第4話 作戦会議
「42時間かけて4人1組のゾーンゲームが開催されるの。開催地は、秋葉原周辺。これに参加しようと思うの。」
冗談じゃない。真っ先に思ったのはそれだった。42時間もかけて100組の中から生きて帰るなど、ゲーム側が脱出人数をどれだけ絞るのかもわからないのに二つ返事で承諾するわけがない。
「な、なに言ってるんだ?これ、だって、あれだろ…。」
「やるよね!」
言葉を探しながら、考え直すように伝えようと思ったがその隙もなく、彼女お得意の笑みで強引に同意を求めようとしてきた。
「やるよね?」
いつの間にかつま先の感覚がなくなっているのに気づくと、つま先の上に彼女のかかとがのっかっていた。
ここまで、迫られては抵抗する余地もない。…彼女のことだ、何か勝つための秘策でもあるのだろう。
「は、はい、ぜひありがたく参加させていただきます。」
「よろしい。」
仕方なく、彼女に同意した。
しかし、さすがに二人だけというのは、このゲームの難易度に影響しかねない。
「だ、だとしてもさ、さすがに2人は無理があるんじゃないか。カエデさんがいくら強いからって言っても、そう簡単に命を賭けていいものでもない。」
「知ってる?エターナルプレイヤーは参加枠2つ消費するって。」
「へ?」
恥ずかしく間抜けた声を漏らすと、彼女はまるでそれが当然のことのように明るい口調でルールの説明を加える。
「私もね、せっかくなら4人で組みたいんだけど、グラマス以下のプレイヤー限定なんだよ。…それ以降の人は、1人で2人扱いなの。」
まあ、仕方ないよね。と彼女は両手を軽く広げて肩を竦めた。
あっさり不利なルールを受け入れている彼女を前に、僕は言葉を失った。こんな調子では、まともに勝つ気があるのだろうかと心配になる。
…だが、彼女の言葉でそれも杞憂だったと知る。
「でも、やるからには絶対に勝つから。」
何ら変わりない彼女の声ではあるが、なぜかその声と言葉に強い意志が感じられた。まるで、このイベント何かを背負っているかのように。
彼女は鋭く強いまなざしで、まだこちらを見つめている。
僕は、覚悟を決めた。
「ああ、当然そのつもりだ。」と言い、手を差し出すと、彼女もそれに応じ握手を交わした。
握手を終えると彼女は何かを言い欠けたが、僕には聞こえなかった。
「…私は、もっと多くのポイントを…。」
こうして、僕たち二人はBiAにチーム名”Funa”としてエントリーした。
BiAの開催日時は5月3日から5日の三日間、開催地は廃墟化した秋葉原周辺すべてがフィールドになり、商業施設やオフィス、地下鉄の中なども含まれる。
ルールは単純で、48時間以内にフィールドから脱出すること。また、脱出のための条件や任務がそれぞれのチームに与えられ、それらを遂行しながら脱出を目指す。
脱出するまでに脱出条件や任務遂行の進捗が満たされていないと、脱出が不可能であるか、ペナルティ付きでの脱出となる。
そして報酬は1位から3位まで順に10億、5000千万、250万のネビュラナイトポイントを獲得することができる。また、任務遂行の進捗度合いによっては追加報酬があるようだ。
一見簡単そうに見えるが、脱出できる最低順位が記載されていないことから、脱出できる人数は相当な数に絞られてしまうだろう。
脱出ゲームだからと言って、これを甘く見たプレイヤーが気軽にエントリーしてしまうかもしれないが、それもゲーム側の狙いなのかもしれない。
僕は、BBlabのイベント告知ページの詳細を閉じて、フラッペを飲み干してから一息つき、カエデさんにこのゲームの作戦について尋ねた。
「あの、カエデさん。」
しまった。彼女の不満げな顔を見て、何かやらかしてしまったのだろうかと思考を巡らせたが、心当たりがない。
彼女はまだ、こちらをじーと見つめている。
