惨めな後悔

 夢を見た。

 恐らく俺が最も幸せだった頃の夢を。


 その中での俺はいつも笑顔で純粋で……

 俺がそんな何も考えない幸せな愚物で居られたのは、やはりいつも隣に居てくれた□□のお陰なのだろう。


 でも□□は気付けばいつも遠くに居て。

 それに気付いて慌てて追いかけても距離は遠退くばかり。


「待って!待って□□!!待っ____」



 どちゃ



「真!無事!?」


 血と体液にまみれて俺は外へと弾き出された。

 そのままぼんやりと掠んだ視界を開くと……


「……ユキ?」


 迫真の表情でこちらを揺さぶるユキの姿が有った。

 コイツにこんな顔が出来るのか~とかそんなことを思わなくも無かったが、とりあえず今は現状整理だ。

 えーと、どうなったんだったか。

 確か俺はアイツに……


「そうじゃん!アイツは!?」


 そこからノータイムで、俺は即座に跳ね起きた。

 現状整理もクソもねぇ!

 戦闘中に考え込んだ俺がバカでした!以上!


 そう猛省しつつも狂ったように辺りを見回す俺を見ると、ユキは安心したように少し微笑み、こう語りかけた。

 

「もう居なくなった。あの娘が……守ってくれたから。」


「あの娘?」


 そういうと、ユキはそのまま視線を他所へ遣った。

 そのままユキの見遣った視線の先へと目を向けると……

 


 膝から崩れ落ち、右手で未だ微かに煙を上げるマグナムを握っているアイの姿がそこにはあった。


 

「え?……は?な、なんでコイツが。」


 それに思わず戸惑う。

 わざわざ傷付かない様にシラユキの所に置いてきたのに何故ここにいる。

 それに……そうだ。

 なんだそのマグナムは。

 あの店の武器庫はカウンター裏のボトルラックの後ろ。

 シラユキに隠れて持ち出すなんてことはほぼほぼ不可能な筈だ。

 だとすると何だ?アイツが手伝ったってのか?


 そう迷走するように思考を巡らせていると、突然優しく肩を捕まれた。

 それにゆっくりと振り向けば、いつの間に巻きなおしたやら、目に布を巻き、此方に顔を向けるユキの姿。


「今はなんでもいいでしょ?どんなに悩んでも、結果的に真はあの娘に助けられたの。だったら……することは一つじゃない?」


「……」


 その言葉を受けて、俺は立ち上がった。

 ……正直、こんなことを言いたくは無い。

 こいつの性格上、一度認めてしまえば、まず間違いなくだろう。

 そんな奴は突き放すのが一番だと理解もしている……だが。


「……おい中園」


「は、はい!」


「……助かった、ありがとう」


「ッ!…………はい!!」


 命まで救われと説いて礼も無いのは


 体を震わせて喜ぶアイを横目に感じるのは微かな後悔。

 

 あぁ、そうだ。

 所詮俺なんて他人の人生より自分のくだらないモットー一つを優先するような屑なのだ。


 そんな自己嫌悪に陥りそうな事実から文字通りに顔を背けつつ、俺はユキに話しかけた。


「それで?結局何があったんだ?」


「それは……」


 そこまで口にしたユキは突然口をつぐむと、こう言った。


「ううん、これは後にしよう。真、今自分がどんな状態か理解してる?」


「あ?」


 その言葉に目を下す。

 次の瞬間……


「うぷっ……!」


 堪えがたい吐き気に襲われた。

 それもそうだろう。


 俺のスーツは血や、何か得体のしれない体液で穢れ、酷い匂いを放っていた。

 ……自分で言うのもなんだが、とても美しさをモットーにするような奴の恰好では無いだろう。

 今の俺を表すなら……さしずめ、惨めで哀れで沈鬱で侘しくて……とにかくありとあらゆる罵倒を尽くしても表しきれない様な糞蟲だ。


 喉までこみ上げたモノをどうにか嚥下しつつ、俺はヒリつく喉で何とか、こう話した。


「……すまんユキ、助けてくれ」


 主語も、目的語も無い曖昧な、けれどただただ切実な願い。

 そんなよく分からない様なモノを聞き届けたユキは俺にこう告げたのだった。


「そういうと思って車にシーツを積んでる。だからほら……歩ける?」


 あぁ……やっぱり持つべきは相棒なんだよなぁ。

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