3、秘密の始まり

あの時、なんで、私の瞳から涙が出たのか、私にも、さっぱり分からなかった。でも、何だか愛おしくて、懐かしくて、狂おしいほど抱き締めたかった。…抱き締めて欲しかった。


それから、私と謙信は、急激に惹かれ合った。


と言っても、それは、2人の中だけの話。そのことは、誰一人知らなかった。知られないように、私も謙信も、慎重に慎重を重ね、会うのは学校の外。それ以外では、話すどころか、目も合わさなかった。それは、からかわれたくないとか、冷やかされたくないとか、そんなんじゃない。


あの日…、あの入学式の日、帰り道で、謙信が、帰っている途中の私を追ってきたのだ。


「遠野さん!」


「!…ど、どうも…」


「ごめんなさい!」


「え?」


告白の次はごめんなさい?フラれたいのかフリたいのか、どっちなんだ、この人…などと思っていると、


「今日は、朝から、あんな変なこと言っちゃって…」


「…あ、あぁ…冗談でしょ?大丈夫。気にしてないよ」


「気にしてないなら良かったけど、でも、冗談ではないよ」


(冗談だから気にしてないんだってば!!)


少し、機嫌を損ねた私に気が付く様子もなく、謙信が続けた。


「僕…ちょっと、少し…、変わった力があってね…」


「は?」


(何言いだすの?あぁあ…好みは顔だけだったか…)


完全にスルー決定の謙信に、用事があるからと、歩くペースを上げると、謙信は、とんでもないことを言ってきた。


「僕は、数十年後に、また、君と巡り会う!」


「はい!?」


(50年後!?何言ってるの!?この人!!)


昔、これまた曾祖母がすきだったテレビドラマ、『10〇回目のプロポーズ』のセリフか?と、私は、少し怒りが湧いてきた。


「さっきから何の冗談!?自己紹介では恥かかせるし、不思議な力があるとか言うし、50年後にまた巡り合う!?意味わかんないよ!からかうんなら、他の子にして!!」


もの凄い勢いで、スカートを翻すと、私は走って自宅へ向かった。私は、陸上部の1000メートルの中学強化選手。そう簡単に追いつける人はいない。大爆走で家に辿り着くと、私は我が目を疑った。玄関の前に、謙信がいるではないか。


「ど…どうやって…い…いつの間に…?」


驚愕のあまり、声が出ない。だって、住所だって知ってるはずがないし、追い越された覚えもない。


「言ったでしょ?僕には変わった力があるって」


「え?」


「僕は、未来や過去を、行ったり来たり出来るんだ。でも、その未来や過去の人には、一切、僕の記憶は残らない。僕は、この力を持って生まれたが故に、一生生き続けなきゃいけないんだ…」


「…一生…生き…続ける?」


永遠の命。それは、みんな求める。


「すごいじゃん!!えー!!だったら、そんな顔することないのにぃ!!」


私は、何も疑うことの知らない子供のように、はしゃいだ。だって、そんなすごい力を持っているのに、これでもかってくらい、謙信は暗い顔をしていたから。


「…君は…やっぱり、素敵な子だ。僕の話を、最初はなから信じて、そんな風に言ってくれるなんて…」


「え…」


やっぱり、謙信の顔は、こわばったままだ。


「どうしたの?友永君…」


「謙信でいいよ。弓絃葉」


(呼び捨て!?)


何だか、いちいち癪に障る言い方や動作をする謙信に、苛立ちながら、それでも、どこか悲し気な謙信の瞳を見たら、どうにも、嘘ばかりついてる風には見えないし、まさか、弓絃葉をからかっているとも思えなかった。





「……少し、場所を、変えないかい?」


「え…うん…いいけど…」


その謙信の誘いに、私は、少し迷ったけど、「YES」と答えた。




「君には…言って置きたいことがあるんだ…」


「何?」


「さっき、僕は未来や過去を行ったり来たりすることが出来るって言ったろう?」


「…う…うん。でも!あの時は少しからかったって言うか、謙信のノリにノッテあげただけだよ?本気になんてしてないから!安心して!」


私は何も知らず、へらへらへらへら笑いながら謙信の隣にいた。公園の、ブランコ。もう夕方6時。4月とはいえ、6時にもなれば、暗くなるものだ。


「ヤバ!」


「どうしたの?弓絃葉」


「私、今日は、早く帰って弟の夕食作らなきゃいけなかったの!どうしよう!?」


「任せて」


「はい?」


そう謙信が言うと、謙信は、そっと私の体を抱いて、一呼吸置いた。……と思ったら、空が……明るい。


「これなら、間に合うでしょ?」


「……………これ……って……?」


腕時計を見ると、4時半を差していた。


「じゃ…じゃあ、謙信、貴方の言っていることって…」


「勿論本当さ。君がタイプだって事もね。でも、秘密だよ?バレたら…君は、時間の渦に巻き込まれてしまうから…」


「え…?」


「じゃあ、今日はこれで帰るよ」


「え、あ、ちょ!」



言いたいことだけ、やりたいことだけ、好き放題して、謙信は帰って行った。


「何…?あれ…」


私はしばらく呆然とした。その頭の中に、ただ一つ、異様に頭に残って離れない言葉があった。


『時間の渦に巻き込まれてしまう』


…どういう意味だろう?謙信が、まるっきり嘘を言うとは、もうこの状況下では考えられない。じゃあ、『時間の渦に巻き込まれて』しまったら、一体何が起きるの?肝心なとこ、教えときなさいよ!!


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