背筋を冷たい汗が虫が這うように流れ、視線を泳がせると、彼女は軽く机をバシバシとたたきながらPCBIDを見せつけてきた。
「楓、風間 楓!それが私の名前だから、その、「さん」付けやめてくれない?むず痒いから。」
思わず僕は拍子抜けした。
彼女はゴミでも見るかのような目つきで自分の二の腕をさすりながらそういうが、さきほどまでは、立場をわきまえろと言わんばかりの態度だったではないか。
彼女への距離感のつかみ方に苦悩しながらも、ぎこちない呼び方でもう一度作戦について尋ねた。
「お、おう、じゃあその、楓、このイベントについてだが、何か作戦とかはあるのか?」
彼女は喜色満面な微笑みを見せ、一息つくと「一応、考えてはいるよ。」と言った。
「けど、その前に、チームの情報から整理したいの。聞いてもらえる?」
そういうと彼女は、エントリーしたチームの一覧表のホログラムをこちらに見せてきた。
「…これが今回エントリーの決まっているチーム名なんだけど。」
現在エントリーが決まっているチームは58組で、特に要注意のチームが3組いると言う。
まず一組は“GREWING”。このチームは3人1組で、”GREW”という奴がリーダーである。
彼は一か月前にこのゲームに参加した。強靭な肉体を操る”鉄壁”というレディアンスを持っており、僅かの期間で25位のエターナル帯まで上り詰めた鉄壁の化け物として恐れられているそうだ。
そして、”hide”と”shine”もグランドマスターとスターライト保持者であるため、チームとしては確実に優勝候補だと彼女は見ているようだ。
そして、次に“異端審問官”のチームで、そこには現在9位のERROR_404と76位のChaosの二人のみ。この時点で優勝候補ではあるのだが、彼のレディアンスはいまだよく知られていない。
リリース初期からのプレイヤーで一度もイベントに参加したことがなく、彼については謎が深まるばかりだとか。
そして最後に三つ目は、“豆腐無双”のチームで、現在21位のしゅうまいがチームにいる三人パーティだ。
彼は熱変化というレディアンスを持っており、あらゆるものの温度を変化させることができる。
一見、警戒するほどのことではないと思うが、彼は熱変化によっておこる事象をすべて網羅しており、とても厄介な使い手らしい。
あとの2人は、ダイヤ以下だというので割愛する。
「というわけで、名の知れた上位プレイヤーがいる要注意チームはこんな感じね。」
先ほどまで、「上位30位くらいまでは全員参加するのではないか」と思っていたのだが、要注意のチームが3つだけとなると、ほとんどのネビュラーランクのプレイヤーは参加しないつもりなのだろう。
「おう、分かった気を付けておく。」
内面、少し安堵しながらも相槌を打つと彼女は話をつづけた。
「それで、イベント開始時なんだけど、始まり方が今のとこ3パターンまであるの。さすがに新しいスポーンパターンがあるとは思いたくないけど、覚えておいて。」
彼女は3本立てた指を1つずつ折りながら説明を加えた。
1つ目、ダンジョン化した施設から始まる“ダンジョンスポーン。”
2つ目、ランダムに地上から始まる“フィールドスポーン”。
3つ目、小型オスプレイで好きな場所に上陸できる“オスプレイスポーン”。
今回のイベントではどうやら、この3つのどれになってもいいように対策するべきだということだ。
そして今話し合った結果、次の作戦が決まった。
◇ダンジョンスポーン◇
ダンジョンスポーンであった場合はまず、ダンジョンノードと呼ばれるコアを破壊しダンジョンからの脱出を試みるが、100組規模と考えると恐らく5組くらいのチームとダンジョン内で鉢合わせることになる。
そこでの戦闘は避けられないらしいが、ゲームのルールによっては同盟を組むこともあるらしい。
今回のイベントの主軸は脱出ゲームに近いゾーンゲームのような位置づけである。また、48時間という長時間になるため同盟を組む流れになってもおかしくはないだろう。
