スースーと寝息を立てて眠る。


でも、闇が静けさをまとう真夜中、彼女の寝息と独り言を聞いてる事は、僕だけの秘密だ。


けいと部屋の中で、穏やかに過ごす日々••

僕が早く泳いだり、飛び跳ねると無邪気に笑ってくれる。

これが、けいが元気になる魔法の薬なんだよね!


無情に流れる孤独の時を壊してくれた君が、1秒でも無邪気に笑ってくれるなら••


けいと時折見る星の海ほど、広くは無いけど、僕はこの小さな海で、華麗に舞って魅せる。


更に月日は流れ

けいと暗闇の中で、時折見ていた星の海を眺める事も

彼女が、無邪気に笑う事も少なくなっていった••

ただただ、小さくなっていく彼女を見つめる事しか出来ない••


彼女の言うお星様になる日が近付いて来ているのだろうか••


けいが、何時か見せて教えてくれたカミサマて人はイジワルだ。

小さな体に、大きな厄災を押し付け笑ってるのだ。

でも、これが彼女のウンメイと言うなら••ボクは••


なんだか、今日はけいの回りが慌ただしい。

ずっと、大きな人達が出たり入ったりを繰り返す。


僕の小さな海が、彼女の寝てる頭の近くに静かに置かれた


何時もより、苦しそうな彼女が消えそうな声で、何度も何度も僕の名前を呼ぶ。


僕は、何時ものように笑ってほしくって、早く泳いだり、飛び跳ねたりする


けい見て!

ボク早く泳いでるよ!


ほら!

何時もより高く飛べたよ!


けい•••

どうして笑ってくれないの?


どうして

僕の名前を呼んでくれないの?


なんで•••


目を開けてくれないの••?


あぁ••そうか。

君は、カミサマて人に連れられて、お星様になるんだね••


僕はね。

置いていかれる寂しさをもう二度と味わいたくないんだ••


このガラスの檻を抜け出して、星になると言う君と一緒にいこう。


小さな海から勢いよく飛び上がって、けいの近くへと、ボクの小さな体がポトリと落ちる。


けい••けい••

ボク知ってるよ


キミが眠ってる間 「お星様」になりたくないと泣いていた事


君のパパとママが居ない時に、お星様になった後、寂しくないようにと

「手紙」を部屋に沢山隠していた事。


そして、キミが僕につけてくれた名前「アクア」と、沢山呼んでくれた事。


けいとの記憶が沢山蘇る。


一緒にいこう。星屑の海に


ぼくが、沢山泳いで笑わせてあげる。


今を生きるモノ達の時間は限られている••

その時間をどぉ生きたか?


また、同じ時を生きる誰かの記憶に、けいの生きた証は、鮮明にのこり生き続ける事だろうか?


そして••


ボクの

この湧き上がる思いに、人は何と名前を付けて呼ぶのか••


今は•••まだ知らない••


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星屑の海 サクサク @sakuya1213

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