聞き込み
その後、武装を終え、セダンにロックを掛けた俺達は……
ピンポーン
「朝早くにすみません、警察ですが」
暗夜堂々と、法を犯していた。
……いや、俺も一サラリーなので、当然法に詳しい訳ではないが、警察のコスプレをして聞き込みまでしてしまったら何らかの法に引っ掛かることはまず間違いないだろう。
しかも、俺の腰には銃、ユキの腰にはさらに物騒な改造品をぶら下げているオマケ付き。
警官でないとバレてしまえば、どちらにせよ銃刀法でワンナウトだ。
そんな身の上であるため小心者の俺としては可能な限りさっさと聞き込みしてこの場を後にしたいのだが……
ドタバタドタバタ……「ぁぇっ!」
ご覧の通り、どうやら家主はとても人前に出れる様な格好ではなかったらしい。
それに申し訳なさを覚えない訳では無かったが、それと同時にこうも思う。
「……早くしてくれ」
「落ち着いて、真。下手に焦ると疑われる」
「でもよぉ……おっ」
そこまで言いかけて、俺は慌てて居住まいを正した。
ドタバタした足音が近くまで来ていたからだ。
そうしてドタバタが押し寄せ、一度足音が止んだ次の瞬間……
「す、すいません!お待たせしましたぁ!」
そうして勢い良く現れたのは、20代後半程の、黒髪に白メッシュ混じりと言うなかなかに特徴的な髪色の方だった。
けれど寝起きなのか、背中まで有る髪はボサボサ。よほど慌ててくれたのか、傾いたメガネはどこか残念そうな雰囲気を醸し出していた。
「いえ、こちらこそこんな朝早くに申し訳ないです。それで、一つお尋ねしたいのですが……」
それを始めに、虚実織り交ぜ、この辺りに(暗くて見えなかったが)不審者目撃の通報が有ったと言う体で話を進めた。
だが……
「んえぇ……ごめんなさい。私、あまり家から出ないから力になれないかも……不審者が居たって言うのも、今初めて聞いたし……」
「そうですか。では、近頃何かおかしなことは有りませんでしたか?例えば、夜な夜な何かの声がする、だとか。」
「ん~?おかしな事かぁ……あっ!そうだ!声じゃ無いけど最近一つ有ったかも!おかしな事」
「教えて頂いても?」
「う、うん、もちろん。えーっと、2日位前だっけ。私が夜中にゲームしてたら窓が赤く光ってね。電気を着けてカーテンまでしてたのに分かるほどの光だったんだよ。それで窓を覗いてみたんだけどね、建物の影になってはっきりは見えなかったけど光源は道路に有ったみたい。それから直ぐに光は消えちゃったんだけど……どう?役に立てそう?」
む……ちっと分かりにくいが、聞きたかったもので間違いないだろう
「えぇ、とても貴重な情報です、ありがとうございました。」
聞き込みの受け答えを全てユキに任せ、俺はボールペンを取り出し、それっぽく小さな手帳に書き込んだ。
『魔術光目撃』
若干不安だったが良かった。
肉弾特化なら地味な支援しか出来ないが、相手が魔術を使ってくるなら俺の方でも多少は役に立てるってもんだ。
ここで気を緩める気は無いが、多分今回もどうにかなるだろう。
「では、繰り返しになりますが朝早くに申し訳有りませんでした。どうかお気を付けて」
「は、はい、警官さんこそ頑張って」
書き終え、ふと顔を上げれば、ちょうど別れの挨拶をしているところだった。
最後にユキが頭を下げるのに合わせて頭を下げた後、俺達はその場を後にした。
それからしばらくして……
「ふぃー、疲れたぁ……」
その後も聞き込みを繰り返した俺とユキは車に戻り、武装を解除していた。
「それで?まとめるとどんな感じなの?」
腰のナイフを慎重に外しつつ、ユキはそう尋ねてきた。
えーっと、俺のメモ曰く……
「魔術光目撃、犬の死骸の目撃……あぁ、これが一番決定的かな、溶けて固まったアスファルトの目撃。どう間違っても最後のは日常じゃあり得ないだろ」
「うん、私もそう思う」
「あと、共通点として、どれも2日程前の夜に起きた出来事だってのが有るな。犬の死骸だけは3日だが、見つけたのは早朝って話だ。2日の深夜にでも殺されたんじゃ無かろうか……とか思ったんだが、あれか?悪魔が喰う魂ってのは別に人間のじゃ無くても良いのか?」
「うん、効率は悪いけどね。それに味も悪いらしいからよっぽどの事がないと食べないらしい」
「ほぉー、よく知ってんなそんなこと……ってか誰から味まで聞いたよ、それ。」
「それはまた今度。今注目すべきは今回の奴が人以外を襲ったってこと。」
「ほほう……つまり?」
「……さっき言ったでしょ、よっぽどじゃないと犬なんて食べないって。今回の奴は既にそのよっぽどの状況に陥ってるってこと。今日の夜にはきっとまた現れる。……つまり?」
「今日は張り込みってことかぁ」
一番待ち時間がキツイんだって、この仕事……
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