ダンジョンスポーンで5組と鉢合わせそのチームすべてと同盟を組むことができればダンジョンを出る際に圧倒的なアドバンテージとなる。もしこのスポーンパターンになれば同盟を組むことを最優先にすべきだ。
◇フィールドスポーン◇
フィールドスポーンであった場合は、ランダムに且つ等間隔に各チームがスポーンするため、最初の安全は確保されているが、序盤は生存数が多く、漁夫の利を得ようとするものが現れる。そのため序盤の戦闘はなるべく避けて安全な場所で待機するべきだという。
このイベントでは、サテライトスキャンというマップ全体に参加者の位置情報の公開が1時間に1回行われる。
その情報を頼りに、漁夫の利を狙われることがないように立ち回らなければならない。
◇オスプレイスポーン◇
オスプレイスポーンであった場合、誰がどこに降りるかを飛行中に見ることができるため、安全に地上に降りることが可能だ。
しかし、オスプレイには搭乗者のランクバッジが機体に貼られているため、最高ランクのバッジを付けている機体や、プラチナ以下の低ランクバッジをつけている機体等は、地上に降りる前に攻撃されたりする恐れがある。
こうならないためにも、なるべく早めに着地場所を決める必要がある。
地上に無事着地してからは、基本はフィールドスポーンと同じ立ち回りだが、オスプレイを拠点としやすいため、平均的に参加者の行動範囲が狭くなるため生存数も減りにくい。
「…まあ、作戦というよりは、対策するべき注意点みたいになっちゃったけど、どういうパターンになってもちゃんと対応できるように心構えておいてね。」
それから、さらに細かい注意点などを教えてもらい、作戦を立てていくと気づけば夕方5時を回ろうとしていた。
「まあ、いろいろ詰め込んじゃったと思うけど、あとで大事なことはもう一度DMにまとめておくね。」
「ありがとう。正直もう頭がパンクしそうで。」
「私も、こんなに長く話したのは久しぶりだったよ。じゃあ当日はよろしくね。」
店を出ると、楓は「じゃあまたー。」と手を振って、改札口へ続く廊下を歩いて行った。
楓の背中が小さくなると、僕は電車賃節約のため、階段で地上に上がって徒歩で帰ることにした。
◇
5月3日の朝、僕は楓に先日言われた通りの場所についた。
「やっほー!」
聞き覚えのある天真爛漫な声に、まるで華奢で陽気な子を想起してしまうような感覚を覚え後ろを振り向くと、出会った日と同じような黒いレース生地がベースのワンピースを身に纏い、銀色の紙を揺らしながら駆け寄ってくる楓の姿が目に映った。
あまり反射しない金色のボタンと申し訳程度の白いラインが入っており、まるでその姿は死神そのものだった。
黒い巨大な鎌を持たせればそれはもう。
確かに陽気な子ではあるが、このなんとも言えない残念な気持ちを抱えながら彼女の服をどうほめればいいかわからなくなった。
「楓さん、なんか、だいぶ気合がおありで…」
適当に何か言ってみたが、どうやら言葉を間違えたらしい。
「何?ダサいとでも言いたいわけ?ねえ」と彼女は顰め面な顔で僕に近づき、胸倉をつかんできた。
「ねぇ、かわいいでしょ?この服ぅ!」
普通に見たら可愛いのだろうが、出あった日の彼女の凶暴さを知っている僕からすると、すぐその日の出来事がフラッシュバックしてくるため、怖くて仕方がないのだ。
誤魔化すために、必死に笑顔を取り繕いながら、「可愛い可愛い」というと、彼女は満足気味に腕を組み「分かればいいのよ。」と頷いた。
「よし!じゃあ、ラウンジ行くよ!」
「え?」
彼女の突然の言葉に置いて行かれていると、彼女は僕の手を引っ張り歩き始めた。
「え、ちょっと待ってどこに向かっ…」
すぐ近くの裏路地に進むと、“高電圧注意”と“関係者以外立ち入り禁止”と張り紙されている鉄の扉の前についた。
