張り込み
「ふぁ~あ」
……と言うわけで、今回も張り込み……と言うか寝ずのパトロールが確定したものの、奴らが動き出す夜まで、多少の猶予は有る。
それならば早朝から邪魔された分までしっかり眠るしか無いだろう。
そんなわけで俺はゆうゆうと、後部座席で寝転んでいた。
因みに奴らが昼に動けない理由は、日光に当たると、存在の維持にエネルギーを持っていかれ、結果的に腹が減るからって理由だったりする。
それ故に只でさえ腹が減っているらしい今回のターゲットなら、まず日中に出歩くことは無いだろう。
つまるところ、陽が出ている今は気を張る必要も無い完全なるフリータイムなのだ。
この機会に、普段休めて無い分までしっかり疲労を回復したい所……だったのだが。
ぐぅー
「……」
こんなときにも腹は減る。
……よく考えたら朝飯どころか昨日の昼から何も食べてなかったや。
「……めんどくせー」
我ながらそう気だるげに吐き出しつつ、俺は車のドアを開いて外に出た。
因みにユキは足と腕を組んで運転席で就寝中。
良くあんな体制で寝れるよなぁ。
寝ぼけた頭でそんなことを考えながら、俺はふらつく足で辺りをぶらつき始めた。
それからしばらくして。
「お、有った」
ようやっと見つけたコンビニに入る。
「いらっしゃいませー」
やっぱり品揃えが多いってのは良いなぁ。
そんなことを考えながら俺は菓子パンコーナーへ向かった。
手に取ったのはチョココロネ一つ、チョコパイみたいな奴一つ。某ドーナツチェーンからの輸入品みたいな奴一つ。
最後に栄養面を考えてエネルギーバーを買っておく。
それをビニールにつつんで貰い、外に出ると……
「あれぇ!?先輩じゃないですか!」
ゲッ……
予想だにしなかった声に、思わず顔をひきつらせた。
「奇遇ですね!どうしたんですか!こんなところで?」
そう言いつつ駆け寄ってきたのはショートでスーツを着た女。
他に大した特徴は無いものの、ウチの同僚は皆、コイツを心底気に入っていたりする。
なんせ愛着を込めてこう呼ぶ程だ。
「も~、何か御用ならこの愛犬にお申し付けてくだされば良かったのに」
愛犬。
誰が最初に言い出したのかは知らないが、このモラハラスレスレ(……いや、人道的にアウトだろコレ)の呼び名は知らず知らずの内に広まり、気付けば本人まで気に入っているのか自称している始末だ。
心底気持ち悪い。
何が気持ち悪いって、本人に一切嫌がる気配が見られないってとこだ。
その癖、裏では色々思う所が有るらしく。
コイツが近くに居ると、俺の嘘センサーが反応してイライラするからホント止めて欲しいんだが……一般人に分かる訳ねぇか。
と言うかそれ以前に……
「……何の用だ。前に寄ってくるなって言ったろ」
そう、それはファーストコンタクトの時。
初見で「あっ、コイツ無理だ」と判断した俺は「お前に頼むことは無いから俺の所には来なくて良い」と伝えてあったのだった。
……まぁ、その後も変わらずこちらへ「何かすることはないか」と聞いてきたりするので何か意味が有ったかと問われたら閉口せざるを得ないのだが。
「もー、なんでそんなことを仰るんですか?こんなに邪見にされたら流石の私も傷付いちゃいますよ」
「なら、寄ってくるなよ。そしたらお前のガラスハートも傷つかずに済むだろ」
「えー、でもそこは私のプライドが許さないというか……」
イラァ
そこまで聞いた時点でまた頭に来たんでその場を走って後にする。
「あっ!ちょっと真先輩!!」
後ろで走り出す音がするが、もう遅い。
悪魔狩りで鍛えた筋力だ。
当然、愛玩動物ごときに追い付かれること無く、俺はゆうゆうと距離を離していった。
それからしばらくして……
「あ、ここかぁ」
勢いよく走り去ったは良いものの、来た道をすっかり忘れ、迷っていた俺はなんとかユキのセダンまでたどり着いたのだった。
「はぁーったく……ヒドイ目に遭った」
そう一人吐き出しつつ、俺は後部座席のドアを開ける。
いつの間にか日も昇っており、折角買ったチョコパン達も暖まったこと間違いないだろう。
そこだけがなんとも残念だが……さ。さっさと食べて泥のように眠るとしよう。
そんなことを考えながら、俺は後部座席の取っ手を引いた……のだが。
「嘘だろオイ……」
俺の視線の先には可愛らしく手を重ね、すやすやと眠る愛犬の姿。
「な、なんで……」
コイツが入ってるんだと、ユキに問おうとして思わず口をつぐむ。
そうだった……そういやコイツ眠りが深いんだった……
その上睡眠中は車の鍵も閉めない為、出入りはし放題。
おそらくだが……こう言うことなのだろう。
俺が延々と道に迷っている内にコイツはいち早くセダンと、そこで眠るユキを発見。
最近社内で噂になっている俺とユキの関係性を知ってか、俺が帰ってくるもんだと思って後部座席で就寝……と。
いや、なんで寝てんだよ。
本当に……訳が分からない奴である。
「……もういい、寝る」
実のところ、ずっと限界だった眠気に耐え兼ね、俺は助手席に乗り込み、パンを食べるのも忘れて眠ることにしたのだった。
いつもはあまり寝つきの良い方では無かったりするのだが、今日ばっかりは秒で眠れた。
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