日の移ろい
年が明けて結婚したが、長くは続かなかった。
夫となった男の浮気。それをなじると暴力沙汰になった。
「別れましょう」と言うと、「ああ、出て行けよ。いつまでもほかの男のことを思っているような女、こちらから願い下げだ」
そうか、夫だけが悪いわけではなかったのだ、思い知らされ、実家に帰った。
一時は、気を紛らわせる為にも子供が欲しいと思ったりもしたが、子供ができなかったからかえって良かった。
賢治はどうしているだろうか、痛切に会いたいと思った。しかし、長野に行くことはためらわれた。
アメリカ橋を渡った。かつては、さほど混雑することもなかったが、ガーデンプレイスができて、その辺りも人が多くなった。街路灯や舗道にアメリカ橋というプレートがつけられていた。
新聞に藤田の記事を見つけて、今日はここまでやってきた。
初夏の風が頬を撫でて、日陰に入るとむしろ爽やかである。
それでも汗ばんでしまうのは、仕方ないところだ。
橋を渡って一つ目の小路に入ったところが、確か賢治のマンションではなかったか。
その一階が個展会場だった。
銀座で出会った時のことが思い起こされる。
今日も賢治はそこにいて、また懐かしそうに手を振ってくれるのではないか。
そんなことを想像しながら、入口のドアを押した。
受付で名前を書いて、中の様子を見ると、女性客がひとり。背を向けた男が説明をしていた。藤田だった。
「まあ、どうぞ、ごゆっくり」と言い、藤田が振り向いた。一瞬驚いたような顔して、すぐに優しそうな表情になった。今日、賢治は一緒ではないようだ。
「やあ、しばらくだね、本当によく来てくれた」
「ご無沙汰いたしております。もうお会いすることはないと思っておりましたが・・・」
「僕はね、会えると思ってました。会いたいとも、ね」
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