ストーカー
「それで先輩、結局弱点って一体なんだったんです?」
それから少しして。
ユキを運ぶシラユキを見届けたアイはそう尋ねてきた。
まぁ、あそこまで聞いて気にならない筈がないだろう。別段俺としても、教える分には何の問題はないとは思うんだが……ここで答えを出すより、常に可能性を考え緊張させた方がいい。
そう考えた俺は、一応仮定であると前置いて最初に結論を述べた。
「多分弱点が作用するのは強化解除だと思う。」
「それは『柔らかかった』からです?」
おぉ、なんだよ。
分かってんじゃねぇか。
そのあっさりと返って来る確信を突いた質問に俺は思わず拍子抜けしてしまった。
この分だと、さっきのユキの返事である程度の答えは予測できていたのだろう。
であれば、わざわざこちらに確認を取ってきたのはあくまで答え合わせということか。
それならそれで慢心するなと何とか釘を刺しておきたいのだが……
「あぁ、あいつの付加物は胴体の硬質化だ。それが解除されてたってことはまぁ、そう言うことなるだろう。それに加えてもう一つ有るらしいが、大人しく逃げた辺りそっちも解除されている可能性が高い。もしくはお前の言ってた継続ダメージが適用されてる可能性もあるしな。」
「あー、なるほど。そうですね、それならあんな有利な状況から逃げたっていうのも説明がつきますし……間違ってないのではないのでしょうか」
そう んー、と指で顎を支えながらしっかり納得した様子のアイ。
そんなアイの様子を見ながら俺は頭を抱えていた。
まずいなぁ。どこで釘を刺すべきか。
今の殆ど正しいであろう意見に「間違いかもしれないから考え続けろ」ってのもなんか違う気がするし……かといって何も言わない訳には……。
そう頭を抱えていた時だった。
「どんなに正解だと思える物でも答え合わせまではあらゆる可能性を疑い続けろ。それに命を懸けるのなら尚更だ……ですよね?」
突然耳に入ってきた、どこか聞き覚えのある言葉に思わず目を見開く。
「中園、それは……」
「ふふっ、えぇ。先輩の言葉です。私ちゃんと言いましたよね。先輩のために盗聴にも手を出したって。だてに先輩のストーカーして無かったんですよ?私」
あぁ……すっかり忘れかけてたってか、忘れようとしたけどそうだったわ。
そういやこいつストーカーだったわ。
ただ、そうなると気になってくることが一つ。
現状とは一切関係ないが、これを聞くとすれば、今をおいて他に無いだろう。
「なぁ、中園。それについてもいつかは聞いてみたいとは思ってたんだけどさ。何で俺なんだ?」
俺はそう尋ねた。
生憎、俺には生き別れた幼馴染みも居なければ、生まれてこのかた誰かを助ける様な機会なんて無かった筈だ。
なれば、何故俺はこの生き難そうな大型犬を手懐けることが出来たのだろう。
それは中園が勢いよく暴露したあの言葉を聞いてから、俺がずっと疑問に思っていることだった。
その疑問に、
「それはですね、先輩。」
アイは笑って答えた。
幸せそうに。懐かしむように。
「先輩が私を拒絶してくれたからですよ」
「ん?」
幸せそうな顔で紡がれたその言葉に、俺は思わず首を傾げた。
拒絶……については心当たりが有る。
誰にでも媚びへつらうアイの姿が目について、俺の所にまで来られてはかなわんと、俺は「近寄るな」と言った。
そう、ただそれだけだ。
そこには何の打算もなく、何の愛も無い。
関与できない物から身を守る自分の平穏を守るためだけの言葉だった筈だ。
なのにその言葉の一体何が……
「フッ」
突然聞こえたその吹き出した様な笑い声にバッと顔を上げる。
「フッ、フフフッ……す、すいません。少し可笑しくって」
そこには、手を口許に遣りながらも、堪えられないと言った様子で吹き出すアイの姿があった。
……なんだ?やっぱりこいつがおかしいだけなのか?
「いや、そこは別にいいんだけどさ。結局何なんだよ。お前を犯罪行為に走らせた理由ってのは。拒絶だけじゃなくて他にもっとなんかあるだろ」
突然笑いだしたアイの情緒を心配しつつ、俺は改めてそう尋ねる。
それに落ち着いたアイは手を口元にやり……
「ないしょです♡」
ハートマークでもついていそうなほど茶目っ気たっぷりにそう答えたのだった……って、えぇ。
いやいや流石に、
「ここまで来てそりゃないだろ」
このままアイが話を終わらせようとしていることを空気で察した俺は思わずそうツッコんだのだった。
実際それは正しかったようで、アイはぶー垂れたようにこう言う。
「えー、だって先輩わかんないんじゃないですかー。女の子からすると、こういうのは当てて欲しい物なんですよ?それなのに、このまま続けたら私が答えを言わなきゃならないじゃないですか。」
そんなの絶対に嫌ですからね。
そう言って、べっと、舌を突き出したアイは拗ねるようにそっぽを向いてしまったのだった。
だが、んなこと言ったってなぁ。
「どこの世界に拒絶されてストーカーになる奴が居るってんだよ」
この一言につきるのだ。
どんな環境においても自分を否定されて相手を好きになるような奴の気が知れない。
思わずそうぼやいた俺にアイは、
「ここに居るじゃないですか」
とか、屁理屈としても通じない様な戯言をほざいていたのだがそれはそれとして。
「いつか時間が経ったら教えてくれるのか?」
「うーん、私が心変わりしない内は絶対に教えません」
「それじゃあそれまで気長に待つとするかな」
「え、いや絶対にありえませんけど」
「ばっかお前。そういうこと言う奴が一番移ろいやすいんだぞ?」
「はぁ……先輩。もうちょっとあなたの後輩を信用してくださいよ。良いですか?私はもう盗聴にまで手を出してるんですよ?そんな私が十年二十年経ったくらいで飽きるとか私の愛をナメないでください。」
その後は寝るまで二人不毛な論争を繰り返したのだった。
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