「あの、明らかに入っちゃいけない予感満載の扉が目の前に。」
「うん、入ったらだめね。」
しかし、彼女はこの扉のノブに手を伸ばそうとしている。やはり、とうとう頭がおかしくなってしまったらしい。
「今まさに入ろうとしてません?」
「別にここに入るわけじゃないわよ、いいから見てて。」
ノブをねじってから反対方向にねじり、5秒ほどそのままの状態に保つと、ベージュ色に塗られていた扉が、青白く光りながら立方体上に分割された。
暗闇の続く道がドアの向こうに現れた。そこから放たれる空気は、まるで別次元にでもつながっているかのような味がした。
「ほら、早く、こん中に入るの!」
「え、あ、え?あ、ちょっ…」
彼女は無理やりに背中を押し、僕は暗闇の中へと押し込まれた。
暗闇を抜けるとそこには数十人が掛けれるほどの規模のカウンターとソファーがあり、その奥には脚の高いカフェテーブルがまばらに置かれた広いスペースが広がっていた。
「おいっすー!ノコギリせんぱーい!この前、情報提供ありがとね!ちょっとだけ時間あるから来ちゃった!」
楓がノコギリ先輩とやらに挨拶をすると、目の前のカウンターに座っている整った顔立ちに、鍛え抜かれた筋肉を強調させるピッチリなスポーツウェアを身につけた男性がにこやかに楓と同じように手を挙げて「おいっすー!」と挨拶を返してきた。
「で期待のルーキー連れてくるって言ってたのは、この子?」
ノコギリ先輩が僕を見て彼女に尋ねると、彼女は嬉々とした表情で「そうなの!」といい僕の肩をつかんだ。
「…まだギフトは全然使えないみたいだけど、将来有望だから絶対仲良くしときー?」
そんな風に二人の会話に挟まった状態で話を聞いていると、楓は僕にノコギリ先輩を紹介し始めた。
「あー、急に盛り上がっちゃってごめんね、んで、この人は、ノコギリ先輩って言って結構前からのBBプレイヤーで、主に配信者業をやってるの、結構情報も持ってるから情報屋としても有名な人よー。」
「あ、凪って言います。よ、よろしくお願いします。」
「よろしくねー!初心者だと分からないことが沢山あると思うから、なんでも聞いていいからね!」
ぎこちない挨拶をノコギリ先輩に向けると親指を立てながら、とても気さくな返事を返してくれたが、楓の時と同様にどんな距離感で行けばいいのか少し難しい。
「はい、ぜひよろしくお願いします。それで、ここは…。」
僕が、この場所について尋ねようとすると、ノコギリ先輩は苦笑いしながら誤魔化すように話を流した。
「あはは、ここは、まあ、簡単に説明するとBBの中って言えばいいのかな。
えっと、マッチングした時、俺たちは一般の人から認識されなくなるだろ?
それと同じ現象をここに再現させてる感じだ。
まあ詳しいことはあまり考えずにくつろいでくれ。」
そう言いながらノコギリ先輩はウィスキーなのかよく分からない赤茶色のお酒らしき飲み物をクイッと飲んだ。
「すごい、そんなことができてしまうんですね。」
僕は、感嘆の息を漏らしながらあたりを見渡していると、楓がノコギリ先輩に尋ねた。
「そういえば、まだ店開けてないんだ?」
「まだ8時回ってないからね。ちょっと早いけど、ポータル全部開けちゃおうかな。」
ノコギリ先輩がそう言いながらホログラムを操作すると、先ほどの入り口から多くの人が次々と入ってきた。
ノコギリ先輩に挨拶をしながら、カフェテーブルのある方に向かい、それぞれ誰が勝つやら誰にいくら賭けたなどと盛り上がり始めた。
「おいっす、ノコギリパイセン!今日は開店が早いですなあ!」
ヒョロがりの男がこちらに手を振って寄ってきた。
「おっ、待っていたよー!黒田くん!今日は嬢ちゃんが期待のルーキーを紹介しに来ててね。」
彼のハンドルネームはエーミールで、ずっと家に引きこもりBBlabに張り付いてるネットオタクらしい。
