余分な一人
「はぁ……んで?心当たりってか……目星はついてるのか?」
エンジンと道路の凹凸に揺られる閑静な車内。
その静寂を俺の声が破った。
「うん、多少は。ほら、教えてあげて」
そう続いて声を上げたユキが促したのは……
「はい!分かりました!ユキ先輩!」
……案の定、アイである。
当然の如く乗りやがって。
「私が見かけたのは……ここの市街地のスーパー前ですね。」
そう言ってラインで囲われた地図アプリを見せるアイ。
どうやら俺の頭痛が来ない辺り、嘘はついて無いらしい。
コイツを叩き出せる理由を失ったことに関して嘆けば良いのか、イライラさせなかったことに一安心すべきか。
「……結構近いんだな。それで?何日前で時間帯は?」
そんなモヤモヤに包まれつつも、そう吐き出す。
あぁったく……やりにくいったらありゃしない。
「えーっと、1日前の深夜一時です」
……しかも一番新しい情報だし。
こう言う奴に限って優秀なのは何なんだよ……
「じゃあ取り敢えずそこに行くのか?」
「いや、一旦戻る。流石に戦えないのは連れて行けない。」
っしゃ!!
いつもの様に淡々と答えるユキに、俺は思わずガッツポーズを取った。
だが、反対に送り返されると知った本人はそれどころでは無い様で……
「ユ、ユキ先輩!?話が違います!」
「何が?役に立つまでって話だったでしょ。もう十分役に立った。」
「そんな……だってまだ見つかっても……」
「真」
そうして突然こちらに視線を送るユキ。
言いたいことは十分良く分かった。
「んー、そうだな。半径1キロ圏内、北東に魔力反応。若干弱ってるっぽいし、十中八九奴だろう。」
突然、空間に溢れた言葉を理解しようとしているのか、呆然とする愛。
だがそれが何かを理解する内に辛うじて口を開き……
「な、何を根拠に……」
はぁ、ったく。
ちらりとミラーを見る。
よし。
「なぁ、お前もどこかで聞いてたなら知ってるだろ?この眼」
そう告げながら、俺は後部座席へと身を乗り出した。
いつもとは少し違う、けれど見慣れた薄い青と紫の線が入った視界。
その視界からこちらを見るいつも真っ直ぐな女性の瞳は、珍しく揺れていた。
それと同様、珍しく震えている唇から、ぽつり。
「……虚解の魔眼」
「その通り。じゃあ言いたいことも分かるよな?」
「……」
返事は沈黙、即ち肯定だ。
いつもの俺なら、静かにできたと喜ぶ所だが、今日の俺はなぜだかそれにどこかやるせない気分を抱きながら席に戻った。
はぁ、ホントに……
頼むから足を引っ張らないでくれよ。
それから少しして。
結局、最後まで黙ったままだったアイを本人の頼みでシラユキのカフェに送り届けた。
せめてこの件に関われる位置に居たいらしい。
「はぁー、なんであそこまで人助けに拘るのかねぇ」
そこから再びUターンして。
さっきとは違う道でスーパーに向かいながら、思わず呟く。
その呟きに反応して、ユキが口を開いた。
「さぁ、分からないけど命を捨てる覚悟も有ったみたいだよ?」
「は?なんだそりゃ……それって、あれか?俺が寝てた時の会話?」
車の先を見ながらこくりと頷くユキ。
それを聞いて俺は衝動的に嗤った。
尤も……
「は、マジかよ。とことん、とち狂ってやがる、大体、真の意味で他人に何が出来るってんだ。便利に使われて形だけの感謝を貰うのが精々だろ、なーにそこまで本気になってるんだか……」
「……」
「っ……」
直ぐに後悔する事になるのだが。
「……なぁユキ」
「知らない、自業自得。……それにしてもまだ治ってないの?その偽悪癖」
思わず押さえた頭にユキの声が響く。
自業自得……正にその通りだ。
全く……自分の機能に手を噛まれるなんて洒落にもならん。
はぁーったく……
「止めだ止め。さっさと奴を探さにゃならんってのに、よそ見してる場合じゃねぇわな。」
「そこに気付いてくれて良かった。あぁ、それと……アレも、気付いてくれて有り難う」
赤信号の内に、此方に顔を向けるユキ。
アレってのは十中八九さっきの嘘だろう。
「まーな、多少付き合いも長いし、当然よ。まぁ、積極的に嘘を吐かせに来るのはどうかと思うがな」
「それはごめん、でもそこまで言わないと引き下がらないでしょ、あの娘も。」
「それは間違いねぇや……ってか、あれだよな。気付かれなかったのはなんでだろうな。アイツが盗聴でどこを聞いてたのかは知らないが、虚解がそんなに感知範囲が広くないことくらい知ってても良いと思うんだが……」
「そこは動転してたんじゃない?それか、真が嘘を吐くとは思ってなかったとか」
「あー、成る程。それならあり得るな」
そこから一転して、思い出したかの様に声をそばだてユキは言う。
「それはそうと、今は大丈夫なの?」
「ん?大丈夫ってのは?」
「ほら」
そう声だけ出して、片手で耳をアンテナの様にするユキ。
あぁ、成る程。
それなら……
「りぇー」
丁度交差点の「一時停止」に従って止まった所だったので舌を出した。
その先に感じる異物感。
「……えっ、もしかして食べるの?」
「まさか。ポイ捨てなんか出来ねぇし、聞かれるのも嫌だったから唾液漬けにしてやっただけよ、これで壊れたろ」
「……最近の盗聴機には防水性なんかも有るらしいけど?」
「えっ、マジか……まぁ、どちらにせよこの中じゃ何も聴こえんだろ」
「それじゃあずっと口の中に入れておく気?」
「あー……んにゃ、完全に壊してから吐き出す。それならポケットにしまってても問題は無いだろ。んじゃ……」
バキッ
右奥歯で感じるプラスチックの割れる感覚。
それを確認してから俺はポケットティッシュに残骸を吐き出した。
それを二重にくるみ、ポケットに突っ込んで、一言。
「……ま、さっさと終わらせてさっさと寝ようや」
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