「まあ、彼はそんなやつでね、まだ1度もBBでマッチングしたことないんだ。それでも前までは、賭け事だけでクリスタルランクまで行ったらしいが、今では50万以下だってさ。」
そんな紹介をされたエーミールは、笑いながら痩けた顔で握手を交わしてきた。
「ははっは、そんなこと言わんでください、賭けにちと負け続けてるだけですよ!…えっと、よろしくな!君が例のルーキーかい!ネットでは、君の噂が立ちっぱなしだ。今回のイベントでは君にすごく期待しているぞ!なんせ、あの嬢ちゃんを負かしたらしいんだからなあ、がっはは。」
「ど、どうも。」
体格のわりに声が大きかったので、少し驚きながらもあいさつを交わすと、楓が時計を見て席を立った。
「あ、そろそろ時間やばいかも、それじゃあ行ってくるね!」
もう開始時間が直前まで迫っていたことに気づくと、そのまま青白く光る細かい立方体が楓の体を包だし、その場から消えた。
「ちゃんと帰ってくるんだよ!ルーキーちゃんも楓をよろしくね!」
「え、あ、は、はい!」
僕もいつの間にか立方体に包まれ、手足の感覚が消えたと思うと、意識だけが暗闇の中へ残った。
◇
気が付く僕は、鉄の香りが漂う真っ暗な空間にいた。
「ここは…」
とうとうイベントが始まったようだ。
光源が一つもない暗闇の中で、少し平衡感覚がわからなくなりながらもあたりを見渡すが、天井から滴る雫が、水たまりを小刻みに跳ねている音だけ耳を伝う。
同じチームである楓の存在を確認するべく、とりあえず前に進もうとした。
「楓―、そこにいるのかー。」
…そのつもりだった。
「ん?なんだこれ。」
前に進もうと手を伸ばした瞬間に、両手から何か柔らかい感触が伝ってきたのだ。
手にフィットして、いつまでも触っていたくなるような…。
心の中で「もしや、これは…」と、何とは言わないが、とにかくアレであることに気づいてしまった。
「あんた、いつまで触っている気?」
楓の携帯端末から放たれたライトに目がくらみ、急いで手を離した。
視界が戻ると、咎めるような目つきでこちらを凝視していた。
弁明の余地がない。
「いや、これはその、違くて…。」
僕が戸惑いながら弁明を試みると、彼女はいたずらっぽく嘲笑い、前を歩き始めた。
「はいはい、あんたが年ごろの男の子だってことがよくわかりましたー。」
「だからそれは誤解で…。」
僕の言葉を遮るように彼女は、話を切り替えた。
「それより、早く進むよ!今回はダンジョンスポーンだったみたいね。この鉄さびた匂いは地下鉄の駅構内?」
彼女は辺りをライトでたらし始めて状況を確認し始めた。
「千代田線のホームっぽいけど。…文字がはがれて読めない。相当風化してるわね。C12って何駅かわかったりする?」
僕は慌てて、ホログラムで千代田線の路線図を確認する。
「えっと…たしか、新御茶ノ水?だったかな。…うん、新御茶ノ水であってる。」
「ありがと、じゃあとりあえずダンジョンノードとらないと外出れないから、サッサっと取りに行っちゃお。」
彼女は、小走りに階段へ向かい駆け上がっていった。
僕も、彼女を追いかけるように階段を登りきると、彼女が立ち止まっていたので慌てて止まった。
「そこにいるの、だれ!」
楓が大きな声で叫びながら、渡り廊下だと思われる細長い暗闇をライトで照らした。
その瞬間に途轍もなく鋭い殺意を感じたかと思うと、背筋が凍る間もなく大きな爆発音が響き渡った。
彼女は一瞬にして、鉄でできた厚い壁を張ると、廊下の向こうから鉛の弾が雨のように壁を叩き始め、激しい音を放つ。
僕は、この一瞬の出来事に息を呑みながら後方で立ち尽くすことしかできなかった。
【デスゲーム】Break Brain 翡翠 @kimijeep
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